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-5- 霞の森独身女子の会

河川敷でホリーと出会った、そのあと。

ホリーに連れられてやってきたのは霞の森学園の職員用駐車場。

そこには深咲の給料では手が出そうにない高級車があった。色も落ち着いた色合いで趣味のいい車だった。

助手席のドアを開けたホリーは笑顔で乗るように言う。


 ここまできて断れるはずもない、か。


「ありがとうございます。」


待ち合わせ時間まであと10分。歩いて20分ほどなので、車で行くなら十分間に合うだろう。

車内ではさぞかし沈黙の苦しい空気が流れるのだろうと思っていたら、ホリーはさっきわたしが遮って語れなかったぶんだろうか饒舌だった。

運転するのはホリー自身で、周りに聞き耳を立てるような人もいないので万が一ホリーがぽろっと機密事項を話してしまっても聞かなかったふりをすればいいだろう。

…こんな狭い密室で聞かなかったふりというのも、無理があるとは思うが押し通す気である。


「貴方の家にお邪魔した日、久しぶりに日本に戻ったんです。

 それ以前に日本に来たのが、息子の卒業式の日だったので、2年前、だったでしょうか。

 その卒業式の日は忙しかったので、家に行くことはできませんでした。

 あの日は祖母に逢えると思って、父には内緒で行ったんです。

 まさか、亡くなっているとは知りませんでした。

 あの後聞いたのすが、父は祖母の葬式の後に彼女の弁護士が来たので知っていたそうです。」


イケメンは何をやってもかっこいい。車の運転をさせると、更にかっこいい。

そんなことを考えながらホリーの話を聞いていると、最後にあきの弁護士の話が出てきた。


「南葉さん、晶一さんのところに行ったんですね。

 まぁ、そうですよね。遺留分が確定しないと、贈与とかできないですし。

 南葉さんからは、晶一さんが遺留分は受け取らないとおっしゃったとは聞いてはいました。」


わたしがそう答えると、ホリーはちらりとこちらを向いてすぐに前を向いた。


霞の森駅前、桜兎の前のロータリーに無事辿り着いた。

心の中でホッと息をついていると…


「そうだ。これ」


スーツの内ポケットから何かを出して差し出されたので受け取ると、それは名刺だった。


「また、お話させてください。

 そこに印刷してあるのは仕事用の番号なので、裏に書いてある方に連絡をお願いします。」


見ると名刺の裏にはきれいな字で携帯電話の番号と、その電話のメールアドレスが書かれていた。

にっこり微笑むホリーに「え、あー…はい。」とつい答えてしまってから、ドアをあけてロータリーに出た。


 またもやイケメンのアドレスと電話番号を手に入れてしまった。


車から降りて呆然としそうになるが急いで気を取り直す。

これから女子会に参加するのだ。ぼうっとしている暇はない。

時間を確認すると6時28分。待ち合わせの時間には間に合った。


ロータリーから集合場所の桜兎(さくらうさぎ)の像の前に行く。

桜兎の像は霞の森駅の待ち合わせスポットである。花霞郡ということで桜なのはわかるが、なぜ兎なのかはよく知らない。たぶん、制作者の趣味なのだろう。


ゲーム内でも桜兎の像は出てきていたので、この()()()とはゲーム『製作者』であり、またこの像を現実に作ったデザイナーである『製作者』でもある。

ゲームがありきのこの世界なのか、この世界ありきのゲームなのかについては、ニワトリが先か卵が先かの問答と同じ事だろうと思う、考えてもしょうがないことだ。




像の前で待っていたのは井尻先生だけだった。

井尻優奈先生は今回の女子会のメンバーでは最年少の24歳。

おっとりお嬢様系美人な数学の教諭である。


わたしの姿を見て、ホッとしたような顔をして手を振った。

早めに来ていたので、ナンパとかキャッチとかに捕まりそうになったりしたんじゃないだろうか。


 もう少し早く来てあげればよかったなぁ。



それから少し遅れてきたのが、槙蓮歌先生。

お姉さま系美人。27歳。英語の教諭である。

グラマー(文法)の先生だ。そしてスタイルもグラマーだ。うらやましい限りである。


最後にやってきたのが、わたしを女子会に誘ってくれた斉賀るき先生31歳、公民の教諭。

さばさばした性格で、男友達も多いけれど、なかなか恋人や結婚にはならないのはどうやら、男友達とはお互いが男同士のような関係らしく、そういう雰囲気にはならないのだと聞いたことがある。


そこにわたし青柳深咲 30歳が入り、霞の森独身女子の会である。

平均年齢28歳。……井尻先生が平均年齢を下げてくれている。


斉賀先生が予約を取ってくれていたのは、イケメン店員のいるというフレンチのお店だった。

イケメンだらけのこの世界において、『イケメンのいる店』とはなんだと言われそうではあるが、イケメンの中のイケメンということなのだろう。

わたしとしては、もう世界中がイケメンばかりなんだからそこら辺の居酒屋でも変わらないのだが、彼女たちはそうでもないようだ。


 わたしとしてはイケメンでお腹いっぱいになりそうです…。


斉賀先生の乾杯の音頭から斉賀先生を筆頭にみんながぐいぐいとお酒を飲んでいる中、わたしはというと。


 味唯のわたしの体はともかく、深咲のこの体はお酒に強いのだろうか?


そんな不安があったので、ゆっくりとちびちび飲んでいる。

斉賀先生が「ちびちびなんて飲まずに、ぐいっといっちゃいなよ~」と煽ってくるのだが、そこは大人として家に帰るまでが女子会。


 帰れなくなっても、迎えに来てくれるような彼氏も旦那もいませんので!

 …それはたぶん、ここにいる4人全員に当てはまることなんですけどね。


女子会では最初は仕事のことについてを話していた。

3年生が卒業して、来月から在校生たちも一つ学年が上がるこの時期の永遠のテーマ…というと言いすぎだとは思うが、必ず上がる話題。


【来年度は何年の担任になるか】


毎年のことだが、この話はなかなかに盛り上がる。


 去年は1年の担任だったわたしはたぶん2年になるだろうな。

 従姉弟という関係のある耀也くんがいるし、1年生の担任にはならないとは思う。

 この女子会の中でわたしの従弟が入学してくるなんて話はしないけれど。


さて、お酒があまり入っていない状態では真面目な話が多かったのだが、徐々に()()が緩んできたようである。

わたしはちびちびとゆっくり飲んでいるので、あまり素面(しらふ)と変わらない。


「ねぇねぇ、最近浮いた話無いの?浮いた話!」


斉賀先生がにこにこ笑いながら、一人一人の顔を見渡す。


 来た、コイバナ……。


「ねぇ、槙せんせーはこの前は気になる人がいるって言ってましたよね?」


斉賀先生の最初の餌食は槙先生だ。

槙先生は男性にモテるのだが、付き合っている相手はいないと言っていた。

どうやらわたしの参加していない時の女子会に「気になる人」の話をしていたようである。

あのモテモテの槙先生が気になる相手ってどんな人なのだろうなと思いながら、カルパッチョを口に含む。


 んー、おいしいっ!でも、カルパッチョってイタリア料理なんだっけ…。

 フレンチといっても、創作フレンチみたいなカジュアルな感じだからアリなのかな。


口をもぐもぐさせながらカルパッチョについて考察していると、斉賀先生がピッとわたしにフォークを向けた。


「ちょっとぉ、ねぇ。青柳先生はどうなんですか?」


「うわぁっ、危ないですよ。フォークを人に向けちゃだめですよ。えぇと、何が()()なんですか。

 あ、槙先生の思い人についてですか?わたしの予想では~……」


カルパッチョを口に含む前に話していたことを言うと、違う違う!と斉賀先生が怒る。


「違うでしょー!青柳先生が女子会に参加していなかった理由ですよ!」


カルパッチョについてそこまで長い間考えていなかったはずなので、槙先生は斉賀先生の絡みをスルーしたから、すぐにわたしへと標的を変えたのだろう。

ぷんぷん という擬音が聞こえてくるような斉賀先生に苦笑をもらしつつ、ふと視線を感じてそちらを向く。

そこにはさっきまで斉賀先生に絡まれていた槙先生がいたが、深咲が振り向くとすぐに目線を外した。


不思議に思いながらも、斉賀先生に視線を戻す。


「いや、ちょっと部活のこととかで忙しかったんですよ。3年生の子たちにはその道に進むための相談に乗っていたり。

 ここ最近は前部長が卒業して、新部長が引継ぎするのにいろいろと頑張っていたから。

 ほら、うちの部って人数少ない割に幽霊部員が一人も居なくて部活動の日には必ず病気の子以外は全員参加するメンバーでしょ?

 3年生の子も卒業ぎりぎりまで部活動には参加して、引継ぎしていたけど卒業式から終業式までは1,2年しかいなかったから。」



わたしが顧問をしている部活は 和裁部 である。手芸部は別にあるのというのに、あえての和裁部。

元々の始まりは手芸部なのだが、数年前に手芸部内で意見が分かれて部員間の関係の修復が不可能となってしまった。

十数名のメンバーが手芸部をやめたが縫うことが好きだった子たちが新たに部を立ち上げたのだ。

その際、手芸じゃなくてどういう理由で部活にするかを話し合っていた子の一人が深咲に相談してきたのだ。


「手芸部はやめたけど、手芸が嫌いになったわけじゃないんです。何かを作りたいんです。どうすればいいでしょうか?」


深咲を頼ってくれた子は、当時の担当クラスの子だった。

頼られることが嬉しくて、一生懸命考えていると古典の資料集に目が留まる。

十二単に昔憧れたこともあったことを思い出した。


「着物を縫う和裁とか、どうかな?」


そう言って、資料集の十二単のページを見せるとその生徒は目を輝かせていた。


「それ、楽しそうです!青柳先生は古典の先生ですもんね!先生っ、お願いしてもいいですか?」


目を輝かせながら、その子は深咲に顧問をお願いしてきたのを断ることはできなかった。


それ以来、深咲はずっと和裁部の顧問をしている。



わたしが顧問をしている部活のことを言うと斉賀先生は納得してくれた。

昔も今も和裁部に所属してる子たちは熱心な子が多い。熱心過ぎて卒業後は和裁士の学校に行く子もいるほどだ。

3年生の『その道に進む』というのは、和裁士の学校に行くといったことである。


斉賀先生は熱心な生徒たちの部活動の引継ぎに時間がかかったのだろうと理解してくれた。


「ねぇ。青柳先生は、ほんとうは()()と付き合っていたわけではないの?」


槙先生も和裁部の熱心さについてはよく知っているはずだが、なぜか深咲の彼氏疑惑を解いてくれない。


「無いですよ。」


わたしはきっぱりと答えたが、心の中では


 そのあたりの記憶()『無い』んですけどね。


記憶が無いので『彼氏疑惑』が事実無根なのかはわからない。

槙先生はいまだに不審の目を向けていたが、そこに井尻先生が空気を換えるように話しかけてきた。


「あっ、そうそう。そういえば、青柳先生。

 先生って、最近なんか雰囲気変わりましたよね?お化粧とかファッションとか。」


「あぁ、そうなんですよ。ちょっといろいろと挑戦中なんですよ。」


美人ばかりのこの世界において、化粧はいろいろな方法は試されていない。

元の顔がいい人ばかりなので、必要性がないのだろうか。

ちょっと鼻を高く見せたいとか、目を大きく見せたいとか、しみ・そばかすを隠したいとか。

無い……のだろう。


味唯であった時もそれほど化粧に()っていたわけでもないのだが、深咲がそれまでしていた化粧方法はあまりに合っていなかったので味唯の知識をフル活用して化粧をしている。


服装についても、あまり新しいものばかりを買うのももったいないのでそれまでに着ていた服を自分に合うように着回しているのだ。


 こういうことになるのなら、味唯の時もっとファッション雑誌を読んでいればよかったと思ったのよね…。


化粧について井尻先生と話しているとそこに斉賀先生も参加してくる。


「ねぇねぇ、化粧って必要かなぁ。私、化粧苦手なのよー。」


斉賀先生はナチュラルメイクなのだと思っていたら化粧をするのが苦手だったらしい。


「朝から化粧水とか乳液とか美容液とか?夏になったら日焼け止めもするのでしょ?

 ファンデーションでしょ?それにアイメイクとかするのよね?チークとか。

 口紅とかも塗ったりなんとか、しなくちゃいけないものなのかしら!」


斉賀先生はコイバナの時よりもテンションが上がっている。化粧が苦手というよりも、嫌いなのだろうか。


「斉賀先生、三十路越えると日差しとかお肌にも影響がありますよ。

 肌のトラブルは若い時からの蓄積と聞いたことがあります。

 せめて、これからは日焼け止めくらいはぬりましょう?」


未唯だった時も化粧が得意だったわけではない。斉賀先生と同じように面倒くさいと思う時も多々あった。

残業が長引いて深夜に帰宅した時などベッドに沈む前に化粧落としだけでも…と、もそもそと洗面台に向かいながら思ったものだ。


 最初から何も化粧していなければ帰宅してすぐスーツを脱ぎ捨てて、ベッドに飛び込めるのに。


もちろん、シャワーを浴びたいところだが、疲れ果てて帰った時にはそれも諦めて次の日にシャワーを浴びることもできる。

だが、化粧はその日のうち(深夜を越えていても)におとしておかないといけない。


 化粧は社会人のマナーだなんて、誰が考えたのだろうと思っていた。いや、今も思っている。


槙先生、井尻先生とは違うタイプだが、当然斉賀先生も美人である。

今はほぼノーメイクのようだが、実は化粧映えするタイプではないだろうか。


「化粧は確かに面倒くさいと思いますけど、斉賀先生って背も高いしすらっとしているし、化粧をしたらファッションモデルみたいな雰囲気だと思いますよ。

 たぶん、化粧映えするタイプだと思うんですけど。」


そういうと斉賀先生は驚いたように深咲を見た。


「図体が大きいだけよ、私なんて。井尻先生や青柳先生みたいにかわいい感じとか羨ましいのよねー。」


 …かわいい…?いや、井尻先生は確かに可愛いお嬢様系だとは思うが、わたしがかわいい?


身長について言うなら、背の高い斉賀先生から見たら確かにかわいい(小さい)サイズだとは思うが。

かなり酔っ払っている斉賀先生の言葉なので、とりあえずスルーさせていただく。


「ファッションモデル体型ですよ。すらっと美人さんです、斉賀先生は。

 そうですねぇ、もし化粧に挑戦してみようって思ったらわたしに声かけてください。

 わたしもいろんな化粧方法を試し中なので、斉賀先生にぴったり合った化粧方法とか詳しくはわからないですけど。

 斉賀先生がどういう感じになりたいかとか聞いたら、それに近づくような方法一緒に考えてみましょうよ。」


そういうと、斉賀先生は嬉しそうに笑っていた。

男っぽいからか、なかなか彼氏もできないと嘆いていたので、化粧をすることで女性として何か変化したいという思いがあるのだろうなと思う。


わたしはすでに結婚願望は無かったりするのだが、努力する人には協力をしたいと思う。


化粧方法を一緒に考えることなら、是非お手伝いをしようと思う。



こういうことは、面倒事とは思わない。むしろ、変身するお手伝いができるのは嬉しい。


 ただ、斉賀先生が素面に戻った時に、化粧に挑戦する気持ちになるかというのはわからないのだけど。




途中、槙先生に変な質問をされたけれど概ね平和な女子会だった。



そろそろお開きの時間である。

女子会をしようと言い出した斉賀先生はかなり酔っているようなので、次に年長であるわたしがお金の清算に行く。

酔っ払っている斉賀先生からは、女子会が始まる前にお金は渡されていた。


最初から深咲に後処理は任せて、しっかり飲むつもりだったようである。



わたしがお金を支払う場所に行こうとすると、槙先生がきた。


「ねぇ、青柳先生が本当に誰とも付き合っていないのね?私があの人と付き合ってもいいのね?」


不思議なことを言われる。

それは、わたしに記憶がない空白の時間に深咲に恋人がいたという確証を持っていているかのようで…。


「んー、わたしは誰かと付き合っていた記憶はないですよ。

 もし、誰かと付き合っていたとしても、好きな人がいたとしても、現在はそういう人はいないです。

 なので、槙先生が気になる人である方に積極的にアプローチなさるのはいいと思いますよ。」


「…でも…。」


槙先生は何かを知っているのだろうか。記憶のない空白の時間・空白の期間にあった何かを知っているのだろうか。

だとしても、今それを詳しく知る必要はないだろう。


そんな相手がいるのだとしても、未唯と深咲が一つになってからその恋人から連絡なんてない。

恋人が現在もいるはずなのならば、その人から何かしらの連絡があるはずだ。それはこれまで一切ない。


付き合っていて別れたのだとして、これまでに会う機会のあった人なら会話をしたときに相手の言葉の端々でわかるのではないだろうか。


深咲が片思いをしていた相手で、相手はその気がなかったのならばわかないけれど。

それでも、それまで深咲がアプローチをしていたのならば(未唯が深咲になった後)急にアプローチが無くなったことを不思議に思うのではないか。

それも感じないほど、いろんな人に秋波を送られるような人だったりするのだろうか。



想像しても仕方のないことだ。わたしにはその記憶がないのだから。


「大丈夫ですよ!槙先生は美人さんですからね。

 槙先生からアタックされて断るなんてもったいなさ過ぎじゃないですか。

 わたしが男だったら槙先生みたいな美人さんにアタックされたら即、骨抜きになっちゃいますよ。

 …まぁ、わたしが男だったら槙先生みたいな美人さんに相手にされないんじゃないかと思いますけど。」


わたしは自分が男だったらという姿を思い浮かべて、きっと平凡な…味唯の弟の黎のような…姿になるのだろうと想像してクスクスと笑いながらそう答えた。


それでもまだ納得していないようだったが、それ以上聞いてくることはなく、深咲が清算をするのを待たず席に帰って行った。


清算を終えて、みんなのところに戻り、それぞれ、帰りはどうするのかと聞いてみる。



井尻先生は「お恥ずかしながら、父が心配性で……。迎えに来てくれるんです。」と答えた。


槙先生は駅前でタクシーを拾うと言い、斉賀先生は弟さんから電話があって「回収に行きます。」と言っていた。



その電話のことだが、斉賀先生の携帯電話が鳴って酔っ払ったままの斉賀先生が出たのだが、会話が成り立たなかったのでわたしが代わりに話しをしたのだ。


「やっほー、いっちゃ~ん。お姉ちゃんだよー。」


「姉さん、今日はどこで飲んでいるの?迎えに行くから場所を」


「やーん、いっちゃんってばやさしー。サイコー!」


「だから、姉さん…。ハァ……、一緒にいる人と代わってもらえる?」


「えー、しょうがないなぁ。はい、青柳センセっ。」


ニコニコしながら斉賀先生は電話を渡してきた。何度か経験があるので、そのほうが話が早いだろうと思って電話を代わって話しをした。


「お電話変わりました。斉賀先生の同僚の青柳です。」


「あぁ、青柳さんですか。いつも姉がすみません。

 今日はどこで飲んでいたんですか?すぐに回収に向かいます。」


斉賀先生は女子会や飲み会の際に酔い潰れることが多い。面倒見がいい斉賀先生の弟が迎えに来ることが多く、深咲とも顔見知りだった。


「あはは。お疲れ様です。いい弟さんがいて斉賀先生がうらやましいです。」


「とんでもないです…。」


そんな会話をして、外に出て待っていると斉賀先生の弟さんがやってきた。

斉賀先生と同じように背の高い弟さんはわたしたちの姿を見つけると、一度おじぎをして近づいてきた。


「いつもお世話になります。」


「いえいえ、普段は斉賀先生にお世話になっているんですからこんな時くらいは…ね。

 弟さんもお疲れ様です。」


「ハハハ…ありがとうございました。ほら、姉さん帰るよ。」


斉賀先生とは少し年の離れた弟さんは斉賀先生に肩を貸して車の方へと向かっていった。


「じゃあ、わたし斉賀先生のバッグ車の方へ持って行くのでここで解散ですね。」


そういうとタクシーがなかなかつかまらないかもしれないので槙先生には先に帰ってもらう約束をしていたので「また明日。お疲れ様でした。」と駅前の方へ歩いて行った。

井尻先生は「迎えはもう少しかかりそうなので、私も車まで一緒に行きます。」と一緒に斉賀先生を弟さんの車まで送り届けた。





斉賀先生を見送った後、井尻先生ともと思った時に井尻先生が話しかけてきた。


「あ、そういえば青柳先生は帰りは歩きなんですね。」


「えぇ、まぁ近いからいいのだけどね。自転車買おうかなとも思ってますよ。

 自転車は自動車同様お酒を飲んだら運転禁止なので、飲み会には乗ってくる気はありませんけど。」


飲んだら乗るな、飲むなら乗るな、は自動車だけでなく自転車にも適用される。

自転車の飲酒運転は犯罪。教職者が法律を破るなんてできるはずもない。


「あ、いえ。そうじゃなくて。ほら、今日はどなたかの車でいらっしゃってたじゃないですか。」


「え!…あ、あぁ。」


車から降りるところから見られていたらしい。変に誤魔化しても仕方がないので正直に答える。


「今日の飲み会の前に偶然会って話をしていたら、待ち合わせ時間ぎりぎりになっちゃって。

 待ち合わせ時間が…と言ったら、送ってくれたんですよ。」


誰が、なんて言わない。井尻先生が運転席にいた人が誰かを見たかどうかなんてわからないから。


井尻先生は「そうなんですか。」と微笑んでから、迎えに来た父親の車に乗って帰って行った。



そう、知らなくていいの。


わたしが誰の車にしぶしぶ乗って待ち合わせ場所に来たかなんて。


そんなことが知られたら、面倒になるだけじゃない…ねぇ?

高校の担任決めや(職員間での)発表はいつ行われるものなのでしょうね?

実際の高校がどうなのかはわからないですが、この霞の森高校では前年度の終業式にはまだ職員間での発表はないということになっています。


現在の話は(味唯)+(深咲-)である「わたし」

過去の話は味唯の意識のない、未唯が来るまでの記憶がある(深咲)として、一人称を「深咲」

と、しています。


こういう一人称が時間をおいて話の続きを書くものだから統一させないといけないですね。


さて次回もまだ3月の終わりの話になる予定です。

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