↑の続き
広間を出て、すぐのことだった。
「そういえば、魔王は昼食もう食べてきたのか?」
「いや」
「おいしい煮込み料理を出す店を知っているから、まずはそこに行かないか?」
「よかろう」
メアリーがぽかんとしているのを尻目に、魔王様と勇者は煮込み料理屋に入る。
普通に向かい合って両者は座り、普通に注文して煮込み料理を食べ始めた。
なにこれ……
「なんで和気あいあいと食べてるんですか!」
魔王様と勇者が座っている席のテーブルを、メアリーは叩く。
こっそり窓の外から様子をうかがっている僕も同意見だ。
ちなみにスリープケインは「寒い」など「お腹へった」など言って、しきりに入店したがっている。無視だ。
「なんで敵同士がデートしてるの……魔王様、目を覚ましてください……」
僕はできるかぎり顔を出さないようにしながら、なげく。
「ただ腹ごしらえをしているだけじゃ……ないの?」
スリープケインが不思議そうに首を傾げる。
段々むなしくなってきた僕は、返事をする余裕などなかった。
◇
「おいしかったな」
「ああ」
「感想言い合わなくていいですから!」
僕たちは、村の中を歩いている三人のあとをつける。
勇者が楽しそうに笑った。
お腹がいっぱいで気分がよくなっている……だけと信じたい。
「食欲がないからいらないって言ったけど、やっぱり欲しかったのかメアリー?」
「違います!」
「ならなんでそんなかりかりしているんだ? ま……こいつが変な真似をしないかやっぱり不安か?」
「違います!」
「ならなんで……あ、そういえばまお――お前が頼んだ魚のやつもおいしそうだったな。次来た時はあれ頼もうかな」
「今食えばよかっただろう」
「えっ!? 料理を分けっこなんて! さすがに親密すぎるだろそれはっ!? 俺たちはて、敵同士なんだぞっ!?」
「勇者様違います! たぶん追加注文しろって意味だと思います!」
僕はもう完全にメアリーを応援していた。
常識的に考えても、魔王様が誰かに料理を恵むなんてありえないしね。
「別に恵んでやってもよいが……」
「「「!?」」」
魔王様がさらりと言う。
僕は心臓をナイフで貫かれたような気持ちになった。
もうやだ……魔王様が勇者に優しすぎる……
「食べてもいいよって言ってるようなものじゃないか……」
「そう言っているじゃん……?」
打ちひしがれている僕に、スリープケインの勘違いを訂正する気力はなかった。
◇
魔王様と勇者は、あてもなくぶらぶら歩いていた。
メアリーが一歩後をついていっている。
なんで仲良く散歩してるんだろう……
知らない人が見れば、友達同士としか見えないよ。
「ま、ま……せっかく村に下りてきたんだし、なにかやりたいことはないのか?」
「人のいとなみに興味はない」
「そうか……」
「面白きことはまだなのか? はっきり言うが、我は力にしか興味はないぞ?」
「ま、まあ落ち着けって。果たし状出しただろ? 明々後日に絶対に戦うんだからさ。今日は焦るなって」
「果たし状? なんだそれは?」
「え、出しただろ? あれ、届いてなかったのか?」
「……ロッゼめ」
「な、なんで今ロッゼの話になるんだよ」
僕は家の陰に隠れながら、歯ぎしりする。
果たし状とデートのお誘いを二つ出すことで、魔王様の戦う気をそぐつもりだとは!
「そんなことまでして、魔王様とのデートを長引かせたいの!?」
「ただ単に……魔王様を油断させる気なんじゃ……?」
僕は勇者をにらみつける。
おのれ勇者め!
長くなりそうなので区切りました




