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飼育屋

 ある日、ディズの営む肉『ランヴェルセ』に一人の客が訪れた。

 時刻は十六時ぐらい、客が来ないから今日はもう閉店しようか――そう考えてる時だった。

 「こんにちはディズ」

 まず目につくのは真っ赤なロングの髪の毛、同じ色のルージュに目元には黒いアイシャドウ少し化粧がきつめのこの女は

 「いらっしゃいませ飼育屋さん」

 飼育屋、名前は知らない。

 覚える必要もない。

 飼育屋は豪華な毛足の長い毛皮を纏いその下は黒の革のボンテージ、腰をしっかりと絞めたコルセットや網目の大きな網タイツがいかにもいやらしい感じだった。

 「ディズ、今日はお仕事を頼みたいの」

 飼育屋はガラスのショーケースに肘を突き上目使いでそう強請るような猫撫で声を上げる。

 ショーケースの中には新鮮な肉が並んでいる。どれもディズ自ら仕入れた自慢の品ばかりだ。

 「いいですけど、飼育屋さんのお仕事はなぁー……」

 この女は分かりやすい言い方をするなら「女王様」だ。被虐願望のあるものないものでも調教してりぱな家畜にしたて上げる。

 彼女がディズに依頼する仕事はたいがい

 「メス犬の乳房をね。切除するショーがあるんだけど手配したドクターが都合が悪くなってしまったんですって!ただ肉を削ぐだけなら私だって出来るけど綺麗になんて技術をもった人じゃなきゃできないわ。メス犬が処分品なら別にそれだって構わないけどその後転売する予定もあるの。だからおねがい」

 やはり、そうかとディズは苦く笑う。

 「俺はあまり大衆に注目されるのは苦手なのですが」

 そして、ただ快楽のためだけに肉を削ぐのは好きではない。

 食べる為に、生きる為に、殺すために、そういう目的がないとどうもやる気になれないのだ。

 「あら?あなた結構男前じゃない?ゲストも見た目綺麗な方が満足するし丁度いいと思うわ」

 ね?と女は引き下がる気は無さそうだった。

 ディズは溜息を吐き出し

 「サクは?」

 と、一応聞く。最近こちらの仕事はディズとサクがセットな事が多いからだ。

 「サクはお留守番。子供にはちょっと早いし折角の歌が消されちゃ勿体ないもの」

 歌と言うのはきっと女の上げる悲鳴だろう。

 「それじゃあ行きましょう。早く支度なさい」

 飼育屋はそうディズを急かす。ディズは仕方なく二度目の溜息を吐き出しながら店の奥に居るサクに出かける旨を伝え店を出た。




 

 (やっぱり割に合わない)

 


 仕事を終え報酬の肉が入った箱を見つめながらディズは思った。

 勿論報酬は肉だけでなく金もあったが、金ならこの前はらし屋にもらった金貨がまだ残っているし店の売上もある。

 だからディズは金よりも今は肉が欲しいのに、今日手に入ったのはメスの胸肉だけ

 (脂肪が多くてな……ラード作るぐらいしか使いようがない)

 さてこれでどんな料理を作ろうか、そんな事を考えながら店の扉を開ける。

 「!?」

 瞬間に下半身に何かが絡まった。

 絡まったと言うか抱きつかれたと言うべきだろうか。

 驚いて下を見るとディズの腹の当たりに黒く小さな頭があった。

 「サク……どうした?」

 それはサクの頭だった。

 声を掛けるがサクは返事はしない。いやサクは元から喋らない。喋れないのか喋らないのか詳しくは分からないが会話によるコミュニケーションはいつだってディズの一方通行だ。

 (もしかして) 

 そう思い店内の時計を見てディズは驚いた。もうあと三十分程で朝が訪れる。

 「悪い、心配したか?」

 ショー事態が始まったのが深夜の零時を回ってからだった。そうだと分かっていたならあんな早くに出ては行かなかったのにと少し後悔する。

 だって飼育屋にご馳走された夕食はディズの舌には合わなくて

 「朝はんにしようサク」

 そう小さな背中を叩いてようやく自分から離れたサクの方に手をかけ店の奥へと入っていった。

 朝食は手に入れた新鮮なラードでベーコンと卵でも焼こう。ベーコンはカリカリに卵は半熟にして――油がいいからきっといつもより美味しくできる筈だ。

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