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あたたか魔王  作者: 石山
3/20

↑の続き

「あ、あれ? あれれ?」


 ロッゼは床に顔を突っ込んだまま、くぐもった声を上げる。


「どうした?」

「いや、その、抜けなくて……」


 ロッゼは床にめり込んでいる顔を、必死に抜こうとする。


 じたばたと暴れるが、びくともしない。

 これでもかなりの手加減をしていた魔王だが、それでも力が強すぎたらしい。


「あの、魔王様……お力を貸してくださいませんか?」

「…………」


 魔王は玉座に頬杖をついた。

 顔を床に突っ込んでいるロッゼを、じっと見る。


 ふと、首を傾げた。


「このような形のものを、どこかで見たことがあるな」

「今やるべきはそれを思い出すことではないと思います!」


「……何だったか」

「いや魔王様! 私ピンチなんですよ! なんだか空気薄くなってきているんです! ここ空気が通らないくらい密閉されているんですよ! ちょっと苦しいです! 死にそう!」

「分かった、分かったから口を動かすな。余計に空気がなくなるぞ」

「抜いてくれるんですか……?」


 ロッゼは期待を込めて押し黙る。

 静かになったため、魔王はあごに手を当て、悠々とロッゼを眺める。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……何だったか」

「助ける気ないじゃないですかー!」


 側近は肩で息をする。

 穴の中にわずかながら残っている空気が、なくなってきているようだ。


「魔王様本当にお願いしますよ! 抜いてくれたら面白いことをしますから!」

「もうやっているだろうが」

「こっちが死にかけてる時にちくしょう反乱起こしてや――あああすみません思ってもみないことを口にしました追い打ちだけはやめてください!」

「分かるのか?」


 魔王は目にもとまらぬ速さで矛を振りかざしながら、側近の前に立っていたのだ。


 まったくの無音であったし、気配も消していたので、普通なら気づくはずがない。


 腐っても魔物のナンバー2かと、魔王が感心していると、


「いやなんとなく暗くなったなと思いまして。それで、魔王様が目の前に立ったから影ができたのかなと」

「理由が現実的すぎる。一生埋まっていろ」

「正直者が馬鹿を見るって本当なんですね!」


 ロッゼは酸欠で疲れ果てているらしく、ぐったりと床に身を投げ出す。

 苦しそうに、肩だけ上下していた。


「魔王様……ご慈悲を……」

「仕方あるまい。ロッゼの姿が何に似ているのか申せば、抜いてやろう」

「そんな……そもそも私今どんな感じになっているのか、分かりませんし……」

「ならば見るがよい」


 魔王はロッゼの首根っこを掴むと、あっさり床から引き抜く。

 指を鳴らし、つた妖精と呼ばれる全身がつたで覆われた魔物を召喚した。


「どうされましたか魔王さ――」

 魔王はつたで覆われた頭に矛を振り下ろす。


 つた妖精は悲鳴を上げながら床にめり込んだ。

 気絶したようで、力なく床に身を投げ出す。


「このような姿のものを、見たことがないか?」

「血も涙もない……」


 ロッゼは空気をむさぼりながら、自分の身代わりに哀れみの眼差しを向ける。


 と、無造作に魔王はロッゼの背中を押す。


「え、魔王さ――ごふぅっ!」

 ロッゼはつた妖精と同じ末路をたどった。


「いやなんでですか! なんでまた埋めたんですか!」

 くぐもった声でロッゼは抗議する。

 天から地の底に突き落とされた気分であるだろうが、魔王は表情も変えずに、


「見たのだからよいだろう」

「暴君の思考回路って怖い!」


 ロッゼは必死に頭を引っこ抜こうとする。

 だが、抜けない。

 心なし、以前より深くめり込んでいるような気がする。


「魔王様よく考えてください! 私って自分で言うのもなんですけど忠実な臣下だと思うんですよ! 魔王様のためなら何でもしますし! そんな信頼できる臣下を失うのは魔王様にとっても不利益になると私は考えます!」

「我は自分に従う者より、自力で床から首を抜ける強者を珍重する」

「実力主義の弊害がこの私の身に降りかかるなんて!」


 魔王に次ぐ実力者であるロッゼの、初めての挫折であった。


 絶望に打ちひしがれるロッゼを、魔王は見下ろす。


「そうだな、我は力だけでなく、知性も評価している。ロッゼ、問題を出す。それを当ててみせよ。正解すれば引き抜いてやろう」

「ほほほ本当ですか!? ありがとうございます我が君! どんな問題でもお任せください! 知識には自信があります!」

「今から我がとあるポーズをとる。貴様は我がどんなポーズをしているか当てよ」


「それ知性関係ないですよね!?」


 ロッゼは叫んだ。


「では今から体勢を変えるぞ」


 魔王は無視して矛を消す。


 手を顔のほうに持っていこうとした魔王に、ロッゼの悲鳴が飛んでくる。


「私めの話を聞いてください! この問題って絶対不正解になるじゃないですか!? 魔王様がちょっとでもおふざけなされたら、たとえ答えが分かっても魔王様の品格を落とす訳にはいかないので言えられませんよ!」

「意味が分からん」

「逆に魔王様は、目上の方が両手を頭に持ってきてサルの真似をされていたら、正直にサルの真似をしていますねって答えられるんですか!?」

「我に目上の者などおらんが」

「私は無理なんですよ! 敬愛する主にサルの真似ですか? って言えるわけないでしょう!?」

「…………」



 突然、魔王はロッゼの横を通り過ぎて扉に向かう。


 ロッゼは話に夢中で気がついていないようだ。


「それに魔王様は、絶対に少しおふざけなさるじゃないですか!? 魔王様ってお酒を飲んだら普段では考えられないほどお茶目になりますからね! 今だって誰も見ていないから、はめを外すに決まってます! 私にはわかるんですよ!」


 魔王は扉から出て行くが、ロッゼはまったく気づいていない。


 しばらくして魔王がなにかを抱えて戻ってくると、ロッゼはまだ喋っていた。


「どうせこぶしを顔の前に持っていって猫の真似でもなさっているんでしょう!? そんなの言えませんからね! 前に酒の席でそのポーズをなさった時は目をおおいたくなりましたから! 魔王様はいつものように冷酷非道であればいいんです! にゃーん!」


「…………」


 魔王は、別の部屋から取ってきた絵画に視線を落とす。


 かなりおどろおどろしい画風で、化け物が地面に頭をめり込ませた様子が描かれている。


「これであったか」


 魔王は満足し、指を鳴らす。

 床にめり込んでいるつた妖精が消えた。



 言わずもがな、ロッゼは埋まったままである。

次は勇者のターン

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