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殺伐激越(さつばつげきえつ)

前回の罰、北の地で見舞われるトラブルとは?

「こんないっぱいの雪初めて!」

 楽しそうにはしゃぐ翔瑠の背に俺は、冬には、あまり使われる事無い、政府のMA関連施設の状態確認をする。

「雪だるま、雪だるま!」

 ごろごろと雪を転がし始める翔瑠。

「バケツは、何処かな?」

 そこが俺の限界だった。

「いい加減しろ! 少しは、手伝え!」

 俺が怒鳴ると翔瑠が首を傾げる。

「でも、手伝う事無いって言ったの一歩じゃん」

「そうかもしれないが、後ろで遊ばれてたら仕事する気が無くなるわ!」

 俺の絶叫に翔瑠が渋々そうに自分より大きな雪だるまより離れてこっちに来る。

「それで何をすれば良いの?」

「施設の裏に回って、窓とかが閉まっているか確認してきてくれ」

 俺の指示に元気に駆け出す翔瑠。

「了解!」

 俺は、電気などのメーター確認する。

「おかしいな、予定より多くの電気が消費されている。何処かで漏電しているのか?」

 俺が資料と照らしあわしていると翔瑠が戻ってきた。

「確認して来たよ」

「そうか、漏電の可能性もあるから、それを報告してから帰るぞ」

 俺が答えると翔瑠が目をパチクリする。

「まだ雪だるまも完成してないのにどうして?」

 脱力感に襲われるが、俺は、堪えた。

「雪だるまは、宿で作り直せ。とにかく俺は、こんな寒いところに居たくない」

 不満そうな顔で雪だるまを見る翔瑠。

「折角頑張ったのに」

「また頑張れ」

 投げやりな対応しながら車に向う途中、翔瑠が言う。

「そういえば、窓から侵入した痕跡があったけど、あれは、ほっておいて良いの?」

「それを先に言え!」

 俺は、再び怒鳴った。



「確かに侵入した痕跡があるな」

 俺は、翔瑠が見つけた窓の下の不自然な足跡を確認した。

「でも、この施設って単なる訓練施設だよね?」

 翔瑠の疑問に俺が頷く。

「そうだ。冬場は、使われないが、夏場などには、MA矯正中の人間が大規模MAの制御訓練なんかに使われているそうだ」

 翔瑠が傍に有る広大な敷地を見て納得する。

「だから、こんな田舎にあるんだ」

「そういう事だ。それにしてもこんな施設に入ろうとしてるなんて、浮浪者かもしれないが、奇特な人間も居るもんだな。ほっても置けないから調べるぞ」

 俺達は、事前に借りていた鍵で施設の中に入る事にした。

 中に入ると、微かに暖房をつかった痕跡があった。

「まあ、暖をとるには、適しているな」

 俺達は、中を進むと翔瑠が脇を突付く。

「解った。任せたぞ」

 俺は、そのまま進む。

 そして、ある地点に到達した所で、物が動く音がして、そちらを向くと人影が通り過ぎていく。

「待て!」

 俺が叫ぶが、当然、その人影は、待つわけが無いが、とりあえず追う必要は、無かった。

『PA』

 MAコーラーの音声と共に人が床に叩きつけられる音が響き渡る。

「ご苦労」

 俺は、気配を殺して先行していた翔瑠の所に行くと、寝技をかけられた男が居た。

「何で、こんな所に子供が居るんだ!」

 文句を言う男の額にMAコーラーがあるのを確認して、俺は、MAプロテクトをつけてから簡易手錠をつける。

「こいつの事より、不法侵入している自分がどうなんだ」

「そういうあんたらは、何者なんだよ!」

 男の質問に俺が身分証明書を見せる。

「意思能力監査官だよ。ここには、未使用施設の状況調査の為に来たんだが、お前見たいのが居るからあるんだろうな」

 男が不思議そうな顔をする。

「意思能力監査官なんて、高級官僚じゃないか! それがどうしてそんなつまらない仕事してるんだ!」

「正確に言うと、意思能力監査官って弁護士資格みたいな資格なんだよね?」

 翔瑠の説明に俺が頷く。

「そうだな、役職で言うなら俺は、意思能力問題対策室室員って事になるな」

「何か思いっきり平っぽい」

 翔瑠の言葉に俺が小さく溜息を吐く。

「実際に平なんだよ。んで、こっちが俺のサポートしているMA持ちだ。そんでお前は、何だ?」

 男は、渋々語り始めた。

「詰り、こっちで仕事していたけど、クビになってお金なくなって、宿にも泊まれなくって、ここに忍び込んでいたんだ」

 翔瑠の要約に男が舌打ちする。

「世間は、MA持ちに厳しくてな。嬢ちゃんもそのうちわかるさ」

 俺は、軽く小突く。

「未来有る子供に変な事を教えるな」

 男が不機嫌そうに言う。

「だけど、本当事だろう。高級官僚には、わからないだろうけどな、MA持っているってだけで優先的にクビを切られるのが現実なんだよ」

 俺は、頭を掻きながら訂正する。

「あのな、こっちもプロだ。確かにそんな理由でクビになる奴も居る事は、確かだがな。MA有り無しに関わらず、必要とされていれば、クビに成らないって言う確かなデータがあるんだよ」

「それじゃ何か俺が駄目だったからクビになったって言うのか!」

 男のクレームに俺が言う。

「そうなんだろう。少なくとも、犯罪行為を犯してあっさり捕まっている時点で性格、能力的に問題があるって証明だと思うがな」

 言葉に詰まる男に俺が言う。

「仕事がないんだったら、ハローワークを紹介してやるから、そこで仕事を探せ」

「仕事を探そうにも今夜の宿もないんだよ!」

 男のクレームに俺が怒鳴り返す。

「そんな所が駄目なんだ! ハローワークには、ちゃんとそういった紹介もしてくれる。基本的にこの国は、ちゃんと税金を納めようって奴には、人間としての最低限の生活出来る様にサポートしてくれるシステムになってるんだよ」

「そんな訳有るか! だったら何でホームレスが居るんだよ!」

 男の浅い知識の反論。

「それじゃあ、一度ホームレスになった奴らは、ずっとホームレスなのか? 違うんだよ。大体な、この国で目の前で凍死するのを見捨てる根性有る奴は、そうそう居ないぞ」

 俺の言葉に男が押し黙るしかなかった。



 男をとりあえず、近くの交番に押し付けて、宿に戻った俺達。

「お連れさんは、お元気ですね」

 宿の女将に予想通りの突っ込みを受けながら俺は、外で元気に雪だるまを作っている翔瑠を見ながらこの出張の唯一の楽しみ、名物料理を堪能していると爆発音が鳴り響く。

 翔瑠が駆け込んでくる。

「一歩、あれってあの男の人を預けた交番の方だよ!」

 俺は、舌打ちをしながら素早く着替えて、車に乗り込む。

 交番に着くと、交番の一部が破壊されていた。

「どうしたんだ!」

「お前達が連れてきた奴を狙って変な奴らが襲ってきたんだよ!」

 警察官の言葉に俺が慌てて、センターのMA使用記録所に問い合わせを行う。

「やっぱりだ、あの男は、MAを使ってない。同時間にMAの使用記録も無い」

「そうなると、普通の科学爆弾か何か?」

 翔瑠の言葉に俺が苦虫を噛んだ顔をする。

「それよりももっと可能性ある連中がいるだろう」

「まさかサムスカー?」

 翔瑠も僅かに怯えた顔をする。

「その可能性がある。奴らは、強いMA持ち、社会に不満がある人間を集めているらしいからな」

「あの人ってそんなに強いMA持っているの?」

 翔瑠の当然の疑問に俺が頷く。

「B、ブラストのMAを持っている。強力すぎる為に、使い道が無かったがな」

「そうなると、早く助け出さないと大変だよ!」

 翔瑠が慌てるが、俺は、躊躇していた。

 相手がサムスカーとなると翔瑠を連れて行くのは、大事になる。

 しかし、早く確保しないとあの男が一般社会に復帰できなくなるかもしれない。

「一歩、あちきの心配だったら平気。自分の身くらい自分で護れるから。ってどちらかというと一歩独りの方が危険だよ」

 容赦ないフォローに俺が決断する。

「奴が居るとは、限らないし、行くぞ」

 俺達は、移動を始める。



「俺の力を見せてやるぜ! これが俺の『ブラストバイソン』だ!」

『BO』

 MAコーラーの音声と共に広大な試験場の雪が吹き飛んだ。

「大したものです。十分にサムスカーに加わる価値がありますよ」

 拍手する女性の額には、MAコーラーが無い。

 十中八九サムスカーのメンバーだろう。

「そこまでだ。そいつらは、犯罪者だ。離れるんだ」

 俺が射撃型スタンガンを構える。

「邪魔するなよ!」

 男は、こっちを向き、手を指し伸ばしてくる。

『PA』

『BO』

 翔瑠のワンダメージが先に発動し、攻撃方向をずらし、俺の横を破壊が通り過ぎていく。

「無謀だと思わないの?」

 男の傍で隠れていた翔瑠が頬を膨らませていた。

「あら、貴方がこの人と出合った意思能力監査官ね。邪魔をしないでくださる?」

 静かな殺気に俺が背筋に寒気が走るが躊躇する訳には、いかない。

 スタンガンを連射して牽制する。

 その間に翔瑠が男の方に詰め寄って締め技で落す。

「あらあら、随分と面倒な事をしてくれたものですね」

 サムスカーの女性メンバーが何かの予備動作をする。

「大人しく捕まれ! 警察ももう直ぐ集まる。そうなれば終わりだ!」

「その前に終わるわ!」

 俺は、勘だけで横に飛びのいた。

「いい勘をしているわね。でも何時まで続くかしら?」

 その何かが、再び放たれた。

『PA』

 翔瑠の力が俺の前面で起動して、相手の何かを防いだ。

「何?」

 困惑するサムスカーの女性メンバー。

 困惑すると言う事は、普通なら防げないMAなんだろう。

 しかし、翔瑠の『ワンダメージ』は、通常のMAとは、一線をひく能力だ。

 多分、この世界に属する如何なる物も無効化出来る筈だ。

 俺は、困惑に生じた一瞬の隙を突く。

 スタンガンの一撃がサムスカーの女性メンバーを捉えた。

 意識を失うサムスカーのメンバーを慌てて抱える翔瑠。

「重たい、早く手伝って」

「待ってろ!」

 俺が駆け寄り、MAプロテクトをつけて簡易手錠をつける。

 男のほうにも同じ処理をして、警察の到着を待つ。

 その間、疲れて寝てしまった翔瑠を車の座席に眠らせる。

「流石にコートが無いと辛いな」

 風邪をひかない様に翔瑠にかけたコートを見ながら、とりあえず雪の無い地面に寝転がせた二人を監視していた。

「また、お前か」

 その声に冷や汗が流れる。

 それでも振り返らざるえなかった。

 そこにはサムスカーが居た。

「『XX』の件と良い。随分と邪魔をしてくれる。ここで殺すか?」

 まるで蟻を踏み潰すように言ってくるが、多分それ程大差ない労力なんだろう。

「俺もお前には、色々と用事があるんだ。大人しく投降しろ」

 失笑するサムスカー。

「投降だって? どうしてそんな事をしないといけないんだい? どちらかといえばそれが必要なのは、君の方じゃないのかい?」

 それは、正解だろう。

 この状況で勝ち目なのこれっぽちも無いのだから。

 俺は、最悪でも翔瑠の安全を護ろうと場所を移そうとした時、サムスカーの顔が車の方を向く。

「あの娘の力、何だ?」

 興味をもたせたら駄目だ。

「どんな相手にも小さなダメージを与えられる特殊なMAだ。お前達に利用価値があると思えないがな」

「特殊なMAね。あの娘を差し出せば命を助けると言ったらどうする?」

 冷たい視線を向けてくるサムスカーに今度は、俺を失笑する。

「俺がそんな取引に応じると思ったのか?」

「思っていない。しかし、逆に気になってきた。なぜ意思能力監査官がそんなMAの持ち主をずっと傍に置いているのか。まるで、監視をしている様な気がするな」

 サムスカーが嫌な方向に気付き始めている。

「色々と縁があっただけだ」

『PA』

 MAコーラーの音声と共にサムスカーが顔を顰めるが、翔瑠の回し下段蹴りをあっさり受け止める。

「やはり、防げない。どういう理屈だ」

 翔瑠は、諦めず連続攻撃を放つが、サムスカーは、そのどれもをあっさり受け止めてしまう。

『PA』

 再び、放たれる『ワンダメージ』、サムスカーは、舌打ちをするが、それだけだ。

 隙が生まれない。

 当然、翔瑠の攻撃も当たらない。

 俺は、スタンガンを連射する。

「逃げて、助けを呼んで来い!」

「でも……」

 躊躇する翔瑠に俺が怒鳴る。

「今のお前で勝てる相手じゃないだろう!」

 翔瑠が悔しそうに駆け出そうとした時、俺の体が吹き飛ぶ。

 背中から建物にぶつかり、肺の空気が全て押し出される。

「先にこっちの蟻を潰しておくか」

 サムスカーが近づいてくるって言うのに、体を起こすことすら出来ない。

『PA』

 MAコーラーの音声が響くが、それだけだ。

 サムスカーの足は、止まらない。

「逃げろ」

 大声を出したいが、今の俺には、呟くようにこう言うしか出来ない。

 サムスカーが俺の胸倉を掴む。

「正直、あの力の秘密には、興味があってね。素直に話せば、命だけは、助けるよ」

『PA』

 微かにサムスカーの手が揺れるがそれだけ、『ワンダメージ』では、サムスカーの妨害は、もはや不可能。

「あの力の秘密なんて俺は、知らない」

 俺は、出来るだけ本心に近い気持ちを込めて答える。

 実際にあの力の事は、概要しか知らないからもしもサムスカーが心を読む力があったとしても上手く行けば誤魔化せる。

「そうか、あくまで喋るつもりは、無いか。ならば死ぬんだな」

『PA』『PA』『PA』『PA』『PA』『PA』『PA』『PA』

 連続して放たれた『ワンダメージ』でサムスカーの手から外れて地面に落ちた俺が力を振り絞って叫ぶ。

「もう良い! 直ぐに逃げろ!」

「嫌だ! そいつ間違いなく一歩を殺すつもりだもん!」

 泣きながら突っ込んでくる翔瑠だったが、途中で空中に浮かびあげられてしまう。

「意味が解らない。色々とやってみたがどの種類の力とも違うぞ」

 苛立つサムスカー。

「止めろ、殺すんだったら俺から殺せ!」

 サムスカーが蔑んだ目で言う。

「安心しろ、お前を殺すのに大した手間は、必要無い」

 一気に押し潰されそうな超重力が掛かった。

 もう抵抗するだけの力は、無い。

「いやー!」

 翔瑠の叫び声、そしてMAコーラーの音声が響き渡る。

『XX』

 サムスカーの目が見開く。

 最後の力を振り絞って叫ぶ。

「逃げろ! その力は、消失。どんなMAでも対抗できないぞ!」

 次の瞬間、俺は、空中に浮かんでいた。

 地面に落ちる前に爆発的な衝撃波が周囲を一掃する。

 空中に浮かんでいなかったら俺は、即死していた事だろう。

 地面を転がり全身にダメージを食らっていた俺の横にサムスカーが降り立った。

「まさか、これが『XX』だと言うのか?」

 動けない俺を蹴り飛ばし仰向けにさせるとサムスカーが告げる。

「なるほどな、防げない訳だ。完全なる消失、あのMAは、電子レベルの消失現象に伴う衝撃波でしかない。それを防ぐ方法など皆無だからな。一度、フルパワーで発動すれば、この威力。いや、不完全だと、言わなければいけないな」

「これだけの威力なんだぞ? これが不完全だというのか?」

 俺の呟きにサムスカーが高笑いをあげる。

「当然だ。あの娘は、あの極限状態でも威力を絞ってて居た。あくまであの『ワンダメージ』と呼ばれるMAを使おうとした。本人が意識して使えば、もっと強力な力になるだろうな」

 確かにそうかもしれない。

「だが、翔瑠は、お前の指示など従わないぞ」

 サムスカーが冷たい目をする。

「そうかな? まあ良い、この力、本格的に調べる必要がある。それが終わるまでは、お前に預けておこう」

 そしてサムスカーが消えて行った。



「まさか、地方でサムスカーとぶつかるなんてどんだけ運が無いんだ」

 病室に来た海原室長。

「翔瑠は、大丈夫ですか?」

 海原室長は、頭を掻いて言う。

「今回の事は、全部サムスカーに押し付けておいた。やつだったら、今回の被害にも納得いくものだろうからな」

 俺は、あの男の事を思い出す。

「そうだ、現場には、サムスカー達以外にスカウトされていた男が居たんですが知りませんか?」

 海原室長が一つのMAコーラーを見せてくる。

「現場近くで見付かった。これを外したって意味は、解るな?」

 俺は、動かない体が今日ほど悔しい日が無かった。

「絶対に更正させてやります!」

 海原室長が立ち上がり言う。

「解っていると思うが、今回の事で翔瑠を狙う人間が増える。大変になるぞ」

 俺は、強く頷いた。

「解っています。誰にも翔瑠を利用させません。特にサムスカーなんて犯罪者には!」

 俺は、新たな決意を固めるのであった。

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