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初志貫徹(ショシカンテツ) 

一人のエリート官僚とトラブル少女が出会い運命の輪が回り始める

「君は、本気なのかね?」

 俺の言葉を聞いた相手が驚いた顔をしたが、俺は、はっきり答える。

「私、トドロキ一歩イッポは、意思能力問題対策室への配属を希望します」

 この国で最高学府を卒業し、もっとも難しいと言われる意思能力監査官の資格をとった、世間一般的に言えば、間違いなくエリートコースである。

「君は、解っていない。あそこは、所謂窓際だ。国の意思能力問題対策に関わりたいのだったら、もっと適した部署が有る筈だ」

 必死に説得してくる相手にも俺は、折れない。

「私は、庶民の視線で意思能力問題に関わって行きたいのです」

 その後も色々と言ってきたが、どんな事を言われても俺の気持ちは、変わらない。



 そして、配属初日。

 一等地にある意思能力関連の政府機関施設に俺は、脚を踏み入れた。

 案内板の欠落に首を傾げた。

 俺は、受付に行き、確認する事にした。

「すいません。意思能力問題対策室の場所が書かれていないのですが、どういう事でしょうか?」

 受付の女性が嘲りの表情を見せた。

「すいません。意思能力問題対策室は、この施設内には、ありません。あちらに地図がありますので、そちらを見て、相談に行ってください」

 一瞬で作り笑いをするが、俺は、見逃さない。

「何を勘違いしているか解りませんが、私は、本日づけでそちらに配属になった轟一歩と言います。これから何かとお世話になると思いますのでよろしくお願いします」

 頭を上げると受付の女性も慌てて頭を下げるが、俺は、すぐさま踵を返し、地図を持って、施設を出る。

 意思能力対策室は、それほど離れていない場所にあった。

 しかし、それは、先程の立派な施設とかなりかけ離れたオンボロな建物だった。

「想像以上の冷遇ぶりだな」

 苦笑しながらも俺は、ビルに入ろうとした時、一人の少女がお財布の中身を確認して居た。

「はー、かなりピンチだ」

「君、こんな所で何をしてるんだい?」

 俺が話しかけると少女は、額を指差す。

「あちきは、これで、このビルに入っている御影MA派遣会社に所属してて、仕事が無いか確認に来たの」

 少女の額にあるのは、確かにMAコーラー。

 MA持ちだとしたら、そういう事もあるだろう。

「そうかい。仕事があると良いね」

「本当だよ」

 深く溜息を吐く少女を尻目にビルの案内板を確認して意思能力対策室に向った。



 意思能力対策室と書かれたドアの前で深呼吸し、ノックする。

「どうぞ」

 声に答え、ドアを開けて入る。

「失礼します。私は、本日より配属になりました轟一歩と申します。よろしくお願いします」

 それに対して、奥の席に居た四十後半の俺の上司と思われる男性が緩い表情で言う。

「そう畏まらなくても良いよ。私は、海原カイバラ行脚アンギャ。君も聞いているだろう、ここは、窓際部署だ。かくいう私も出世コースを踏み外した定年待ちの室長だよ。そして他には、パート職員が何人かいるだけだが、まだ来てないね。おいおい紹介していくよ」

 海原室長は、自分の席の前の空き席を指す。

「そこが君の席だ。まあ、座りたまえ」

 俺は、言われるままに座って、確認する。

「あの他の職員が来る前に確認したいのですが、ここが国民からの相談を聞くだけの部署というのは、本当でしょうか?」

 苦笑する海原室長。

「聞きづらい事をはっきり聞くね。まあ、本当に対策が必要な問題がここにまわされる事は、まず無いね。ここに回ってくるのは、悪戯レベルのトラブルって所だから、クレームの一つでも言えば言った相手も大抵納得するもんだ。そういった問い合わせもパートの人達が受けてくれるから私一人居れば十分だったよ」

「それでも、本当に悩んでいる人が居ると思います。私は、そういった人の助けになりたいのです」

「君みたいな、優秀な人間だったら、もっとその能力を生かせる部署があったんじゃないのかい?」

 海原室長の言葉に俺は、昔の事を思い出す。

 まだ小学生だった頃、MA持ちが悪戯を続けて、近所で困っていたが、相手がMA持ちという事もあって文句も言えず、逆に警察沙汰にするほどの大事でも無かった。

 そんな時、意思能力対策室の人が来て、その悪戯を止めさせてくれた。

 子供心に近所の人々が本当に感謝している事が解った。

「誰もがやりたがる部署は、他の誰かがやれば良い事です。誰もがやりたがらない仕事に私のやりがいを求められるのならその仕事をやるのが正しい事だと思います」

「君も変わり者だね」

 呆れた顔をされたが、もう散々言われたので慣れた反応だ。

「そうだ、そういう君にぴったりの仕事があるんだが、早速やってみないかね?」

 そういって海原室長が一冊のファイルを見せてくれた。

「MAを使った連続柿泥棒? 態々柿泥棒にMAを使ったのですか?」

 軽く事件の概要を見て質問する俺に海原室長が頷く。

「そうだ、柿泥棒の現場でMAの使用履歴があるのは、確かなんだが、問題の柿木の枝先がその住人の敷地の外に有る為、所有権が難しく、警察が出て行くことも出来ないそうなんだよ」

 確かに俺向きかもしれない。

「了解しました。問題なければ直ぐにも現場に行きたいのですが?」

「行くのは、構わないが、相手は、MA持ちだ。万が一の事がある。下請けをしてくれているMA派遣会社があるからそこで、適当な人に同行してもらいなさい。偶には、費用を使わないといけないからね」

 海原室長の役人的な言葉に送り出されて俺は、意思能力対策室を出た。



 下の階に行くと先程の少女が名前をだしたMA派遣会社があった。

『NE』

 これは、MAコーラーの音声。

 開こうとしたドアが開いた。

「これがあたしのMA、『ブリンクフューチャー』。数秒先の未来を見る能力よ」

 奥の席に綺麗な女性が居た。

「あたしが、御影MA派遣会社の社長、御影ミカゲ祈祷キトウよ。話は、海原さんから聞いているわ。意思能力監査官になったのに、自分から窓際部署に来た奇特な人だって。本日の依頼は、柿泥棒のMA持ちに対する調査ね。大した能力者じゃなくても良いでしょうから、いま探すわね」

 するとドアの外からさっきの少女が声をあげる。

「はい! あちきがやる!」

 駆け込んでくる少女に御影さんは、冷たい視線を向ける。

「駄目。今回のお客様は、上得意の意思能力対策室なのよ。万が一にもトラブルがあったらいけないんだからね」

「でもでも、今日も仕事が無かったら、あちきは、どうやって週末を過ごせば良いの?」

 涙目で問い掛ける少女を御影さんが切って捨てる。

「だから何度も言っているわよね、MAの勉強なんて、もっと大人になってから始めなさいって。あんな金食い虫な勉強をやっていたら生活なんて出来ないって」

「君は、MAの勉強をしてるのかい?」

 俺が問い掛けると少女が強く頷く。

「うん。あちきの亡くなった両親は、MAの研究者で、その意志を継いであちきもMAの研究者になりたいの!」

 なんて健気な子なんだ。

「御影さん、私は、彼女で構わないです。どうせ今回は、柿泥棒です。相手も政府の人間が本格的に動いたと判れば止めるでしょう」

「本当?」

 目を輝かせる少女を尻目に御影さんが忠告してきた。

「その子、天地アマチ翔瑠カケルは、トラブルメーカーなんですから駄目です」

「子供の起こすトラブルくらい気にしません。責任は、私がとりますから安心して下さい」

 俺が自信たっぷり答えると御影さんが大きなため息を吐く。

「若いって無謀ね。その発言は、絶対に航海するだろうけど、若いうちの苦労は、買ってでもしろというからね。翔瑠の能力は、『ワンダメージ』って『PA』。一日十二回までで、威力は、自分の身で試してみて」

 促される様に天地ちゃんが力を籠める。

『PA』

 次の瞬間、額にデコピンを受けた様な痛みだけが走る。

「まさかと思うけどこれだけかい?」

 天地ちゃんが恥ずかしそうにする中、御影さんが頷く。

「やっぱりやめておく?」

 余り役に立つとは、思えないが、最初から今回の案件には、MAなんて必要ないと考えていたから問題は、無い。

「いいえ、天地ちゃんでお願いします」

「了解。頑張ってきてね」

 簡単な書類にサインをして、俺は、天地ちゃんを連れて現場に向う。

 その途中、MAの学術書を読む天地ちゃん。

「熱心だね。そうだ、これでも私は、意思能力監査官の資格を持っている、君の勉強の手助けが出来ると思う。質問あったら、どんどんしてきなさい」

 目を見開く天地ちゃん。

「嘘! 国家資格の中でも難しいって言われてるのに凄い!」

 尊敬の眼差しで見てくる天地ちゃん。

「その前に基礎確認と行こうか。俗にMAと呼ばれる物の正式名称と意味は?」

「マインドアビリティー、意思能力。人の意思により生み出される特殊能力で、その現象から二十六種の識別しパワーによってクラス訳される。これは、世界共通でアルファベット一文字でそれぞれを表す」

 即答する天地ちゃんの額を触れる。

「そんなMAを使えるMA持ちの額にあるこの装置について答えろ」

「MAコーラーと呼ばれる装置で、国連で、MA持ち全員への装着が義務付けられていて、MAの消失が認められない限り外す事は、許されない。装置の機能は、MAを使用したときにそのMAの種別とクラスを音声でしらすと同時に各国の専門施設に送信するシステムがとられて居る」

 天地ちゃんの回答は、教科書通りだ。

「今回の柿泥棒がMAを使ったのが判ったのもその送信システムが有るお蔭で、MAの不正使用の取り締まりに大いに役に立っている」

「でも、使用MAが『OE』って言うのが不自然だよ。柿泥棒だったら、あちきのワンダメージと同じP、パワーの念動力系だと思うんだけどな」

 天地ちゃんの指摘は、正しい。

「普通ならそうだが、O、オールドの老化のMAは、物質に対する時間経過を早くする。まだ熟していない柿を完熟させて自然落下させたんだ。それも警察が介入し辛い理由の一つで、どれがMAを使って落下させたまでは、判断が難しいからね」

 眉を寄せる天地ちゃん。

「そんな凄い能力だったらもっと有効な使い方があるんじゃない?」

 俺は、肩をすくめる。

「そこが難しいところでね。通常の流通に回る植物にMAを使った物は、認められない事になっている。どんなに凄いMAでも正式に使用できなければ、宝の持ち腐れで、それを悪用する人間があらわれる」

 小さな溜息を吐く天地ちゃん。

「MA関連法の改案って毎年山の様に出るから覚えるのが大変だよ」

 それこそ、意思能力監査官の資格を取る最大難関。

 毎年、追加される何百とも言われる改案の所為で、年々難度が上がっている。

 しかし、毎年世界で数万と呼ばれる新種のMAとその利用法が発見される現状を考えるとこれでも後手後手に回ってしまう。

 意思能力監査官には、その難関さと専門知識の必要性から多大な権限がある。

 今回の様なMAを関係した事件に関しては、一時的な処理としてだが、逮捕権、裁判権を持ち、各機関に関して命令権を行使できる。

 その後、天地ちゃんの質問に答えているうちに問題の場所に着いた。

「柿が落ちてるね」

 天地ちゃんが落ちている柿を拾って、上を見る。

「この状況では、確かに自然に落ちたのとMAを使って落としたのとの差が判別出来ないな」

「あのー使用者の意思能力監査官だったら、国に申請してMA使用者の特定が出来るんじゃないの?」

 天地ちゃんの指摘は、よく誤解される事だ。

「プライバシー保護の関係でMA使用の通信には、個人識別出来る無い様にしてあるんだよ」

「何か中途半端な対処だね」

 天地ちゃんの突っ込みは、当然だ。

「それでも、全くしないよりマシだよ。摂りあえず、この家のご主人に話を聞こう」

 柿木がある家の主人に会う。

「すいません。私は、意思能力問題対策室の意思能力監査官轟一歩です。ご連絡頂いています柿泥棒の件でお聞きしたい事があります」

 それに対して、出てきた人の良さそうな老人は、不思議そうな顔をする。

「はて、そんな相談をした事は、ありませんが」

「しかし、確かに柿泥棒が出たと意思能力対策室に相談の電話があり、実際にMAが使われた記録もありましたが」

 予想外の展開に俺が聞き返すと首を傾げる老人。

「しかし、別に無理に盗む必要も無い筈ですが?」

「意思能力監査官さん、こんなの置かれてた」

 天地ちゃんが持ってきたのは、柿が入った笊とご自由にお持ち帰り下さいという紙だった。

 老人にお詫びしてその場を離れる。

 近くの公園のベンチに座り、思考する。

 その横で天地ちゃんが貰って来た柿の皮を剥いて食べ始める。

「美味しい柿だよ。でも、何で普通に貰えるのを夜に盗む必要があったんだろう?」

 俺は、その一言に資料を再び見直す。

「そうだ、MAの使用は、常に深夜行われている」

「泥棒なんだから当然なんじゃない?」

 天地ちゃんの柿を指差して答える。

「タダで手に入るのに? 熟すのを待ちきれないんだとしても、人目をはばかる必要は、無い。もしかするともしかするかもしれない」

 そして俺は、夜を待つことにした。



「眠いです」

 意思能力監査室の車の助手席で欠伸する天地ちゃん。

「寝ていても構わないよ」

「でももう直ぐ、犯人が来る頃ですよね?」

 天地ちゃんが眠い目を擦り、起きようとするが俺は、笑顔で答える。

「来たら起こすから、大丈夫だよ」

「そうですか。それだったら」

 そのまま寝息をたてる天地ちゃんだったが、犯人が来ても起こすつもりは、無い。

 俺の予想が正しければ、面倒な事になる筈だ。

 自分の考えが間違っている事を祈りながら待っていると、数人の男達がやって来る。

 そしてその中の一人の額には、MAコーラーがある。

『OE』

 MAの発動を確認し、俺が車のライトで照らす。

 その先には、高級食材が並んでいた。

「そこまでだ、意思能力監査官の轟一歩だ。お前達には、MAに因る不正植物成長容疑が掛かっている。素直に警察まで同行してもらおう」

 俺が意思能力監査官のバッチを見せると男達は、驚く。

「どうして意思能力監査官が柿泥棒何かに出て来るんだよ!」

 俺は、睨みつける。

「そんな事は、どうでも良い。お前達は、そこに並んだ植物を不正に成長させて違法な利益を上げようとした。それを誤魔化すために自分達で柿泥棒のタレコミをしたんだな」

 悔しそうにする男達。

 正直、上手い方法を考えたものだ。

 MAの使用は、どうして誤魔化す事は、出来ない。

 不自然に連続使用しているのに気付かれたら、多少場所を変えた所で調査班が動いて発見される。

 どうせ気付かれるならと使用目的を軽犯罪と誤認させる事を選んだ。

「お前達の写真もとったもう逃げられないぞ」

 すると男達は、拳銃を取り出した。

「だったらお前を殺してその証拠を隠蔽するだけだ!」

 やっぱり荒事になったか、天地ちゃんが起こさなくて正解だった。

 俺は、暴走MA持ち鎮圧用遠距離スタンガンを抜き撃ちする。

 拳銃を持った奴を気絶させて残った奴にスタンガンを向ける。

「スタンガンでも喰らえば痛いぞ」

 周りの男達が怯む中、MAコーラーをつけた男が動いた。

「O、オールドの老化のMAでは、攻撃には、使えないぞ!」

 よほど高いレベルでなければ人体にダメージある筈が無い。

『OE』

 俺は、判断ミスをした。

「……しまった」

 俺の手からスタンガンが零れ落ちる。

 ダメージを食らった訳では、無い。

 老化とは、即ち成長であり、その為には、大量のエネルギーが消費される。

 急激な成長は、多大な疲労を与える。

 俺の手に力が入らなくなったのだ。

 チャンスとばかりに近づいてくる男達。

 ヤバイと思った瞬間、MAコーラーの音声が聞こえた。

『PA』

 戦闘の男がいきなりの痛みに左右を見回す中、車から天地ちゃんが出てくる。

「もう、ちゃんと起こしてよ」

「危ない! 逃げるんだ!」

 俺が叫ぶが、残念だが逆効果だった。

「そのガキを人質にするんだ!」

 一気に男達が天地ちゃんに迫る。

「止めろ!」

 俺が必死に駆け寄ろうとしたが間に合わない。

 しかし、倒れたのは、男達の方だった。

「安心して、あちきは、獣王戦技ジュウオウセンギを使えるから」

 微笑む天地ちゃん。

 獣王戦技、素手の格闘から武器や兵器を使った戦闘まで含めた戦闘技術。

 MA持ちとの戦闘で有効性が高いと人気が高い物だった。

「だとしても無茶をしたら駄目だ!」

 いくら獣王戦技を使え様と女の子がこんな複数の男性を敵に回して勝てる訳が無い。

 囲まれる天地ちゃん。

『PA』

 再び聞こえるMAコーラーの音声、不意のダメージに意識を逸らされた男達の急所に天地ちゃんの拳がめり込む。

「『ワンダメージ』にこんな使い方があるなんて……」

 実際に与えるダメージは、皆無だが、ダメージを受けた事による隙が天地ちゃんに絶対的なアドバンスを与えている。

「ならば俺のMA、『クックタイム』を喰らえ」

 MA持ちの男が叫ぶ。

『OE』

 天地ちゃんまで疲労させられたら、おしまいだ。

 俺は、最後の力で、天地ちゃんを庇う。

「意思能力監査官さん!」

 驚いた顔をする天地ちゃんに俺が微笑む。

「何とか、間に合ったよ」

 そして、俺は、疲労からその場に倒れて、意識を失った。



 次に目を覚ましたのは、病院だった。

 ベッドの横には海原室長が居た。

「まさか、柿泥棒の調査に行って、病院行きになるとは、思わなかったぞ」

 呆れた顔をされるのも当然かもしれない。

「しかし、大手柄だ。奴らは、警察の方でも追っていてが、どうやって密かにMAを使っていたのか解明できずに逮捕出来ずに居たらしいからな。今回の一件で芋蔓式に組織の全貌を暴くみたいだ」

「そうですか」

 俺が生返事を返すと海原室長が尋ねてくる。

「今回の事で懲りたか? 部署の移動申請だったら早い方が良いぞ」

 俺は、首を横に振る。

「今回の事で誰も助けにも成れなかったと思っただけです」

「お前は、本当に変わり者だな。所で、今回の事で警察庁詰めの意思能力監査官から抗議が来ているぞ」

 海原室長が抗議文を見せてくる。

 中身は、自分達の追っていたMA持ちに対し、通知なき干渉を問題にしているお役所的な物だった。

「一応仁義って奴も必要なんだよ。初日から始末書だ。意思能力問題対策室のワースト記録として永遠に残るだろうな」

 苦笑するしかなかったが、天地ちゃんの事を思い出した。

「そうだ、天地ちゃんは?」

 海原室長は、沈痛な表情をする。

「全治三ヶ月だよ」

 俺が動かぬ体に鞭をうって起こす。

「本当ですか!」

「ああ、お前が倒れたのを見て、問題のMA持ちに全治三ヶ月の重症を負わせてた。翔瑠も中学二年になったんだから少しは、手加減を覚えて欲しいものだ」

 海原室長の言葉に俺は、驚く。

「中学生なんですか? てっきり小学生だと……」

「本人には、言うなよ。切れて暴れるから。それにしてもタケル奴も才能有るからって翔瑠にあそこまで獣王戦技仕込むか?」

 海原室長のボヤキをベッドに倒れながら聞くのであった。

 こうして、大トラブルになった配属初日が終りっていく。

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