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あたたか魔王  作者: 石山
18/20

↑の続き

「それにしても、雪降りやまないな。寒くないかま……ま?」

「いや」


 魔王様はお強いから寒さなんて感じないのは当たり前だ。


「そうか、メアリーは?」

「私は大丈夫です! それよりそいつを気づかわないでください勇者様!」


 三人は雪の中、立ち止まって話し込んでいた。


 僕は少し離れたところで、彼らの様子をうかがう。


 正面に回り込んだから、魔王様たちの表情が見てとれる。



 その時、


 くしゅん、とメアリーがくしゃみをする。


 勇者は優しく笑いながら、メアリーの頭に手を置いた。


「寒いんじゃないかメアリー、どっか中であたたまるか」

「勇者様……お気づかいいただき、ありがとうございます」


 メアリーは顔を赤らめる。


 今まで見てきたけど、絶対メアリーって勇者のこと好きだよね。


「三角関係って、やだなあ……」

「なんか言ったツーリアゲイト……?」


 僕の呟きは、後ろにいるスリープケインの耳に入ってしまったようだ。


 僕は恥ずかしくなって、彼を無視する。


「風邪引いたらこまるし、ここから近い店は……」


 勇者はメアリーの頭を、ぽんぽんと優しく叩く。

 

 そして、口を開いた。


「そうだな……俺の家に行こう。いいよな魔王?」

「ああ」

「勇者様!?」


 僕は耳を疑う。


 勇者が魔王様を家に連れ込もうとしている!?


「なななななんでそのようなことをしようとするのですか勇者様!」


 僕と同じくらいメアリーは慌てていた。


「え? なんでって、お前が寒そうだから……」

「ですがその方も連れて行くつもりでしょう!?」

「そりゃあまあ……置いていくわけにもいかないし……なんでそんなに嫌なんだメアリー?」

「だって! 勇者様の家にそいつを連れ込むなんて! それなら私我慢します!」

「だめだ、そんなに寒そうなのに見すごせない」

「で、ですが……」

「俺の家にま……まを連れ込むことのどこが嫌なんだ?」

「それはその……ほら! 勇者様の居所がばれてしまったら、暗殺されてしまうかもしれませんし!」


「我はそんなことはせん」


 僕はぞっとした。


 魔王様の声色は、あきらかに嫌悪の情があった。


 怖い。


 怖くてたまらない。


 もし勇者を暗殺しようとしていることがばれたら、確実に殺される。


「ま、まお……そんなに俺のことを大切に思って……!?」


 勇者は黙ってて。


 僕は照れている勇者をにらみつける。


 魔王様は正々堂々勝負したいだけだから!


「大切? まあ言いようによっては大切だが……我は強者を好む」

「な……追い打ちかけるなよ恥ずかしいだろっ!」


 魔王様もまぎらわしいこと言わないで!


「と、とりあえず立ち話もなんだし家に行こう!」

「そうだな」


 勇者と魔王様は歩き出す。


 まずい! メアリーが焦りながら制止に入っているけど、両者とも心変わりし

そうにない!


「スリープケイン、緊急事態だよ! 魔王様が勇者の家にお入りになってしまわないうちに、勇者をやらなくちゃ……」


 僕は大慌てで勇者たちを追う。


 見失わず、かといって僕たちが追いかけていることがばれない絶妙な距離を保つ。


「ええ……大丈夫じゃない? ツーリアゲイトが想像していることにはならないよ……たぶん」

「いくら魔王様でも理解できないことをされたら固まるでしょ!? 僕たちが魔王様をお守りしなきゃ!」

「えー……そんないい加減に作戦を実行して、失敗したらどうするの? 魔王様にだけはばれたくないよ……」

「う、そうだけど……」


 僕は魔王様たちを追いかけながらも、悩む。


 ばれたらと思うと、二の足を踏んでしまう。


 いや、ばれてもいいのだ。


 魔王様をお守りできるなら、処刑されても本望だ。


 実行犯は僕だから、スリープケインは殺されるまではいかないと思う。


 殺されそうだったら、全力でかばうし。



 けれど、もし失敗して、その上魔王様にばれたら……



 だがその間にも、魔王様たちは進む。


「あ、あの先にあるのが俺の家だ」


 勇者が道の先にある一軒の家を指さす。


 僕は頭の中が真っ白になった。


「いいからやって!」


 勇者にしがみついて抗議の声を上げているメアリーを、僕は指さす。


 我慢できなかった。


 僕とスリープケインは、近くの家の陰に飛び込むと、


「やるって言わなきゃよかった……」


 スリープケインは指をぐるぐる動かす。


 器用に後ろ歩きをしていたメアリーが、びくりと立ち止まった。

 目から光が消える。


「ん? どうしたメアリー?」


 勇者がメアリーを見下ろす。


 メアリーはほほ笑んだ。


「……勇者様。家に行く前に、ちょっとお話ししたいことがあるので、来てくださいませんか?」

「んん?」

「どうか、されましたか……?」

「いや、なんか既視感が……前にも見たことあるような……?」

「ゆ、勇者様、急ぎの話なのです」

「ああ悪い。ま……まに聞かれたら嫌な話なんだな?」

「申し訳、ありませんが」


 スリープケインが口をぱくぱく動かす。

 メアリーはそれとまったく同じ口の動きをしている。


「分かった。ちょっと待っててくれま、ま」

「ああ」


 勇者はメアリーに連れられて、来た道を戻る。


 僕たちの横を通りすぎた。


 よし、完璧だ。


 このまま魔王様の目が届かないところまで、勇者を引き離す。


 そして、僕の水晶で一撃の元に葬り去ってやる!


「魔王様もきっと分かってくださるはずだ……」


 僕はちらりと魔王様のほうを見る。



 魔王様は勇者の家のドアを開けて、侵入しようとしていた。



「なんでそんなに積極的なのですか!」


 僕はとびっきり大きな声を上げてしまう。

 しまったと思った時には、魔王様は振り向いていた。


「なぜここに、貴様らがいる?」

「そ、それは……」


 僕は恐怖で身がすくむ。


「ツーリアゲイトって、ちょっと馬鹿なところが……あるよね」


 スリープケインの言葉が胸に刺さる。ごめんね……


「あれ? その裏口のドア開いてたのか? おかしいな、一度も開けたことないのに」


 勇者が騒ぎを聞きつけたらしく、戻ってくる。


 終わった。


 前門の魔王様、後門の勇者。


 生きて帰れる気がしない。


「――って、そこにいるのはツーリアゲイトか!?」


 勇者が僕の姿をとらえる。


 やっぱり顔の形自体はそれほど変えられないから、気づくよね……


 せめて、僕の後ろにいるスリープケインが見つからないことを祈るしかない。


「お前、生きていたのか……」

「ツーリアゲイト、貴様は我の獲物を奪うつもりか?」

「も、申し訳ありません……」

「スリープケイン、その人間の催眠を解け」


 ばれた。


 そうだよね、魔王様が見すごすわけないよね……


 スリープケインは家の陰から出てきて、催眠魔法を解く。


 メアリーは夢から覚めたように目をしばたかせると、びっくりしたように辺りを見回す。


 スリープケインはうなだれていた。


 僕は罪悪感にさいなまれる。


 僕が大声をあげたばっかりに……


「貴様ら、血を見たいようだな……」


 魔王様は窓から離れると、手の中に大杖を出現させる。

 雪が赤く染まりそうだ……


「ま、待て待てま……ま! 矛を収めてくれ! 村でそんなことはさせないぞ!」


 勇者が僕と魔王様の間に飛び込んでくる。


 僕はむっとした。


 勇者に助けられるなんて、嫌だ。


 それならいさぎよく魔王様に粛清されたほうがましだよ……あ、でもスリープケインがいるか……



 魔王様がじろりと勇者を見た。


「勇者よ、つねづね思っていたが」

「なんだ! 文句があるのか!」

「貴様は偽名の一つもつけられないのか」

「え」


 そっち!?


「ままと何度も呼びおって。我は貴様の母親か」

「えっ!? お母さんっていきなり飛びすぎだろお前――!」


 勇者はなにを妄想してるの。


「……飛びすぎ? 我はただ名をつけろと言ったまでだが」

「名づけ親……許婚!?」


 連想ゲームじゃないんだから、意味はまったく違うよ!



 魔王様は眉間にしわを寄せる。


「何をぐだぐだと……貴様は名をつけることもできんのか?」

「わ、悪かったな……ま……はどんな名前がいいんだよ?」

「変なものでなければ、なんでもよい」

「だ、だよな。名前って一生ものだからな!」

「一生もの……?」


 なんで魔王様の名づけ親になろうとしてるのあの勇者は!?


 魔王様の真名は僕も知らないけれど、名前がないってわけじゃないと思うんだ!


「我は偽名のことを言っているのだが」

「偽名でも愛情かけなきゃだめだろ!」

「そ、そうか……」


 勇者の理屈がわからないよ! 魔王様ももっと抵抗して! 納得しないで!



 魔王様は大杖を勇者に突き出す。


「話はそれたが勇者よ。我はその者たちに刑を施さねばならん」

「――!」


 勇者は顔を逸らす。

 僕も現実に引き戻されて生唾を飲む。


「ま、まあ、とりあえず茶でも一杯飲まないか?」


 勇者は自宅を指さした。

次回・お部屋デート

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