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あたたか魔王  作者: 石山
17/20

↑の続き

 広間を出て、すぐのことだった。



「そういえば、魔王は昼食もう食べてきたのか?」

「いや」

「おいしい煮込み料理を出す店を知っているから、まずはそこに行かないか?」

「よかろう」


 メアリーがぽかんとしているのを尻目に、魔王様と勇者は煮込み料理屋に入る。


 普通に向かい合って両者は座り、普通に注文して煮込み料理を食べ始めた。


 なにこれ……


「なんで和気あいあいと食べてるんですか!」


 魔王様と勇者が座っている席のテーブルを、メアリーは叩く。


 こっそり窓の外から様子をうかがっている僕も同意見だ。


 ちなみにスリープケインは「寒い」など「お腹へった」など言って、しきりに入店したがっている。無視だ。


「なんで敵同士がデートしてるの……魔王様、目を覚ましてください……」


 僕はできるかぎり顔を出さないようにしながら、なげく。


「ただ腹ごしらえをしているだけじゃ……ないの?」


 スリープケインが不思議そうに首を傾げる。

 段々むなしくなってきた僕は、返事をする余裕などなかった。



          ◇



「おいしかったな」

「ああ」

「感想言い合わなくていいですから!」


 僕たちは、村の中を歩いている三人のあとをつける。


 勇者が楽しそうに笑った。


 お腹がいっぱいで気分がよくなっている……だけと信じたい。


「食欲がないからいらないって言ったけど、やっぱり欲しかったのかメアリー?」

「違います!」

「ならなんでそんなかりかりしているんだ? ま……こいつが変な真似をしないかやっぱり不安か?」

「違います!」

「ならなんで……あ、そういえばまお――お前が頼んだ魚のやつもおいしそうだったな。次来た時はあれ頼もうかな」

「今食えばよかっただろう」

「えっ!? 料理を分けっこなんて! さすがに親密すぎるだろそれはっ!? 俺たちはて、敵同士なんだぞっ!?」

「勇者様違います! たぶん追加注文しろって意味だと思います!」


 僕はもう完全にメアリーを応援していた。


 常識的に考えても、魔王様が誰かに料理を恵むなんてありえないしね。


「別に恵んでやってもよいが……」

「「「!?」」」


 魔王様がさらりと言う。


 僕は心臓をナイフで貫かれたような気持ちになった。



 もうやだ……魔王様が勇者に優しすぎる……



「食べてもいいよって言ってるようなものじゃないか……」

「そう言っているじゃん……?」


 打ちひしがれている僕に、スリープケインの勘違いを訂正する気力はなかった。



          ◇



 魔王様と勇者は、あてもなくぶらぶら歩いていた。


 メアリーが一歩後をついていっている。


 なんで仲良く散歩してるんだろう……


 知らない人が見れば、友達同士としか見えないよ。


「ま、ま……せっかく村に下りてきたんだし、なにかやりたいことはないのか?」

「人のいとなみに興味はない」

「そうか……」

「面白きことはまだなのか? はっきり言うが、我は力にしか興味はないぞ?」

「ま、まあ落ち着けって。果たし状出しただろ? 明々後日に絶対に戦うんだからさ。今日は焦るなって」

「果たし状? なんだそれは?」

「え、出しただろ? あれ、届いてなかったのか?」

「……ロッゼめ」

「な、なんで今ロッゼの話になるんだよ」


 僕は家の陰に隠れながら、歯ぎしりする。


 果たし状とデートのお誘いを二つ出すことで、魔王様の戦う気をそぐつもりだとは!


「そんなことまでして、魔王様とのデートを長引かせたいの!?」

「ただ単に……魔王様を油断させる気なんじゃ……?」


 僕は勇者をにらみつける。


 おのれ勇者め!


長くなりそうなので区切りました

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