表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたたか魔王  作者: 石山
2/20

2 魔王と側近

「何だったのだ一体……」


 魔王は矛を持ったまま、呆然としていた。


 開け放たれた扉を見つめながら、今しがた起きた出来事を、なんとか理解しようとする。


 だが考えれば考えるほど、分からなくなってくるのであった。


「魔王様……」


 側近――ロッゼが入室してきたため、魔王は玉座に腰を下ろし、邪魔な矛を消失させた。


 ロッゼは浅黒い肌をしており、整った顔には刺青のような文様がある。

 黒髪に緑色の瞳をした優男、といった風貌だ。


「勇者は驚くべき速さで村に戻っていきました。追撃したのですが、討ち取ることができず申し訳ございません……」

「まんまと逃げられたわけか」

「は……重ねておわび申し上げます」

「ふん……なぜか勇者は我と戦うことなく逃げた。最強の勇者ともてはやされておるようだが、しょせんはうわさだったな」

「そのようですね。魔王様が出るまでもないかと。次は私めにお任せいただけないでしょうか?」

「よかろう。それにしても暇だ。何か面白いことはないか、ロッゼ」

「では……こっそりと人間の村に行き、雪像を見て回りましょうか? ふもとの村の雪像の技術はなかなかのものですし」

「雪のかたまりを愛でる趣味はない」

「でしたら、絵画をお描きになったり、楽器を弾いたりなどはいかがでしょうか?」

「……ロッゼ、貴様が芸術に通じているのは分かる。だが我は貴様の趣味を理解できぬ」

「たしかに絵画や楽器は人が生み出したものですが――」


「そうではない!」


 魔王は肘掛けにこぶしを下ろす。

 ロッゼは身をすくめた。


「なぜ貴様は絵や楽器なんぞをする時に、人間をそばに置くのだ! 魔王城の地下にかような弱き生き物が住んでおるなど、気色が悪い!」

「でっ、ですが魔王様! 見目麗しい男性がそばにいなければ、私の創作意欲がなえるのです!」

「一生なえていろ!」


 怒鳴り声を上げる魔王であったが、ロッゼはどこかうっとりと遠くを見ていた。


「見目麗しい男性……それはすでに完成された芸術品……それを見ると、私も頑張ろうって思えてくるんです!」

「芸術家肌の思考など知るか! なぜ人間を魔王たるこの我が養わねばならぬ!」

「そんな! 必要最低限のことしかしておりません! どうかお見逃しください!」

「貴様の必要最低限というのは、豪華な食事をとらせ、体をいつも清潔にし、こぎれいな服を着させることを言うのか!」

「そうでなければ美しくないではありませんか!」


 言い切ったロッゼに魔王は美貌を歪めたが、どうやら怒りを通り越して呆れてきたらしい。時間の無駄だと思ってきたというべきか。


「……我も百歩譲って、魔物ならば飼ってやろう。姿かたちのよい者を、貴様が連れて来い」

「何言っているんですか! 私は異種族特有の美しさにおぶっ!?」


 寛大な処置を拒んだ側近は吹っ飛んだ。

 魔王が矛を出現させ、彼をなぎ払ったのだ。


「明日からそうしろ。分かったな?」


 起き上ったロッゼは、魔王の前にひざまずく。

「しかしなが痛っ!?」


 反逆罪の道を着々と歩むロッゼは、柄の部分でいきおいよく殴られ、ばたりと倒れる。


 魔王が矛を離すと、側近は痛みにふるえながらも、いそいそと再びひざまずく。

 死ぬまで続きそうな気配だ。


「……ロッゼ。貴様の奇行は目に余る」

 魔王はため息を吐いた。

「これ以上人を増やそうものなら、貴様もろとも粛清するぞ」


 魔王は仕方なしに、ロッゼに譲歩したようであった。

 彼の性格上、ここでロッゼを粛清することもありえたのだが、昔なじみということで見逃したのだろう。


 ロッゼは深々と礼をする。


「かしこまりました……まああらかた集めたので、言われなくても増やしませんでしぐああああ!?」


 粛清一直線なロッゼは、矛の平らな面で打ちつけられ、床にめり込んだ。


 彼は魔王の側近として、この芸術趣味をのぞいて完璧であった。


 このようなロッゼの奇行により、勇者が盛大に勘違いをしたのだが、主従は知るよしもない。

オチがついたので続きは次回

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ