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鎧袖一触(ガイシュウイッショク)

最強最悪のMA犯罪者登場

「あれ、一歩さんどうしたの?」

 休日の日曜に公園でのんびりしていると天地ちゃんが声を掛けてきた。

「休みなのに特にする事が無くってな。そういう天地ちゃんは、花束なんて何処に行くんだい?」

「お父さんとお母さんの命日なんだ。本当は、祈祷さんと一緒に行こうと約束したんだけど、急な仕事が入ったって、一人で行く事になったの」

 そういってバス停を指差す。

「遠いのか?」

 俺の問い掛けに天地ちゃんが言ったのは、女子中学生独りで行かせるのには、かなり不安な距離だ。

「俺も付き合う。どうせ暇だしな」

「良いの? 薫さんと約束有るんじゃないの?」

 天地ちゃんが確認してくるので俺が肩をすくめる。

「警察庁所属の意思能力監査官には、日曜も無いってな、今日も仕事しているよ。偶には、一緒に酒でも飲みたいんだけどな」

 溜息を吐く天地ちゃん。

「薫さんも報われないね」

 なんだかこの間から同じ様な事を言われているがどうしてだろうか。

「とにかく行こうか」

 そんな訳で俺は、天地ちゃんと付き合って、天地ちゃんのご両親が事故で亡くなったMA研究施設の跡地に向った。



「中に入れないのか?」

 金網の前に花束を置く天地ちゃんが悲しそうな顔をする。

「政府の人がまだ調査中だからって入れてくれないの」

 俺は、携帯を取り出して、関係部署と連絡して、意思能力監査官権限で半ば無理やり許可をとりつけた。

「許可をとった。近くに入れる場所がある。せめて近くで手を合わせた方がいいだろう」

「本当!」

 嬉しそうにする天地ちゃんを連れて、金網の中に入っていく。

 施設の跡地を歩く中、俺は、強い違和感を覚えていた。

「MAの暴走事故なんだよな?」

 天地ちゃんが頷く。

「極秘事項だからって具体的にどんなMAかは、教えてもらえないけどね」

 おかしかった。

 MAの暴走事故自体は、過去に何例か存在する。

 研究所一つ消し飛ぶ事故というのは、珍しいが、それでも皆無では、無い。

 しかし、ここには、明確な破壊跡が見受けられない。

 まるで最初から何も無かった、そんな風に見えたのだ。

「機密保持の為の工作か?」

 自分で口にしながらもそれにも違和感があった。

「あれ、誰か先客が居るよ」

 天地ちゃんが指差した先には、確かに一人の男が居た。

「そんな話は、聞いてないぞ?」

 こちらに気付き振り返った男の顔を見たとき、俺の脳裏でMA犯罪者の手配リストが捲りあげられた。

 そして、その中でも最も危険なランクの所でそのリストが止まる。

 休日だというのに何時もの癖で持ち歩いていたスタンガンを突きつける。

「全世界広域指名手配MA犯罪者、サムスカー。ここで何をしている!」

「そんな物が僕に通じると?」

 次の瞬間、スタンガンが捻じ曲がった。

 危険すぎる。

「天地ちゃん、直ぐに逃げるんだ!」

 俺が叫ぶが天地ちゃんは、正反対の行動をとっていた。

「良い動きをしている。僕も多少の心得があってね」

 天地ちゃんの突きを余裕の態度で避けようとしたサムスカー。

『PA』

 天地ちゃんの『ワンダメージ』が発動し、目を見開くサムスカーに天地ちゃんの突きが決まりよろめかせる。

「馬鹿な、MAで僕がダメージを受けただと?」

 信じられない様子で天地ちゃんを見るサムスカーに天地ちゃんが追撃をかけようとしたが、俺が割って入る。

「逃げろ! こいつは、無数のMAを操る最悪のMA犯罪者だ!」

「でも、あちきのMAも通じてるしもしかしたら……」

 天地ちゃんが次の瞬間、大きく後ろに弾き飛ばされる。

「強力なMAの使い手というわけでは、無いのか?」

 地面に倒れる天地ちゃんを見て思考するサムスカー。

 俺は、天地ちゃんを庇う位置に移動し怒鳴る。

「そんな事より、お前は、ここで何をしているんだ!」

 サムスカーが笑みを浮かべる。

「そうだった。こんな小物に関わっている程暇で無かったね。ここに来た目的は、簡単だよ。ここで実験され、暴走したXXのMAを手に入れる事。どんなMAなのかは、知らないが、多くのN、ノーンの使い手が揃えて口にする世界を終わらせるMA。それさえあればこの狂った世界を壊せる筈なんだ!」

 その目には、確かな狂気が宿っていた。

 けっしてほっておいて良い存在じゃない。

 しかし、今は、天地ちゃんを護るのが先決だ。

「随分と絵空事が好きのようだな。大体、XXなんて能力は、有り得ない事くらい知っているだろう」

 時間稼ぎに話を振る。

「そうだね、Xとは、未知を意味し、単なる識別前のMAって事だ。そんな識別前の状態でまだ存在が確認されていないXランク以上のMAが有るわけがない。普通に考えればそうだ。しかし、ここで実験が行われていたXXは、違う筈だ。どんな種別だろうと今までのMAを超越した力を持っている。君は、この研究所を消滅させたMA持ちが何名だったか知っているかい?」

 同規模の破壊を起こしたのは、確か二十名のMA共鳴現象だった筈だ。

「最低でも十名以上だろう。それがどうした?」

 高笑いをあげるサムスカー。

「残念だけど不正解だ! この研究所を消滅させたのは、たった一人。それだけでもXランクに相応しいと居えるだろう」

 人一人のMAで研究所が消滅するなんて信じられないがここは、話を続けるしかない。

「もしそんなMAが在ったと仮定しよう。それでもMAで世界を壊す事など出来るとは、思えないが?」

 サムスカーは、研究所の跡地を指し示して言う。

「XXの脅威は、その破壊力では、無いんだよ。ここを見ておかしいと思っただろう。まるで最初から何も無かったそんな印象を抱かせる。XXは、存在その物を崩壊させる。実際に大規模で発動すれば、最初の崩壊の影響は、全世界に広がっていく。世界は、欠落した存在を補いきれず壊れてしまうのだ!」

 背筋を寒気が走った。

 同時に確信した、この男にだけには、そんな力を渡したらいけないと。

「もう十分だろう。最後の祈りは、終わっただろ? ここで死ぬんだね」

 相手は、少し考えるだけで人を殺せる化け物、俺は、最後の希望を込めて天地ちゃんの体に覆いかぶさる。

 自分の強い意志とMA持ちの天地ちゃんの意志があれば、天地ちゃんだけでも助かるかもしれないからだ。

『PA』

 ここで、『ワンダメージ』が発動した。

「無駄無駄! そんなAランクのMAで僕のMAを防げる訳無いんだかね!」

 強烈な衝撃波が俺と天地ちゃんを襲った。

 地面をこれでもかと転がされる。

 俺は、抱え込む事で天地ちゃんへのダメージを減らした。

 金網にぶつかって止まった時には、全身に激痛が走り、何処に怪我をしたのかも解らない状態だった。

 身動き一つできない俺達に不機嫌そうな顔をしたサムスカーが近づいてくる。

「何故だ! 何故僕のMAが直前で発動させられた!」

 天地ちゃんの『ワンダメージ』だ。

 理屈は、解らないが、『ワンダメージ』が俺達に当たる前にサムスカーのMAに当たり発動したのだ。

「気に入らないね!」

 怒りの表情を浮かべるサムスカー。

「そこまでよ、サムスカー!」

 薫の声、そして、金網が吹き飛び、多くのMA持ちが現れる。

 その中には、御影さんも居た。

「翔瑠を護ってくれてありがとう。後は、あたし達がやる」

 圧倒的な数を前にしながらもサムスカーは、平然としていた。

「ふん。幾ら雑魚を集めた所で、僕に勝てると思わないで欲しいね」

 手を振ると同時に数十人のMA持ちが吹っ飛ばされた。

 それに反撃するようにあらゆるMAがサムスカーに撃ちだされる。

 しかし、その全てがサムスカーには、届かない。

「無駄だ! 最強のMAの使い手である僕には、どんなMAも通じない!」

 勝ち誇るサムスカー。

『PA』

 三度、天地ちゃんの『ワンダメージ』が発動した。

 歯を食いしばるサムスカー。

『QQ』

 MAコーラーの音声と共に、サムスカーが吹き飛ぶ。

 そしてサムスカーが立っていた位置になんと秘書さんが立っていた。

「あれがあたしの旦那のMA『モーメントゴット』よ。その力は、僅かな時間だけど他者が時間を停止したと思わせる程の超高速。流石のサムスカーもそれには、対応できなかったみたいね」

 御影さんが自慢げに告げるが、俺は、その予想が間違っていると解った。

『QQ』

 MAコーラーの音声と共に秘書さんの姿が掻き消えた。

 しかし、次の瞬間、秘書さんは、弾き飛ばされてしまっていた。

「どういうこと?」

「先に『ワンダメージ』のダメージがあったからこそ有効だった、そうだな!」

 俺の叫びにサムスカーが忌々しげにこたえる。

「その通りだ。そうでなければ速いだけの攻撃を僕が喰らうわけないがない!」

 薄目を開けていた天地ちゃんだったが、さっきの『ワンダメージ』で最後の気力を使い果たしたのか、意識を失ってしまう。

 サムスカーは、大きく舌打ちをした。

「ここは、引いておくよ。ここには、XXが発動した現場を見に来ただけだからね」

 そのままMAでの長距離移動で去っていくサムスカー

「急いで追跡して!」

 薫が指示を出すのを聞きながら俺も限界を迎えて意識を失った。



 俺が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。

 初日と同じ様な感じで海原室長が居た。

「もう、翔瑠と関わるな」

「いきなりなんですか?」

 俺の疑問に海原室長が告げる。

「いい加減気付いた筈だ。翔瑠の持つMAが普通のMAと異なるという事くらい」

 それは、間違いない。

 多くのMAをあっさり防いだサムスカーに唯一ダメージを与えたMA、普通のMAな訳が無い。

「何か知っているのですか?」

 海原室長は、禁煙の病室なのにタバコを取り出し、一服した後にようやく答える。

「あの研究所のMA暴走事故現場の唯一の生き残り。それが翔瑠だ」

 意外すぎる言葉。

「ちょっと待ってください。それってまさか?」

 俺の言葉に海原室長が頷く。

「まず間違いないだろう。何れ奴もそれに気付く。そうなったら翔瑠が狙われる事になる。その時、傍に居れば危険だ」

「それじゃあ天地ちゃんは、どうなるんですか!」

 体の痛みを堪え海原室長に掴みかかる。

「だから御影MA派遣事務所に居させている。俺が知る中で最強のMA持ち。奴だったら勝てないまでも翔瑠を逃がす事くらい出来る筈だ」

 最強と言われたMA持ちが現場に居ない理由、それが翔瑠のMAだったわけだ。

「解っていると思うが、この事は、口外するな。この事実が公になれば、最低でも隔離。最悪消される」

 唾を飲み込む俺を残し海原室長が帰る前に言う。

「それと、今回の勝手な極秘施設の独断での侵入、始末書だからな」

 俺は、何も言えずに居た。



 退院後、俺は、言われていた始末書を差し出す。

「こんなのは、後でも構わなかったんだぞ」

 そういって受け取る海原室長に俺は、もう一つの書類を提出する。

 それを見て海原室長が睨んできた。

「本気なのか?」

 俺は、その視線を正面から受け止めて答える。

「はい。意思能力監査官には、MA持ち一人を補佐官として持つ権利がある筈です」

「それに翔瑠を選ぶ意味が解っているのか?」

 海原室長の言葉に俺が頷く。

「全て覚悟の上です」

 大きなため息を吐いて海原室長が言う。

「無茶だけは、するな。危なくなったら周りに助けを求めろよ」

「はい」

 俺は、決意を込めて答えるのであった。

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