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あたたか魔王  作者: 石山
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9 勇者抹殺計画

 僕はヘビの頭をいじくる。


「皆さんにこうして集まってもらったのはほかでもありません」


 ロッゼが参列者一同を見回した。


 魔王城の会議室に、主要な魔物が勢ぞろいしていた。

 もちろん、四天王の僕とスリープケインもいる。


 薄暗い部屋は、なんとか近くにいる顔が分かる程度で、遠いところにいるやつは誰が誰だか判別できない。


 まあ、僕が記憶を失っている間に、かなり顔ぶれが変わっていたから、新入りもけっこういるだろう。



 このロッゼ主催の会議は、ずっと昔から行われていた。


 特徴的な点はただ一つ、魔王様がいらっしゃらないというところのみだ。


 魔王様のお耳に入れるほどでもないことを、ああだこうだと喋り合っている。


 ここで生まれた有益なことだけ、魔王様に聞いてもらうわけだ。


「やっぱり、今回の議題は最強の勇者なの?」


 僕は椅子に座りながら、髪代わりであるヘビを引っ張った。

 ヘビはちろちろ舌を出す。


 ロッゼが深々と頷く。


「はい、そのとおりです。先日、再び勇者が突撃してきましたが、配属した魔物は時間稼ぎにもなりませんでした」

「まあ、魔王様は強者と戦いたいんだしね。勇者がそれくらい強いなら、いいんじゃないの?」

「魔王様の意向で、無理だと思ったら引くようにとは命じてありましたが、あまりにふがいなさすぎる」

「僕やスリープケインが出れば、ちょっとはよくなると思うけどね」

「一度負けた方は、少し静かにしてもらえません?」


 ロッゼはにこりと笑う。


 僕はかちんときた。


 ロッゼは魔王様の側近にふさわしい優秀さだが、こういうところがあるから好きじゃない。


 四天王の皆と違って、あまり仲間意識が持てない。


「勇者と戦ってもいないのに……どうしてそんなに偉そうなの……」


 円卓にだらりと体を預けているスリープケインが、僕を援護してくれる。


 だがロッゼは手を叩くと、


「はい。その件でお話ししたかったんです」

「どういうこと……?」

「先日最強の勇者と、別の勇者が同時に襲撃してきました。その時、最強の勇者は、もう一人の勇者を守りながら逃走。魔王様は、最強の勇者の名は見せかけではないようだと、喜ばれておりました」


 うわさでは、最強の勇者は魔王様の猛攻をふせぎきって退散したらしい。


 いくら魔王様がお遊びで手を抜いていたからといって、にわかには信じられないことだ。



 ロッゼがスリープケインに冷笑を投げかける。


「ちなみに、魔王様のご命令で私は手を出しませんでした。命令はちゃんと果たすべきですよね?」


 皮肉を言うロッゼに、僕は頑張って笑いかける。


 ちらりと僕のほうを見たロッゼは、笑い返す。


 本当にむかつくやつだな。


 魔王様の損になるから足を引っ張ることはしないけれど、さっさと死ねばいいのに。


「それでなに? 魔王様の戦意が上がったなら、それでいいじゃないか。僕達の士気も上がるし」


 僕は早くこの話題が終わるよう願った。


「たしかにそうですが、だからといって手出しするなという魔王様の命令に従い、ただ突っ立っているわけにもまいりませんでしょう?」

「あれれー? 命令はちゃんと果たさなきゃだめじゃないのー?」

「臨機応変な対応をしないから、魔王様の側近に取り立てられないんですよ?」


 僕達はにこにこ笑い合う。


 かなり僕の笑顔は引きつっていたが。


 あんまり調子に乗っていたら、本当に蹴落としちゃうぞっ。


「私は最強の勇者に対して、警戒心を強めているのです。彼の行動は分からない点が多すぎます」

「中々魔王様と戦わないところ?」

「はい、戦う気はあるようなのですが、なぜか戦わない。不気味すぎます」

「じゃあ本当は戦う気がないんじゃないの? 魔王様を前にして怖気づいたんだよ」

「私はそうは考えていません。ちょっとこれを見てください」


 ロッゼは懐から、封が開けられている手紙を取り出す。

 折りたたまれている羊皮紙を伸ばし、円卓の上に投げる。


「これは雪山にいた魔物の背中に張りつけてあったものです。いつこんなことをされたのか、まったく分からなかったらしいです」

「ふうん、なんて書いてあるの?」


 僕は身を乗り出して、手紙を見る。




 魔王へ

 何回か会っていますが、こうして手紙を書くのは初めてですね。

 書き物は苦手ですが、こうでもしないと踏ん切りがつかない気がしたのです。

 あなたは、どうしていつも会っているのに、いつも僕が逃げてしまうのか、疑問に思っているかもしれません。

 僕もあなたと向き合いたいのです。

 ですが、あなたを見ていると、顔が熱くなって、結局戦えなくなる。

 ですからこうして手紙を書き、自分を追いつめたのです。

 魔王、明々後日にまた、魔王城で会いましょう。

 今度こそ、頑張りますから、会ってください。

 勇者より




 手紙にはところどころ消して、書き直した跡があった。それにとても丁寧な字で書かれている。



 ロッゼが鼻を鳴らす。


「このような果たし状を出す輩に、闘志がないなんて言えませんでしょう!」


 僕は押し黙る。



 ……え、なにこの告白の呼び出し?


 ねえこれ呼び出しだよね? 告白する感じだよね? 僕、こんな感じの手紙を女の子にもらったことあるよ? なんでロッゼは生真面目に怒ってるの? 皆、この場の空気に呑まれてつっこめないだけだよね? あれ? 僕がおかしいの?



 僕が自分の感性を疑っている間に、ロッゼは手紙をこんこんと指で叩く。


「それに勇者はなかなか威勢がいいですよ。まずはお前から倒す! なんて私に言った時の瞳をあなた方にも見せたいものです」

「あ……ロッゼって、ずっと魔王様のおそばにいるから……」

「? どういう意味ですか?」

「い、いやなんでもないよ……」


 僕は視線を逸らす。


 ちらりとスリープケインを見たが、彼は円卓に突っ伏して居眠りしていた。


 孤立無援ってこういうことを言うんだね……


「ねえロッゼ、もしかして勇者って男色の気が――」

「だというのに、勇者はなぜか角や羽根を集めるために放浪したかと思えば、長期滞在を見通して家を買う。部屋には漆黒の鎧なんかも飾ってありました。意味が分かりません!」

「ピンポイントじゃん……」


 みんな真剣な顔してないで目を覚まして! 全部魔王様の特徴だよ! 気づいてないわけないじゃん! ねえみんなあ!



 ロッゼは、円卓に身を乗り出す。


「というわけですので、勇者を魔王様に近づけてはいけないと私は判断しました。私達で暗殺しましょう」


 僕は立ち上がる。


「賛成! 今すぐとりかかろう!」


 ロッゼは意外そうな顔をした。当たり前だ。僕がいつも真っ先に彼に噛みついているのだから。


「これはこれは……あなたが魔王様の意に沿わない作戦に賛同するとは思いませんでした」

「いいから行くよ! 今すぐ!」

「え、ですが体勢を整えてから――」

「スリープケイン起きて! 勇者を抹殺しに行くよ!」


 僕はスリープケインを引きずって、会議室を出て行く。


 早く殺さなきゃ! もちろん魔王様が勇者の手に落ちるわけないけど、近づくことさえ耐えられない!

続きます

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