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プロローグ 3月 11日

 



この作品はフィクションですが、一部事実が含まれます。

また、序盤の舞台を2011年の関東地方としているため、

冒頭を含め、3.11の場面を用いるシーンがございます。

感情を害される方がいらっしゃいましたならば、この「姫路屋」、心よりお詫び申し上げます。


あの震災では、東北地方を中心とする地域でかってない甚大な被害を受ける事態となりました。

被災されました皆様に対しまして、心からお見舞い申し上げます。


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 どうも、フシミと申します。

 銀色の毛並みがちょっとした自慢の、雑種の猫でございます。

 何処で生まれたかなんて、全然覚えていません。ですが飼い主の一人がいうには、私が子猫の頃にキャベツ畑で拾ったとか。

 そんなモト野良猫の私がお送りいたします、2人の飼い主の生活をちょっとお楽しみください。




 プロローグ  3月 11日





 …何かがおかしいです。

 ここ数日、首筋から尻尾の先までも、ザワザワと疼く様な違和感がとれません。

 こんな感覚、…何でしょう。胸騒ぎがします。絶対に異常事態です。

 だって、あのアカリがおめかししているんですもの。きっと、これから起きる何かの前触れです。

 クリスマスイブに彼氏を自宅に呼んでも、シマムラで400円のヨレヨレシャツを着て、完全ノーメイク。髪の毛のボサボサのあの娘が、


「えへへ、ねぇフシミ、これとこれ、どっちがいいかなぁ、ねえねえどう思う?」


 …ネコの私相手にファッションチェックを求めています。

 いえいえいえ、流石にアカリも、本気で私に意見を求めていはいません。ですが、


「ふふ~ん、やっぱりこれよね。大人の女の魅力で攻めるべきよねぇ」


 お昼過ぎから2時間。ずっとこんな調子です。


 なんでも、「プロポーズのやり直し」をするそうです。

 …プロポーズはすでに受け入れていて、二人で暮らす家も探している最中なのに、カッコ良くなかったから「やり直す」そうです。

 確かに、たまたま同席していたネコの私から見ても、あの時のプロポーズはカッコ良くありませんでした。ですが、…人間の求婚はよく解りませんが、プロポーズって何度もするモノなのでしょうか?


 ともあれ、私の飼い主である福山燈(アカリ)は、ここ数年間押し入れに放しだった、流行りの過ぎた服を引きずりだして、あれやこれやと選んでいました。

 …って、無意味にフリンジの付いたデザインが流行ったのって何年前ですか? それいったい何時頃の服でして?


「あっでもでも、こっちの組合わせの方が、いろんなシーンでも映えると思うのよね。そうでしょ」


 素晴らしいチョイスです。流石もと広告デザイナーだけに、色彩感覚は素晴らしいと思いますよ。…ですけど、…サイズ無理ですよ、それ。

 あなたこの一年で、どれだけ体重と体積が増えたとお思いですか?

 ああ神よ。この哀れな子羊をお救い下さい。


 あんまり過ぎるアカリの醜態。

 私は卑しいネコの身でありながらも、アカリの行く末を案じて、天にいまわす神とその御子に祈りを捧げずにはいられません。

 その時です、私の祈りが天に通じたかの様な、低く細かい震動が足元から伝わってきました。

 それは初め、ゆっくりと、本当にゆっくりと細かい揺れ幅を増していきました。

 地震。

 この地に住まうものとして、ごくごく自然にそう認識して、いくぶん長いのかしら? と思い浮かべた瞬間、それは姿を変えました。

 突如として、世界の全てをかき混ぜようというのか、激し過ぎる横揺れとなり襲いかかってきました。

 揺れが大きい。そして速い、――速すぎます。信じられないくらいの速度で、世界が波打ちシェイクされ続きます。

 代々農家をやっている福山の家は、少々古い日本家屋。建物全体が軋みを上げ、家具が明確な方向性をもって踊る様に揺れています。


「って、え、ええっ!? どうしっ、ちょっ、うっ、ひっ、ひっ、ひきゃーーーっ!!」


 アカリは一瞬悩んだ様子。日本人としての地震経験は、反射的に「机の下に隠れる」を選択するも、この規模の揺れに対しては、彼女の本能が逃げろと叫んでいる。外に逃げろと叫んでいます。

 ですが、彼女が咄嗟に取った行動は、激しく傾くタンスを押さえ付ける…というよりも、単にしがみついているのか、よく判らない行動でした。

 あぶないっ!!  タンスの上の荷物が、次々に彼女上に落ちてきます。しかも押さえているのに、タンスが揺れに合わせて前に迫り出すように動いています。

 もう無理です。早く逃げてください。

 そう叫ぶ私ですが、自分自身も足がすくんでしまい、部屋の隅から動けずにいます。

 ただ叫ぶ事しかできません。愚かな犬の様に、この甲高い声を上げる事しかできません。


「大丈夫、大丈夫だからフシミ。ベッドの下、ベッドの下に行きな。ほら」


 そんな私にむかって、アカリは自分の顔が恐怖に引き攣っているのに、無理に頬笑みかけてきます。頭の上から、タンスの上載せていた古いCDや小物を被っているのに、懸命に柔らかい声をかけ、私を誘導しようとしています。

 なのに私は身動きもとれず、恐怖にまかせ叫ぶしかできませんでした。



 …5分だったか10分だったか…もう時間の感覚なんて判る筈も無く…気が付けば揺れは止まっていました。けれど、


「と…止まった…よね? 」


 思わず、誰かに確認したくなってしまう状況。散らかり放題で、ありとあらゆる物が散乱部屋の中、私もアカリも茫然としていました。

 その息を潜めた様にな静寂を、突然の電子音が切り裂きます。


 飛び散った画材や手芸道具の下あたりから、携帯電話が着信を告げていました。

 文字道理、アカリは携帯電話を掘り起こしてすがるように飛びつきます。


「タケルさんっ!! うん大丈夫、怪我は無いよ、そっちは、え?…え、え? …そうだね、……うん。……繋がりにくいかも」


 ああ、どうやら結婚相手のタケルからの電話みたいです。揺れの最中から電話をかけて、ようやく繋がった様子です。

 …ですが、二言三言話しただけでアカリの様子が急変します。


「あれ、どうしたの?……倒壊…苛性ソーダのタンク? ふぇ…停電…えっ!? ちょっ、あっ!! ねぇっ!! ねぇっ!! 」


 電話が切れた。それも互いに意図していないタイミングで、強制的に切れてしまった。…そんな事がネコの私にだって解るくらいに、アカリは急いで携帯電話を操作。着信履歴の一番上の番号にかけ直しています。

 …それはきっと直ぐには繋がらない。そんな予感がしてなりません。

 ネコの私には、携帯電話の仕組みなんて、これっぽっちも解りません。けれど今、アカリがどんなにボタンを押しても、なれないタッチパネルを操作しても、声を聞きたい相手には繋がらない。言葉を届けたい相手には届かない。そんな予感が漂ってきています。

 それは、アカリの手の中の黒い携帯電話ではなく、窓の外…周囲の畑や雑木林を、町全体を覆いつくす空気から漂ってきていました。


 これは異常事態なんだと…。




「小説家になろう」初投稿と、文章のリハビリになります。

ご指摘などありましたなら、どうかよろしくお願いいたします。

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