表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

画蛇添足(がだてんそく)

いきなり最終回です

 俺が、事務所でサービス残業をしていると、携帯電話が震えた。

「こんな時間に誰だ」

 携帯電話に表示されたのは、一番見たくなかった名前だった。

 舌打ちしながらも俺は、出た。

「そちらから電話が掛かってくるなんて珍しい事もあるもんだな」

『お前に利用価値が出来たからだ。明日、私の館に来い。そこで重大な発表がある。来なければあの娘がただでは、すまないぞ』

 一方的な宣言に立ち上がり怒鳴っていた。

「ただでは、すまないってどういう意味だ!」

『再び、研究材料としてモルモットになるという事だ』

 淡々と物言いが更に俺を苛立たせる。

「そんな事をさせると思ってるのか!」

『お前次第だ』

 それだけ言い残すと、万膳は、電話を切った。

「くそー!」

 俺は、事務所の机に拳を振り下ろした。



 翌日の土曜日。

 俺は、母を亡くしてからの数年を過ごした地獄の館に足を踏み入れた。

「おかえりなさいませ」

 そう出迎えるのは、美しい外見のメイド達。

 しかし、俺は、知っている。

 このメイド達の本当の役割を。

 万膳の客への性的接待、その為に奴のパフォーマンスで作られた孤児院から選別され、教育された娘達だ。

 当然、好き好んでそんな真似をしている訳では、ない。

 多くのメイドは、自分達の妹や弟と言っても良い孤児院に残っている子供達の為に体を穢されるのを我慢しているのだ。

 そんな状況だと言うのに奴は、自分の出資した孤児院の生徒に仕事を斡旋している善人というイメージ戦略に使用しているのだから心底見下げた人間だ。

 そして俺の母親もこんなメイドの一人であった。

 こみ上げて来る怒りを堪えて俺は、進む。

「よく来た」

 奥の部屋に居た万膳に俺が告げる。

「何の用だ。俺は、こんな所に長居するつもりは、ない」

「解っている。こっちに来い」

 万膳がこっちの機嫌など気にもせずに進んでいく。

 その先にいたのは、一人の女性だ。

「お前の婚約者だ。年内に結婚式をあげるぞ」

 万膳の通告に俺は、声を荒げる。

「いい加減にしろ! 俺は、お前の道具じゃねえ!」

 俺の反抗に万膳は、冷笑を浮かべる。

「ならばあの娘がモルモットになってもいいのだな?」

 やっぱりそう来たか。

「俺が従ったとして、翔瑠をモルモットにしない訳じゃないだろう!」

 俺は、万膳が例の件に関わっていると知った時から抱いていた懸念を突きつける。

 万膳は、利用できるものは、利用する。

 しかし、同時に自分の目的は、決して諦めない。

 翔瑠が万膳の目的とする力を秘めている可能性があるとしたら、俺の事など関係なく、モルモットにする筈だ。

 高笑いをあげる万膳。

「少しは、考えているみたいだが、残念だな。もう手遅れだ」

「手遅れ……」

 俺の脳裏に嫌な予感が過ぎった時、携帯が震えた。

 慌てて見ると相手は、薫だった。

『どうなっているの! 翔瑠ちゃんが、違法MA使用の嫌疑で公安に逮捕されたわよ!』

「まさか、俺をこっちに呼んだのも!」

 詰め寄ろうとした俺をボディーガード達が押しとめる。

「ついでだ。結婚の話も本当だ。この女性の父親は、軍部に強い影響力を持っている。この婚姻は、これからこの国が軍事国家として再出発する為の契約の証に成るのだ」

 万膳が高らかに語る。

「ふざけるのも大概にしろ! 翔瑠をモルモットにし、多くの犠牲を出した実験を再開して、あのMAを完成させるなんて許されると思っているのか!」

 拘束されながらも俺が怒鳴る。

「許されるかだと? 私が誰に許しを得なければいけないのだ。私は、この国の更なる発展の為、尤も正しいことをする正義。正義を行うのに許しを得る必要などない」

 冷たい目でそう断言する万膳。

「舐めるなよ! 俺が、俺達が何の準備をしていなかったと思ったのか!」

 俺が宣言し、携帯に話しかける。

「薫、室長に連絡してくれ。例の計画を始めてくれと」

『本気なの? そんな事をすれば大スキャンダル、この国の屋台骨すら揺るがす大騒動になるわよ?』

 躊躇する薫に俺が断言する。

「それでも、俺は、信じる。この国に住む人々の正しき心を」

 俺は、携帯を切り、万膳に告げる。

「あんたは、あの翔瑠とそのMAに関わる事を世間から完全に隠蔽し続けたと思っているようだが、残念だが、そんな事は、不可能なんだよ」

「何が言いたい?」

 眉を顰める万膳に俺が携帯であるネットのサイトを見せる。

「ここには、翔瑠のMAの秘密が実名抜きで掲載されている」

 一笑する万膳。

「そんなサイトの一つや二つで何が変わるというのだ?」

 今度は、俺が笑みを浮かべる。

「一つや二つ? 残念だけどな、ネットを馬鹿にするもんじゃないぜ」

 万膳が側近に耳打ちすると側近が慌てて動き出し、少しして駆け戻ってきた。

「万膳様、例のサイトですが、世界中の専門MA研究者が関わるサイトと繋がっており、炎上し始めています」

 万膳が目を見開く。

「貴様、何を考えている。あれが他国に知れれば、この国を叩くいい材料になると解らないのか!」

「国の為にこれ以上、弱者を犠牲にして良い訳が無い。今度の事で多くの痛みを抱えることになっても、この国は、正しい方向に変われる。俺は、そう信じている!」

 俺の宣言を万膳が切り捨てる。

「甘い! 国民に善意などない。自分に都合の良い言葉だけを聞き、都合の悪い言葉は、耳を塞いでしまえる。そんな奴等を信用出来るものか!」

 万膳を見据える。

 子供の頃は、大きく逆らうのも出来なかった存在。

 学生の頃は、その権力に直視も出来なかった存在。

 そして、今俺の前に居るのは、過去の権力に縋りつく痩せ衰えた老人だった。

「あんたがどう思おうが、もう止まらない」

「万膳様、大変です。奴が、海原行脚が、テレビに出ています」

 使用人が再び駆け込んで来た。

 万膳は、苛立ちながらも近くのテレビをつけさせると、計画通りに海原室長が会見を行っている。

『今、一部サイトで問題になっている、この国のMAによる大量殺戮兵器開発は、元代議士、轟万膳の指示の元に行われた物です。その証拠は、ここに揃っています』

 海原室長が提示したのは、海原室長が意思能力問題対策室と言う閑職に身を置きながらも、国に所属し続けてまで調べ上げた物だった。

「今すぐ、この放送を止めさせろ!」

 万膳の指示に使用人達が慌しく動くが、放送は、続く。

「何をやっている、何故、放送が中止されない!」

 苛立つ万膳に俺が答える。

「簡単だよ。あんたが思っている程、あんたの影響力は、残っていないって事だよ」

「馬鹿な事を言うな! 私は、この国のトップだった男だぞ! この国を支え、成長させたのは、私だ。その私の言葉に何故、従わないと言うのだ!」

 万膳が唾を吐き出しながら怒鳴った。

「そうだ! 私は、この国の要、導くものなのだ!」

 俺は、その姿に哀れみすら覚え始めていた。

「何だ、その目は! 道具の分際で、私を哀れむような目で見るな!」

 近寄ってきて、その杖で拘束された俺を叩く。

 恐怖の対象だったその行為は、今の俺には、大した痛みすら与えられない物になっていた。

「あんたは、もう過去の遺物なんだよ。大人しく隠居しているんだな。俺は、翔瑠を助けて明日に向かう」

「待て! あの娘がいればまだ力による、支配が……」

 縋りつこうとする万膳を俺は、振り払い、歩みを進める。

 そして俺の前に婚約者となる筈だった女性が立ち塞がる。

「面白い見世物ですね?」

 俺は、小さくため息を吐く。

「あんたの事情は、知らないが、こっちは、こんな事になった。もう婚約も関係ない」

 それに対してその女性が微笑する。

「それこそ関係ありませんわ。私は、貴方、轟一歩に会いに来たのですから。そして、私の夫になるのは、貴方しかいません。かつてこの国のトップだった轟万膳すら捨石にして前に進む貴方を私は、選びます」

「勘違いしないで貰いたい。俺は、俺一人の力で前に進んでいる訳じゃない。多くの助けがあって、前に進めるんだ。君は、君の人生を送ってくれ」

 そのまま立ち去ろうとする俺を見送りながら女性が宣言する。

「今は、見送りましょう。しかし、この国を変えていく貴方の横に居るのは、私です」

 俺は、前々からチェックしていた施設に向かって車を走らせる。



 その施設は、表向きは、一般的なMA研究所だが、規模の割りに多くの予算が組まれていた。

 予算を辿っていくと万膳の名前が出てきたのだ。

 この事実が解ったのも、それこそ、無数にある国が関与した研究施設の設立経緯、活動、予算等を事細かく調査していた海原室長のおかげである。

「授業中の翔瑠ちゃんを無理やり連れ込まれたみたいよ」

 先に来ていた薫の状況報告に俺が拳を握り締める。

「こんなに早く強硬手段にでるなんてな」

 薫が一つのニュースを見せてくる。

「万膳の隠し資産に切り込みが入ったのよ」

 それは、俺達も知らない情報だった。

「何処からその情報が漏れたか気になるが、今は、少しでも早く翔瑠を助けにいかないとな」

「残念だけど、彼女には、新たな世界の礎になってもらうよ」

 想定外の声に俺が振り返るとそこには、サムスカーが居た。

「さっきの情報は、僕が奴に近い部下から聞きだして流したんだよ」

「何を企んでいる!」

 俺が懐にしまっていた切り札を取り出す。

「それは、国内には、持ち込みすら禁止されている、アンチMAマグナム。よく手に入れたものだ」

 サムスカーは、大した脅威にも感じた様子も無い。

 奴にしてみたら、撃たせなければいいだけの話だろうからそう思っても仕方ない。

 しかし、奴を囲んでいるのは、俺だけじゃない。

「サムスカー、貴方には、射殺許可が下りています。大人しく投降しなさい。さもなければ……」

「どうすると言うんだ!」

 サムスカーから強大な力の波動が放たれた。

 その一発で全ての邪魔者を排除するつもりだったんだろう。

「馬鹿な! 貴様等、何を車に仕込んだ!」

 サムスカーが睨む中、薫が宣言する。

「何時までも犯罪者の好き勝手にさせる訳には、行かないでしょう。今回の件で貴方が出てくると想定して、全パトカーにAMAシールドを装備させてあるわよ」

 鋭くなるサムスカーの視線。

『NE』『QQ』

 猛さんが突っ込む。

「雑魚が黙ってろ!」

 音がした方向にサムスカーが衝撃波を放つ。

 しかし、猛さんは、それを紙一重でかわした。

 そして、その拳がサムスカーの体に触れようとした。

「無駄だ!」

 強力な防御結界が猛さんの拳を防いだ。

「貴様らが何人束になろうが僕に触れることなど……」

 サムスカーは、それを言い終わる事は、出来なかった。

「違法銃器での殺人、俺も犯罪者だな」

 俺の放ったAMAマグナムの弾丸がサムスカーの傷跡の残る額を撃ち抜いた。

「仕方ないことよ。上層部も黙認してくれるわ」

 薫の言葉に俺は、首を横に振る。

「それを甘んじれば、俺は、こいつや万膳と同じになっちまう。翔瑠を助けた後、全部を告白するさ」

 俺は、翔瑠が捕らえられた研究所に突入する。



 抵抗は、あったが、祈祷さんと猛さんの超人的な戦闘力で瞬殺されていく。

 そして俺は、翔瑠が拘束されている部屋に入った。

 そこには、おぞましい映像が流されていた。

「思い出せ! これがお前の真の姿だ!」

 過去の悪夢を本人に直視させていた。

『イヤー!』

 泣き叫ぶ翔瑠。

 俺は、数値にしか目が言っていない研究者を殴り飛ばす。

「貴様、何をする! これは、神を生み出すための大切な研究なのだよ! 人が決して生み出せない無を生み出す神をな!」

 俺は、胸倉を掴む。

「違うな。お前等がやっているのは、その正反対、魔王を生み出す行為だ!」

 俺は、もう一度殴り、きっちり意識を失わせて、全ての映像を消して、翔瑠を拘束から解き放つ。

「翔瑠、大丈夫か!」

 俺が駆け寄ろうとした。

『NE』

「駄目!」

『QQ』

 祈祷さんの声と共に猛さんが俺と祈祷さんを掴み、後退した。

『XX』

 目の前に無が広がっていく。

「暴走が始まったのよ。 多分、あの研究所でも同じことが起こったのだと思う」

 予知能力を持つ祈祷さんの言葉に俺は、あの研究所の事を思い出す。

「詰り、ここもあの研究所と同じ様になるというのですか?」

 祈祷さんが首を横に振る。

「あの時とは、違うみたい。この無は、際限なく広がる。翔瑠の限界が窒息死するまで止まる事は、ないわ」

 辛そうな顔の祈祷さんの言葉に俺が驚く。

「そんな、あの時と同じだったら、翔瑠だけは、無事の筈」

「あの時は、翔瑠の母親が、その身を無に晒しながらも翔瑠を引き戻してくれたのよ。今だったら解る。あの事件で唯一、原型を留めてられたのか。翔瑠の無意識の想いが母親を護ろうとし、その母親も娘を護ろうと無の空間から娘を護り、最後の力で全ての記憶を失わせた。催眠術、それが彼女の得意分野だったわ」

 祈祷さんの説明に俺は、自分の不甲斐なさに憤りを覚えた。

「そんな母親の思いで護られていた翔瑠、一人も護れなかったっていうのか!」

「そうだ、そして、このままでは、もっと大量の人間が死ぬだろうな?」

 振り返るとサムスカーが居た。

「意外そうな顔をするな。この傷は、貴様と同じ方法を試されて出来た物だ。その対処として特殊合金を埋め込んであるんだよ」

「お前の思い通りみたいだな」

 俺の嫌味にサムスカーが苦笑する。

「そうでもない。このままでは、たかが数十万人の人間が死んで終わりだ。数億の人を殺して、僕らの宣戦布告としたかったんだけどね」

「五月蝿い! お前もここに居れば死ぬぞ。逃げろ」

 俺は、サムスカーを無視して翔瑠の方に向き直る。

「それも一手だが、僕は、自分の計画を変えるつもりは、無い。様は、あの娘の意識を失わせれば良いんだろう。僕の力である程度の中和を行う。そこに貴様のAMAマグナムを撃て」

「馬鹿な事を言うな! そんな事をすれば翔瑠が死ぬだろうが!」

 俺が怒鳴り返す。

「しかし、そうしなければ大勢の人間が死ぬぞ」

 もう一度振り返る俺の前で挑発するように微笑むサムスカーだったが、肩をすくめる。

「さっきも言っただろう。計画を続行する為には、あの娘が必要なのだ。頭の横をかすめ、衝撃波で意識を失わせれば良いんだ。まあ、実際殺した所で結果は、変わらないだろうがな」

 俺は、AMAマグナムを見る。

 殺人を目的とした大口径の弾丸、もしも少しでも当たれば殺しかねない。

 かといって外しすぎては、意味が無い。

 そしてチャンスは、一度だけだろう。

「迷っている時間は、無い。やるぞ」

 サムスカーが力を解き放つと真円を描いていた無の空間に歪みが生まれる。

 銃口を定める手が震える。

 心の中で様々な葛藤があった。

 それでも俺は、引き金を引いた。



 俺は、拘留されている。

 翔瑠の為だといえ、色々と違法行為をしてしまったから当然だった。

「翔瑠は、生きているのか?」

 無は、収まり、祈祷さんに翔瑠が抱きかかえられたのは、確認したが、その後、俺は、直ぐに拘束されてしまった為、結果だが、翔瑠の安否だけは、知りたかった。

 しかし、関係者の誰もそれについては、何も話さない。

 そしてようやく、その結末を教えてくれそうな人間が来た。

「一歩、貴方は、無罪放免よ」

 薫の言葉に俺は、落胆の表情を見せる。

「冗談もそこまでいくと笑えないぞ。どう考えても今回の件は、実刑は、確実だろう。それを裁判もなしだなんてありえないだろう」

「上層部は、今回の事は、全て万膳の暴走として終わらせるつもり。そして貴方には、その暴走を止めた英雄って立場が用意されているわ」

 冷めた口調の薫を俺が睨む。

「俺がそんな立場に甘んじると思うのか!」

「思うわけないでしょう!」

 薫も怒鳴った。

「でも、そうでもしなければ、翔瑠が始末されるわ」

 ようやく聞きたい言葉が聴けた。

「翔瑠は、生きているんだな?」

「ええ、まだ意識は、取り戻していないけど、体には、問題ないそうよ」

 薫の答えに俺は、軽い安堵を覚えながら続ける。

「だったら、大丈夫だ。俺以外にも翔瑠を護ってくれる人間が居る。俺は、俺の正義を貫くさ」

「無理よ。だって、翔瑠は、『XX』の持ち主として全世界を敵に回してしまっている。彼女を助けられるのは、英雄じゃなければいけないの」

 薫の辛そうな言葉に俺が思案する。

「翔瑠に会わせて貰えないか?」

「まだ目覚めていない。もしかしたら、このまま目覚めないほうが幸せなのかもしれない」

 薫の言いたいことは、解る。

「それでも会いたいんだ」

「解った」

 薫は、そういって手配をしてくれた。



 俺は、いくつもの装置と繋がり眠り続ける翔瑠を見る。

 その顔には、苦痛の表情が浮かんでいる。

「止めて、止めて! お父さん!」

 うわ言が何を意味しているのかも解る。

 もう俺が知っている翔瑠には、戻れないかもしれない。

「だが、俺は、信じたいんだお前の明日を」

 俺がそう呟いた時、またあの声がした。

「本当に甘い男だ。しかし、その娘を処分されたら困るからね」

 サムスカーだ。

「何をしに来た?」

 サムスカーが指を鳴らすと、翔瑠の顔が少し和らいだ。

「悪夢の記憶を封鎖したよ。これで、『XX』が発動する事は、無い筈だ」

 背を向けるサムスカー。

「どういう事だ? お前は、『XX』を使って、世界を変えたかったんじゃないのか?」

 サムスカーは、自分の額の傷を触る。

「最初に額にAMAマグナムを受けたとき、MAコーラーがクッションになって死をまのがれた。当時は、あの人の裏切りしか頭に無かった。でも、お前を見ていると、もしかしたら万が一にも生き残れるようにそこを狙ったんじゃないかって思える時もあるんだ」

 サムスカーの後悔の色が見えた。

「だが、勘違いするな。今は、準備が足りないだけだ。『XX』でMA持ちを迫害する奴等を思い知らせられる準備が出来、お前達が変わらない限り、僕は、その娘の悪夢を解き放ち、再び『XX』を使わせる」

 決意の表情を見せるサムスカーに俺も答える。

「そんな事は、俺がさせない。MA持ちが幸せに暮らせる世界を作る。お前の野望になんて誰も力を貸さない世界にしてやるさ」

 微笑を浮かべるサムスカー。

「御伽噺の様な世界が来ると良いね。しかし、現実は、僕を後押ししてくれるさ」

 そして消えていくサムスカー。

「御伽噺になんてさせない。俺が現実に変えてみせる」

「何の話?」

 翔瑠が目を覚ます。

「目が覚めたのか!」

 驚いている俺を横目に翔瑠が眉を寄せる。

「何か、長々と寝ていた気がする? 何かあった?」

「何にも無いさ」

 俺は、その無邪気な顔を見ながら決意を固める。



「結局、この窓際に残るわけ?」

 薫の言葉に俺は、意思能力問題対策室の室長席に座る。

「良いだろう。告白の一件で時の人になった海原前室長が政治家としてMA持ちに関する待遇の改善を実行していき、俺がここでその底辺を支える。それがベストなんだよ」

 薫が苦笑する。

「英雄として貴方が主役になるチャンスもあったのにね。でも、裏方で居られる思わないことね」

「何でだ?」

 俺が問い掛けすと、翔瑠が意思能力問題対策室の新人と一緒に駆け込んできた。

「一歩、大変! 偽造MAコーラーがいっぱい出てきたの!」

「ただの偽MA持ちの警告作業で、何でそうなる!」

 俺が立ち上がり新人が怯えた顔になる。

「えーと、偽者がつけていたMAコーラーが意外と精密で出所を問い質したら、そいつの家の隣が大規模な偽造工場だったらしく……」

 薫が携帯を取り出しながら言う。

「どうせこうなると思ってた。どうやっても、貴方達は、騒ぎを大きくして表舞台に立つ人間なのよ。MAコーラーの偽造工場の場所が解ったから直ぐに人をやって」

「轟一歩さん、お弁当を持ってきました」

 万膳の所であった婚約者と言われた女性の登場し、俺は、力の限り叫ぶ。

「こんなのは、俺の思っていた明日と違う!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ