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あたたか魔王  作者: 石山
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4 反逆者ラッディジェム

「突然呼び出してすみませんね、ラッディジェム。かなりの量の魔物が勇者に倒され、我が君の守りが手薄になっておりまして」


 勇者襲来のうわさを耳にしてから、数日後。


 魔王城の一室で、俺はロッゼの前にひざまずいていた。


「いえ、魔王様の元で力を発揮できるなど、光栄のかぎりです」


 俺は深々と頭を下げる。


 俺は四天王ツーリアゲイトの部下だった、一介の魔物だ。


 ツーリアゲイトが勇者に倒されてから、しばらく各地を流浪していたが、この

たびめでたく魔王の側近であるロッゼに引き抜かれたというわけだ。


「では、勇者が来たら身を盾にして我が君をお守りするのですよ」

「はっ! お任せください」


 俺は礼をしてから退室する。


 扉をとじた瞬間、にやりと笑った。


 なんて幸運なんだ。

 魔王の首が、こんなにも近くにあるなんて。


「くく……」


 俺は、そもそも誰かの下につくような性格ではないのだ。

 魔王が強大であるから、甘んじてその地位についているだけだった。


 だが、風のうわさで魔王が勇者を二度も逃がしたと聞き、意外と魔王というのはたいしたものではないと思い始めた。


 幼い頃から魔王は強いと刷り込まれてきたからそう信じ込んでいただけで、事実は真逆であるかもしれない。


 というより、その聞かされた話も、今思えば現実味がなさすぎる。

 大地を割ったやら、海を割ったやら、空間そのものを割ったやら……

 何回割ったら気が済むんだ。


 そんなの、でたらめに決まっている。冷静に考えればわかることだ。



 ならば俺が、魔王に取って代わってみせる。



 よく考えれば、俺は魔王の姿さえ見たことがなかった。

 実は、意外と頼りない姿をしていたりしてな。


 口の端をつり上げながら、俺は薄暗い廊下を進む。

 今のうちに、魔王城の構造を頭に入れておかなくてはならない。


「――ん?」


 前方から、誰かの足音が近づいてくる。


 俺と同じく城を守る魔物か?


 立ち止まり、やってくる者を待ち受けていると、



「ロッゼか?」



 他者を威圧するような声とともに、姿を現したのは。


「!?」


 銀髪に真っ赤な瞳。頭にはえている二本の角、そして氷のように冷たい美貌。



 魔王だ! 絶対にこいつ魔王だ!



「違ったか、見ない顔だな」


 俺は慌ててひざまずく。


 こいつ、一目見ただけで魔王って分かる外見してやがる……


 かなり動揺したが、俺はまだあきらめていない。


 外側はそれなりでも、中身がともなっていない場合がある。


 こいつはそのパターンだろう。そうとしか考えられない。


「今日、魔王城に配属されたラッディジェムというものです。以後お見知りおきを」

「そうか、もう補充の時期か……」

 魔王はふと遠くを見つめる。

「いや、あの勇者のせいで、早まったのだな」


 魔王が消耗品を見る目を俺に向けた。迫力ありすぎだろ……


「ラッディジェム」

「はっ、なんでございましょうか?」

「勇者は一撃の元に魔物を蹴散らし、神速で玉座へ向かってきた。勇者を立ち止まらせることができたら、褒美を与えよう。我は強者を好む」

「ご期待に応えてみせましょう」


 俺は内心、べろりと舌を出す。


 勇者と対峙したのなら、なぜ逃がしたのやら。


 いや、逃がしたのではなく、魔王のほうが逃げたのか?


 どっちだろうなあ。


「それでラッディジェム、ロッゼはどこにいる?」

「ご案内します」


 俺は主君に忠実な臣下を演じる。


 魔王を連れて、ロッゼがいる部屋に戻った。


「こちらです、魔王様」


 俺は魔王のために扉を開ける。

 部屋にいたロッゼは、唐突に姿を現した主君に、目を見開いた。


「魔王様!? わざわざこんなところに足を運ばれるなんて。お呼びくだされば、すぐに向かいましたのに……」


 ロッゼはすぐさまひざまずく。

 なかなかいい眺めだ。


 魔王は少しの間ロッゼを見下げていたが、


「ロッゼ、貴様我に隠していることがあるだろう」


 空気が張りつめる。


「えっ……と、それは……」


 ロッゼの顔色が変わる。


 魔王は目を細めた。


 なんだこの威圧感。本当にこいつ弱いのか、自信がなくなってくるんだが……


「か、隠しているというのは、な、なにを……?」


 冷や汗を流しているロッゼを見て、俺はのどを鳴らす。


 あきらかに俺は場違いだが、足が動かない。

 もし出て行くときに音をたててしまったら、もし魔王がその音を聞いたら、もし怒りがこちらに向いたら。


 それに、魔王の内面をはかりたい気持ちもあった。


「ほう、はぐらかすか」


 魔王の右手に、巨大な矛が出現する。


「お、お待ちください魔王様ちょっとまっ痛いいいいいい!?」


 ロッゼを矛で殴り飛ばした魔王に、俺はあっけにとられる。



 こいつ、何のためらいもなくやりやがった……!



「ロッゼ貴様、連れ戻そうと画策しているな?」


 連れ戻す? 誰をだ?

 思案をめぐらせたいところが、魔王の地の底から響くような声が恐ろしくて、考えがまとまらない。


 ロッゼは体勢を立て直すと、魔王を見上げる。


「な、なぜそうお思いになったのです魔王様?」

「しらを切るつもりか」

「そのようなことは……で、ですが、まだ少しだけ、少しだけ計画していただけの段階でしたのに……」

「夜な夜な欲求不満だなんだと暴れ回られて、気づかないわけあるか」

「うっ、だっていきなり取り上げられたらそりゃぎゃああああ!」


 またロッゼはぶっ飛ばされる。


 俺は冷や汗が止まらなかった。


 ロッゼといえば、魔王に次ぐ実力者と言われている。

 こんな仕打ちをして謀反をおこされるとは考えないのか? 勇者が接近している今、内紛は避けるべきなんじゃ……。


 つーかこいつら、一体何の話をしているんだよ!? 欲求不満? あっち系の話なのか? こいつら初対面の俺がいる前で下世話な話してんの? なんか倒せそうな気がしてきたんだけど!


「ロッゼ、そのようなことを実行すれば処刑はまぬがれぬぞ。分かっておるだろうな?」

「それでもやらなくてはならない戦いがのぐうっ!?」

「貴様は我が顔に泥を塗るつもりか……?」

「そんな滅相もありません魔王様……! 今のはちょっとした冗談ジョークです! ですがこちらとしてもけっこうきついんですよ! いきなり全員手放された気持ちが分かりますか――って矛振り上げないでやめおぶふううう!?」

「知るか」

「はあ……はあ……いっそのこと全員処分してくれたら、まだ吹っ切れたというのに……なぜあんな者にお渡しになられたのです? 魔王様の威厳がそこなわれるやもしれませんのに」

「気まぐれだが?」

「身もふたもない!」


 なんかよく分からないが、こみいった話をしているようだ。


 俺はロッゼに哀れみの目を向ける。

 あんなにぶっ飛ばされて、俺なら絶対に謀反をおこしているぞ……


 その時、俺はふと違和感を覚える。


 魔王はただ同じ場所に矛を振り下ろしているだけだというのに、向かう先には必ずロッゼがいる。


「…………あ」


 俺は気づいた。


 ロッゼのほうから当たりに行ってやがる……!


 何のプレイだよ! マニアックすぎるだろ! 魔王はともかくロッゼはただのドМじゃねーか!



 想像を超えた主従関係を見せつけられたが、俺はまだあきらめてはいない。


 暴君というだけで、つけ入る隙がないわけではない。

 いや、むしろ暴君だからこそ、隙がある。


 他者の心を考えられない者には、相応の最期があるものだ。


 俺は希望を胸に抱きながら、早くこのプレイが終わるように祈った。

オチがついたのでここまで

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