その顔が堪らない
不機嫌さを隠そうともせず自分に外套を着せ掛ける少年に、皇女はにやりと笑った。
その美貌と気品から言えば「にこり」と表すべきところなのだが、まちがってもそんな可愛いものではない。
むっつりと背後に控えた少年が、一層表情を険しくする。
「楽しそうですね」
人の休暇をつぶしておいて、とは口の中で呟いた言葉だが、所詮目と鼻の先、余裕で聞こえたらしい。
「休暇と言うても、部屋でのびておるか城下の茶菓子屋を眺め歩く位であろ。ならばわれの供をしてもやることは同じではないか、そう不貞腐れるな」
「下位の侍従にとって部屋でのびている時間がどれだけ貴重か、姫にわかりますか」
「わかるとも。御偉い老学士様のご講義を受けている時など、余暇の有難味がひしひしと」
「もういいです」
せめてもの嫌味も簡単に返されて、最早返事すら投げやりである。
「なんじゃつれない。折角、学士殿の高尚なる哲学を教授してやろうと思うたに」
「この場で居眠り始めてお忍びに同行できなくなっても宜しければお伺い致しますが」
「それは嫌じゃの。ではやめておくか」
ふむと小首をかしげる主を、少年は恨めしげに眺めた。
「なんでいつも僕なんですか」
振り返った濃い緑の瞳が、それはそれは楽しそうに微笑む。
「われに向かってそこまで有態に不機嫌を示すのが、そちだけだからじゃ」
空白の一瞬。
絶望の一拍。
「姫、趣味悪すぎです」
「言われぬでもとうに承知じゃ、気にするでない」
少年の受難は、先を知らない。