邂逅相遇(かいこうそうぐう)
ツンデレ監査官の登場と野良猫誘拐です
俺が意思能力問題対策室でパートの人達が纏めてくれた問い合わせ内容に目を通している時、ドアがノックされた。
「どうぞ」
海原室長が何時もの様に答えるとドアが開き、俺にとっては、見慣れた人物が現れた。
「始めまして。警視庁で意思能力監査官をやっています山崎薫もうします。前回の不正植物成長案件で参りました」
海原室長は、すぐさま俺を指差す。
「その案件については、全て彼に一任してあります」
このやり取りは、もう何回目になるかも判らないが、今回は、比較的楽な筈だ。
「薫、ひさしぶりだな。君も志望通り、警察庁に行ったんだな」
その瞬間、殺気を感じた。
「職務中です。お互いに苗字で呼びませんか、轟監査官」
「知り合いなのかね?」
少し興味が湧いたのか海原室長が顔を向けてくる。
「大学が同期なだけです」
即答する薫の態度に俺は、頬を掻く。
「そうだったのか? 俺は、薫の事を親友だと思っていたんだけどな」
凶器とも思える爪を見せて来る薫。
「轟監査官、同じ事を何度も言わせないで下さい」
溜息を吐く。
「判ったよ。山崎監査官、不正植物成長案件については、今まで何度も説明をした筈ですが、今回は、どの様な用件でしょうか?」
薫は、軽く咳払いをし、気を取り直し、話し始めた。
「お互いの職務の再確認です。意思能力監査官は、その権限の大きさから、余計な人間が関われば現場に混乱を呼びます。相互の職務内容を十分に理解した上で活動される事が望まれるのです」
何度も聞いた話だ。
「だから、あの案件では、我々は、あくまで柿泥棒の捜査でしかなく、そちらの案件に関わるつもりは、ありませんでした。不正植物成長容疑が判明したのも逮捕直前で、それまでは、何の確証もありませんでした」
「それでしたら、判明した時点で我々に捜査を引き渡してもらえばよかったのです。そのまま逮捕を強行したのは、貴方が手柄を求めての事では、無いのですか?」
悪意がてんこ盛りの意見だが、官僚内では、この考え方が普通らしい。
「山崎監査官、貴方との付き合いは、長いつもりです。私がそんな事を考えて行動しているかどうかくらい判ると思っていたのですが?」
その一言に何故か薫が切れた。
「そうよ、一歩は、何時も後先考えないで自分が正しいと思う事をして! 周りがどれだけ心配してるか判らないの! 犯罪者の集団にMA持ちと言え小娘と二人で戦うなんて無茶もいい所よ!」
「山崎監査官、苗字で呼び合うのでは?」
俺の突っ込みは、薫の一瞥で封殺された。
「とにかく、二度とこんな事をしないで!」
薫は、そういって怒り肩のまま出て行った。
「中々心配されてるね」
海原室長の言葉に俺は、苦笑するしかなかった。
「薫は、何時もなんだかんだ言って俺の手助けしてくれてました。道は、違ってしまいましたが、お互いの理想の為に邁進していきたいです」
何故か海原室長が大きなため息を吐く。
「一歩ちゃんは、乙女心がわかってないね」
意志問題対策室の事務全般を取り仕切っている一番の古株、立花恵美さんが言ってくる。
「乙女心ですか?」
「そう、乙女心。薫ちゃんだっけ? きっと一歩ちゃんに会いたくて来たんだよ」
立花さんの言葉に俺が首を傾げる。
「会うなんて、携帯番号も知ってるんだから、普通に約束すれば良い事じゃないんですか?」
立花さんを始めとするパートの人達が笑いあう。
「本当に朴念仁なんだから。まあ、そこが一歩ちゃんの良い所なんだけどね」
立花さん達が何を言いたいのかよく判らなかったが、俺は、一つのファイルをもって海原室長の所に行く。
「海原室長。この案件で、現場に行きたいのですが、構わないでしょうか?」
俺の提示したファイルを海原室長が読む。
「野良猫にMAを用いて誘拐する事件か。流石に野良猫では、刑事事件にならないぞ?」
「元々、刑事事件にしたい訳では、ありません。対策室の人間として、相談があった案件の解決に動こうとしているだけです」
俺の答えに海原室長が苦笑する。
「好きにしろ。ただし、大事件にしないでくれよ」
「ありがとうございます」
頭を下げて行動を開始しようとした俺に海原室長が釘を刺す。
「判っていると思うが、派遣会社に行って、MA持ちの同行をしてもらえ。前回の例もある。油断すれば命に関わるからな」
基礎研修の際に最初に言われる言葉がある。
『どんなつまらない能力と思っていてもMA持ちを侮るな』
実際、前回の事件で協力してもらった天地ちゃんの『ワンダメージ』は、MAとしては、最低ランクだが、本人の獣王戦技と伴って、高い実用性を持っていた。
「判っています」
俺は、御影MA派遣会社による。
「失礼します。また人をお借りしたいのですが?」
それに対して御影さんは、困った顔をする。
「すまないけど、今すぐに人の手配は、難しいわ」
「何かあったのですか?」
聞き返すと、御影さんは、新聞記事を見せてくる。
「今話題になっている、MAを用いた連続盗難事件。その捜査の為に多くのMA持ちが借り出されているの。うちも優秀なMA持ちは、全員出払っているのよ」
考えてみれば、この御影MA派遣会社は、お役所と繋がりが強い会社だ。
当然、その様な人材の集めの場合、早い段階で声が掛かるのは、当然だろう。
「今、直ぐに貸し出せるとしたらそこでお腹を空かせている子だけよ」
御影さんが指差すソファーに座って居た天地ちゃんのお腹がキューと鳴いた。
顔を真赤にして俯く天地ちゃん。
「何でまた? MA持ちの派遣料金は、そこそこの金額の筈ですが?」
御影さんが呆れた顔をする。
「そこのお馬鹿は、食事代を残すのを忘れて目の前の本を買ったのよ」
机の上に置かれた本は、MAの最新技術が書かれた本だ。
MAは、日進月歩、常に情報収集が必要な部分が多い。
その勉強となれば、お金が掛かるのは、当然だ。
「天地ちゃんをお借りします」
それを聞いて目を輝かせる天地ちゃん。
「前回ので懲りてないの?」
本気で神経を疑っているような視線を見せる御影さん。
実際、柿泥棒調査をあんな大事件になったのは、意外だったが、別に天地ちゃんがどうかした訳では、無い。
「天地ちゃんは、真面目に頑張ってくれました」
肩をすくめる御影さん。
「まあ、本人が良いなら構わないわ。でも、変な事をしたらただじゃ済まさないわよ。あたしの親友の忘れ形見なんだからね」
天地ちゃんが中学生なのにこのMA派遣会社に居るのも、なくなった両親の変わりにその親友だった御影さんが保護者をやっているからだ。
前に一緒に居る時の話では、普通に生活するには、困らないお金は、貰っているが、MAの勉強の為だと言って大きなお金を出してくれなく、どうしても生活費を削っているらしい。
お金の大切さを教えているのだろう。
「安心してください。私は、御影さんの様な胸が大きい人がタイプですから」
驚いた顔をする御影さん。
「あら人妻を口説くつもり?」
「どうでしょう?」
冗談めかしに言った時、背筋に悪寒が走った。
思わず振り返ると、何時も沈黙して居た秘書の男性が睨んでいた。
「監査官さん、その人が祈祷さんの旦那さんの猛さんだよ」
愛想笑いをする。
「軽い冗談です。さて、天地ちゃん、調査に行こうか!」
俺は、殺気から逃れる為に、天地ちゃんの手を掴んでそうそうに退室した。
「猛さんってクールに見えて、祈祷さんの事になると熱いから」
目的地に着く前での移動時間に天地ちゃんが二人の関係を簡単に説明してくれた。
「二人ともMA持ちで、パートナーを組んでいたのか。しかし、どうして御影さんが社長なんだい?」
「猛さんは、現場派なの。事務的な事は、どうしても祈祷さんが仕切る事が多くて、こうなったって聞いてるよ」
天地ちゃんの答えに派手なイメージが先行する御影さんと地味なイメージの秘書さんとでギャップを感じた。
「猛さんは、昔は、最強のMA持ちって言われる程の戦闘タイプ。あちきも獣王戦技を習ってるよ」
「あの穏やかそうな人がね」
あの殺気を浴びる前までだったら信じなかっただろう。
「そういえば、監査菅さんの家ってお金持ちだったの?」
天地ちゃんがそう思うのも当然だろう。
図書館とかに行けば古い資料なら揃うが、最新の改案に対応出来ない。
その事を考えると、意思能力監査官になる為に最低限必要な資料を揃えるだけでもかなりの金額が必要だ。
「一歩で良い。私、いや俺の父親は、大金持ちだ。しかし、母親は、そんな父親の家で働いていたメイドだった。詰り、お手つきって奴だ。母親が存命中は、母一人子一人で暮らしていた。母親を事故で亡くしてからは、父親の元に引き取られたが、はっきり言ってろくな家庭環境とは、言えなかった。それでも、勉強するお金だけには、困らなかったよ」
聞いたら不味かったみたいな顔をする天地ちゃんの頭を撫でながら俺が言う。
「気にするな。隠しても直ぐにわかる事だ。そんな事より、そんな家に生まれた俺だって勉強を真面目にすれば、ちゃんとした大人になれたんだ。御影さんの様な確りした親代わりが居るんだから真っ直ぐに生きろよ」
「うん!」
微笑む天地ちゃん。
正直、俺自身、父親との確執は、まだ大きいのも確かだが、親が居ないと言うのは、大きなハンデだ。
しかし、天地ちゃんには、そんなハンデには、負けて欲しくない。
だから、俺は、自分の生い立ちを語ったのだ。
そうこうしている間に現場に着くのであった。
「ピエロを探して!」
今回の相談者、見た目では、天地ちゃんと同じ年頃、つまり小学生の少女が涙目で携帯にとった猫の写真を見せてくる。
「探すよ。だから少し話をさせてもらえるかい?」
涙目で頷く少女。
「そのピエロが居なくなったのは、何時からだい?」
「今回は、今さっき」
少女の答えに俺は、頬をかく。
「今回って、何度も居なくなるのかい?」
少女が強く頷く。
「そうなの。ピエロって凄く頭良くって、あたしの事も覚えているし、色々芸も出来るんだよ」
「芸ってどんなの?」
興味津々、目を輝かる天地ちゃん。
「うーんとね、小さなワッカを通り抜けたり、高い所から飛び降りたり、色々」
少女も乗ってきて色々と話し始める。
実際のところ、今回天地ちゃんを連れてきた理由の半分は、相談者の少女から話を引き出すためだ。
流石に小さい女の子と長々と話を続けられる自信が無かったので丁度良かった。
二人は、暫く居なくなった猫のピエロの話で盛り上がった。
「ピエロって凄い猫だよ」
少女と別れて調査を始めるが、天地ちゃんが少し興奮気味だった。
「話半分に聞いたとしても、多芸というか、随分と優秀な猫だったみたいだね?」
俺が聞き返すと天地ちゃんが頷く。
「多分、ペットとして改良される前の猫に近いんだと思う」
猫科の動物は、狩猟が得意だから、野生に近ければ身体能力が優れていてもおかしくない。
「問題は、何で同じ猫ばかり、Z、ズーの能力で操るかだ」
「それも二三日で解放するって言うのも変だよね?」
天地ちゃんの言うとおりだ。
単なる悪戯としては、ピエロ自身には、危害を加えられた様子も無い。
MAを使う事に意味があるならピエロにターゲットを絞る必要は、無い。
ピエロ自身に執着があるのなら解放する意味も解らない。
かなり不合理な犯行に思えた。
「轟監査官、どうして貴方がここに居るんですか!」
その声に振り返ると薫が居た。
「俺は、野良猫をMAで誘拐しているって相談があったからその調査だが、お前も方こそ、どうしてだ?」
「野良猫って、相変わらずそんな下らない事を本気で……」
呆れたって顔をする薫を見て天地ちゃんが尋ねてくる。
「一歩さん、この人って知り合い?」
薫も天地ちゃんに気付き俺に詰め寄ってくる。
「一歩! こんな子供に手を出して淫行罪よ!」
「違う、彼女は、御影MA派遣会社に所属しているMA持ちで、今回の野良猫誘拐の調査を手伝って貰ってる天地翔瑠ちゃんだ。こっちが大学の同期で、同じ試験で意思能力監査官試験に受かった親友の山崎薫監査官だ」
俺がお互いを紹介すると天地ちゃんは、無邪気に手を差し出す。
「よろしくお願いします」
薫は、額のMAコーラーを確認してから俺を睨む。
「職権乱用じゃ無いでしょうね?」
俺が頭をかく。
「お前だって、俺の女のタイプくらい知ってるだろ?」
「マザコン一歩が付き合って居た女の大半が胸だけだったかしら?」
薫の悪態に苦笑しながら俺が言う。
「そういうお前は、彼氏一人紹介してきた事も無かったよな?」
「貴方と違って意思能力監査官試験に全力を注いでいただけ! その気になれば男の一人や二人!」
薫が言うとおりだろう。
大学の時も男友達に紹介してくれと何度も頼まれたものだ。
「あのーそれで、山崎監査官さんは、どうしてここにいるんですか?」
天地ちゃんの質問に薫が感情的になりすぎている事に気付き、咳払いをして話を始める。
「この近くの美術館にMAを用いた連続窃盗事件が発生しているの。その調査よ」
俺は、関連ニュースを思い出す。
「確か、T、テレポートを使用して、警備の隙を突いているらしいな」
「そう、ただし使用しているのは、入る時の一回のみ。どうやって盗品をもって脱出しているのかは、謎よ」
薫は、襲われた美術館のセキュリティー情報を見せてくる。
「基本的にどんなセキュリティーも外部からの侵入を防ぐが、内部からの脱出は、防げない。内部に入ってしまえば、出て行く方法は、幾らでもあるが、それでもおかしいな」
俺の意見に薫が頷く。
「あたしもそう思って、非常口などの脱出方法を考えたけど、当然セキュリティーがあって、止める事は、出来なくても出入りの記録は、残る筈よ」
その時、天地ちゃんが手を上げる。
「はい。つい最近の研究でR、リンホース、強化系で体を軟体にする事が可能だって研究結果があったと思います。それを事前に使っておけば、人が通れない小さな窓とかから脱出できると思います」
一理は、あるが、その考えにも無理がある。
「そこまで軟体化した状態で、長時間の普通の活動は、出来ないわ。少なくとも警報で集まった警備の人間から逃げ出すのは、無理ね」
薫の指摘通りだ。
しかし、その時、俺は、全く別の可能性に気付いた。
「薫、盗品リストあるか?」
「あるけど、盗んだ物には、これといった共通点は、無いわよ」
薫が見せてくれたリストを見て俺の予測と合っている事を確認した。
「共通点は、ある。どれもそれほど大きな物でなく、持つのに苦労しないものだって事だ」
眉を顰める薫。
「それは、石像や絵画みたいな大きな物は、盗まれていないけど、高価な宝石や美術品の多くが一歩の言うとおりの物よ」
「そう、だから犯人は、この方法を思いついたのかもしれないな」
俺の返答に天地ちゃんが驚く。
「犯行方法が解ったの!」
「可能性は、高いと思うが、確認の必要があるな」
俺は、MA使用記録の照合を行った。
その夜、俺達は、まだ被害にあっていない美術館の一つの近に車で待機していた。
「TFのMAの使用記録があがったわ」
薫の言葉に俺が呟く。
「初日から引っかかるなんてラッキーだな」
「統計から言って、妥当な所よ」
薫が淡々と告げ、周囲の警官に指示を出す。
周囲がざわめき出す中、一つの車が止まる。
その車に向って猫が近寄っていく。
俺がゆっくりと車を近づけていく中、車のドアが開き、猫を招きいれようとした所で薫が遠距離用スタンガンを構える。
「その猫から離れなさい。私は、警察庁所属の意思能力監査官の山崎薫よ。この周囲は、警官が包囲しているわ」
驚くも平静を装うとする男。
「何ですか? この猫は、俺達の飼い猫ですよ」
「はい、ダウト。その子は、飼い猫登録されてないもん」
天地ちゃんが自分の首をつつく。
保険所に確保されると困るから飼い猫は、きちんと首輪をされ、飼い主がわかる様に成っているものだ。
それが無い猫を飼い猫だという主張は、通らない。
「貴方達の一人が猫をMAで操り、もう一人が美術館の中に転送し、猫が運べそうで高価な美術品を運ばせて居た事は、全て判明しています」
因みTFのMAを使った場所から美術館を挟んで反対側で待ち伏せしていた。
捜査のかく乱を狙って、MAを使用した場所と違う場所で猫を回収しようとする筈だからだ。
チェックメイトと思った時、猫が薫のスタンガンに飛び掛り、弾き飛ばした。
笑みを浮かべる男。
「俺のMA、『マリオネットキャット』は、猫にしか使えないが、自在に操れるんだぜ」
「何度も同じ手が通用すると思っているのか?」
今度は、俺がスタンガンを突きつけるともう一人の男が降りて来て猫を掌に乗せる。
「俺のMA、『オンハンドムーバ』は、掌に乗せた動物した移動できない分、使用制限は、少ないぜ」
何処からともなく襲ってくるか解らなければ対処のしようがない。
『PA』
掌に乗った猫の頭が軽く揺れたと思った瞬間、猫が飛び降りた。
「おい、どうなってる!」
慌ててもう一人の男に怒鳴る。
「直ぐにもう一度操る!」
MAを使おうとする集中する男にスタンガンを食らわす。
そして、残った男に笑顔を向けるスタンガンを回収した薫。
「まだ抵抗する?」
その後、二人は、警察に連行されていった。
「なんでいきなり猫のコントロールが外れたの?」
薫の質問に天地ちゃんの頭を撫でながら言う。
「天地ちゃんのMA、『ワンダメージ』さ。ダメージが小さい分、ゲームで言う所のパーティアタック向きだったんだよ」
苦笑する薫。
「犯罪に使われたりもするけどMAも使い方次第って事ね」
「この子は、どうなるんですか?」
利用されていた猫、ピエロを抱いて心配そうな顔をする天地ちゃんに薫が言う。
「連続の盗難事件の重要証拠だから暫く警察が管理する事になるわ。でも野良猫だとしたら、その後は……」
言葉を濁す薫に不安そうな顔をする天地ちゃん。
「俺が、あの子の両親を説得して、ピエロを飼えるようにしてもらう。それだったら、構わないだろう?」
「本当!」
嬉しそうにする天地ちゃんに薫が眉間に皺を寄せる。
「そう安請け合いして、きっと大変よ」
「乗りかかった船だ。仕方ないさ」
薫の指摘通り、あの少女の両親に犯罪で使われた猫を飼ってもらう様に説得するのは、苦労したが、本人のどうしてもの希望もあり、なんとか了解を得られたのであった。
「また、始末書ですか?」
俺は、深い溜息を吐く中、肩をすくめる海原室長。
「それは、俺が言いたい。どうしたら野良猫の誘拐から連続窃盗事件の解決に発展するんだ?」
「色々あったんですよ」
俺は、早くも二枚目の始末書を書く破目になるのであった。