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あたたか魔王  作者: 石山
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7-2 勇者、本を読む

「俺ってやつは……」


 自分の寝姿にショックを受けた俺は、心が多少折られていた。



 ベッドのそばに移動させただけなのに、なぜ起きていた時には抱きついていたんだ……



 俺は重い足どりで、道を歩く。


「そんなに落ち込まないでください勇者様! 暗い顔をしていると幸せが逃げていってしまいますよ!」


 メアリーが俺の隣で、はきはきと喋る。


 俺はメアリーに連れられて、店が立ち並んでいる通りを歩いていたのだ。


 彼女は、気分転換をさせようとしてくれているのだろう。


「ありがとうなメアリー……」

「そ、そんなっ……私はただ勇者様に元気になってほしいだけで、感謝されることなんて……」


 メアリーはもじもじする。

 恥ずかしがっていてほほえましい。


 なんて可愛さだ。


「わ、私、勇者様のこと、本当に、その、お慕いして――」

「ん?」


 俺は立ち止まる。


 あるものが目に留まった。



「ここは、本屋?」


 小さな本屋があった。


 窓から、本がぎっしり並べられているのが見える。



 一瞬だけ、気になる題名が見えた気がしたのだが……?



「そういえばメアリー、何か言いかけてなかったか? ちょっと気を取られて最後まで聞いてなかったんだ」


 俺はメアリーに向き直る。


 メアリーは湯気が出てきそうなほど顔を真っ赤にした。


「い、いえ! なんでもありません!」

「なんでもありそうな反応だが……?」

「ゆゆゆ勇者様はこの本屋にお入りになりますか!?」

「ああ、ちょっと寄ってこうかなーなんて……」

「入りましょう! 面白い本がいっぱいですよ!」

「メ、メアリー!?」


 メアリーは俺をぐいぐい押す。


 ほとんど強引に俺は本屋に入店した。



 本の香りが鼻をくすぐる。


 見渡す限り、どこもかしこも本棚だった。ぎっしりと本がつまっている。


 背表紙を見ているだけで時間がすぎてしまいそうだ。


「な、なにか面白そうな本はありますか?」


 メアリーはまだ顔が赤い。


 一体何を言おうとしていたんだ?


「ああ、そうだなー……」


 俺は本屋を見て回る。


 なんとなく気になった題名の本を、手当たりしだい手にとった。


 題名をあらためて見ると、



『恋の始まりは勘違い!?』『恋する勘違いお姫様!』『恋するあなたに~気になるあの人を射止める999の方法とやっちゃいけない勘違い恋テク~』『自分に対して恋心を抱かせる勘違いの魔法の極意』



 俺は自分にどん引きした。

「なっ……なんで全部に‘恋’って字が入ってるんだよ!?」

「別の字が入っていることにも注目してください勇者様!」


 メアリーが何を言っているのか分からないが、俺は恥ずかしくなってきて、手で口周りをおおった。


 彼女から目を逸らす。顔が熱かった。


「こ、恋なんて俺、してないし……な、なんでこんなものが気になったんだよ……そりゃ、誰か特定の相手で頭がいっぱいっていう状況は恋に似てるかもしれないが……だ、だからって、こ、恋はないだろ……もう!」

「私の声が届いていないなんて!」


 俺は両手で顔をおおう。俺ったら恥ずかしい!


「い、いくら魔王が俺の初恋の相手と似てるからって、魔王は魔王だし……! そりゃあ最初はちょっとびっくりしたけど、やっぱりこの胸の高鳴り(闘志)は本物だ……! 俺はサクロ先輩じゃなくて、魔王がいいんだ! 魔王じゃなきゃだめなんだ! 魔王に(戦うために)会いたい!」

「店のど真ん中で告白しないでください心が折れそうです!」


 俺はメアリーが本を元に戻そうとするのを制止し、


「おのれ魔王!」


 本をすべて本屋のご主人の元へ持っていく。


 ま、まあせっかく本屋まで来て、なにも買わずにいるっていうのも、あれだしな。



          ◇



 その日の夜、自宅にて。


「待ってろよ魔王! 本を読んで気分転換したらぶっ飛ばしに行くからな!」


 俺は『自分に対して恋心を抱かせる勘違い魔法の極意』という魔導書を読みながら叫んだ。

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