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野球親子

とある父と子の、高校野球春の大会にまつわる実話である。T県に甲子園出場をも狙える実力校があった。県立N高等学校硬式野球部である。ただ、この春の大会は甲子園とは直結せず、県のベスト2だけがその後の中部地区大会へ進出できるというものであった。

このN校に、冬場のシーズンオフ中に実力をつけ頭角を表し、2年生にして1番ショート背番号6のレギュラーポジションを射止めた柳沢俊哉という部員がいた。彼の父・柳沢明夫もまた、かつては甲子園こそ夢のまた夢で全然ほど遠かったが、元高校球児であった。

明夫は、俊哉がまだ幼い頃から彼に野球を教えた。左打者の方が好都合と思い、息子を右投げ左打ちに仕込んだ。この春の大会で、N高校が県内ベスト8まで勝ち上がった為、仕事で県外に単身赴任中であった明夫は、休日を利用し彼の母、つまりは本人俊哉のばあちゃんを連れて、試合の観戦にJ球場へと向かった。

しかし結果は残念……。N高校は強豪のD高校に4対2で惜敗してしまった。ただ夏の甲子園大会に向けての、県内予選の二回戦から出場のシード権だけは、かろうじて獲得した。

明夫は、その日のうちに赴任先の県外にトンボ帰りした。翌日の夜、明夫は今後の息子のためにと思い、観戦した試合について感じ取った内容を詳細な文章にして、俊哉あてに携帯メールにて送信した。以下はその一部始終である。



俊哉へ ~My opinion~


昨日5/3の春の大会J球場準々決勝、対D校戦を観戦しての具体的かつちょっと厳しいアドバイスを今後の俊哉のために送ろうと思う。長文になるが、心して読んでみてくれ。


まず、3塁側スタンドで観戦していて、試合終了時に感じた事は、「何とも惜しい…。両チームとも力は互角なのに…」という悔しい印象だった。

だとすると、一体何が駄目で惜敗してしまったのか?という問題になる。これは試合終了後のレフト側グランド上での輪になっての反省会や、帰りのバス乗車前のミーティング時に、たぶん今から書く内容と同じような事を監督さん達から言われているだろうと思うのだが…。

最初に余談になるが、このシーズンオフ中に努力して頑張ったか、よくぞ1番ショート背番号6の座を手にした! おめでとう!

「一回の表、N高校の攻撃は、1番ショート柳沢くん」のアナウンスが流れた時には、さすがに鳥肌が立って感動した! ばあちゃんは、これを聞いて横で泣いていた。


さあ、話を本題に戻そう。

まず俊哉にとって一番反省すべき点は、ピッチャーが交代した中盤の回、先頭打者の平凡なショートゴロを俊哉が捕るまでは良かったが一塁へ悪送球して、いきなりピンチを作ってしまった事。

あの後、内野がマウンドに集まり、俊哉はしきりに頭を下げ自分のミスを詫びていたようだが、得てしてそういうつまらないエラーが大量得点に結びついたりもするのが現状である。

それと前々から「おや?」と思っていたのだが、俊哉のファーストへの送球が少しライト方向へ逸れてしまう傾向がある! あのゴロもタイミングは楽々アウトなのに、正面に投げていないためにファーストがベースから離れて捕球できずにセーフとなっている。

今後の練習で、基礎となるキャッチボールで相手の正面に真っ直ぐに投げることの今一度の初心に返っての練習、ならびにシートノックの内野守備練習の時のファーストへの迅速で正確確実な送球に、今後特に留意して更なる練習に励めば、きっと俊哉はもっといい一皮むけたショートストッパーに飛躍できるだろうと思う!

とにかく、あの回、俊哉のエラーが発端となって相手打線に火がつき、3点取られて逆転されてしまったという事実を、真摯に受け止め深く反省し、今後の課題とするように!

それ以外の、三遊間寄りに転がったゴロを俊哉が追い付いたがハンブルし投げられなかったやつは、どっちみち捕って投げていても一塁間に合わず内野安打になっていたろうから、あれはあれでいい。ショートにとって、あれは一番アウト処理するのが難しいゴロである。

それからピンチの時に三塁後方に上がったフライを俊哉が上手く回り込んで捕球しチェンジになったのは、あれはあれでよく捕ったと思う。

それと相手方の終盤での追加点1点のシーン。二遊間を抜けるセンター前タイムリーヒットで俊哉が半ば横っ飛びを試みたが、あれは捕れない当たりだったから仕方がない。


次、バッティング面だ!

良かった点は2つ! 初球から三塁線にセーフティーバントを試み、ファウルにはなったが一塁への走りも良く、走塁面では特に問題点は認められない。

ファウルの後、1球ストライクを見送ってツーナッシングとなったあとに、3球目をセカンド頭上にライナーで右中間方向へミートして運んだライト前ヒットは非常に良かった! それともう一つは、チャンスの時に俊哉が送りバントの構えから全球バスターの構えに戻し、ストレートのフォアボールを選んで出塁したところ、あれも良かった!

今度はバッティングの悪かった点。初回第1打席のジックリ見て待ってからの凡打は止むを得ないとして、他の二打席のセカンドゴロに問題がある。最初のやつは相手セカンドのエラーで出塁できたからまあいいとしても、9回表土壇場でワンナウトランナー無しで回ってきた最後の打席、あのセカンドゴロ凡退はいただけない! 2点差くらいはワンチャンスだ! なぜしぶとく食らい付いて出塁しチャンスを作れなかったか? この辺も、今後の俊哉の攻撃面での課題と言っていいだろう!


それとまた厳しい事を言ってしまうが、今あるレギュラーポジションの位置も、油断をしてると直ぐさま逆転して翻ってしまう事だって十分にあり得るんだと肝に命じて精進するように! 「一寸先は闇」の言葉通り、学年を問わず俊哉のポジションを隙あらば奪い取ってやろうと窺ってるチーム内のライバルたちも何人かいるんだという事を忘れずに、今後とも高校野球に頑張って取り組んでいってほしい!


結論だが、今回のN高校の敗因は次の2点であろうと思う。

バッテリーの油断により不意をつかれてホームスチールを許してしまった事と、二度の満塁のチャンスをいずれもピッチャーゴロで、うち一つはホームゲッツーのダブルプレーで封じられ、折角の絶好のチャンスを得点に結び付けることが出来なかった事…だ!

これらが今後のN高校野球部に課せられた、試練や課題と言えよう。またそれを乗り越えない限りは、甲子園への道など遥かな夢…、ほど遠い!











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