一言が命取り
捧げ持つのは、紅茶の器を載せた銀の盆。
真っ白な陶器に添えた小さなショコラ。
窓から差し込む陽光はうらうらと優しく、紗の垂れ幕を揺らす風も甘く香っている。
テラス手前のカウチには、けぶるような金の髪の美姫。
どんな画家も喜んで絵筆を取るであろう姿である。
ふと、深緑の瞳がこちらを向いて微笑んだ。
「よい間じゃな。丁度茶が欲しかったところじゃ」
婉然とした貌に、紺のお仕着せを着せられた少年は深いため息をついた。
「額縁に入れて飾りたくなるような光景ですね」
「今頃何を言うておる。皆、とうの昔からそう褒めてくれるぞ」
扇子で口元を隠してころころと笑う美姫に、少年がぼそりと応える。
「中身を知らなければ、ですけど」
「ほほ、よう減らず口を叩くようになったわ」
唇は笑みのまま、眉がきゅうとつりあがる。
扇子を持ち替えた繊手がついと伸びて、白い指先が少年の頬をつねった。
ぎち、と。
「いひゃいへふ、ひめ」
「それはもう、痛いようにしておるからの。主に向かってその口の利き方は何じゃ」
細い指の一体何処にこれだけの力があるのか、さながら金鋏でつねり上げられるような痛みである。
「もうひわけ、あひまへん」
「わかればよろしい」
案外あっさりと手を離した皇女は、何事もなかったかのように紅茶の器を取り上げた。
「雇いはじめの頃は、それはもう初々しかったのにのう。どんどん可愛げがなくなりおる」
くっきりと赤く腫れ上がった頬を撫でて、少年は再びため息をついた。