ダイブ
高度一万メートル
「この高さから飛ぶのか。わくわくするなぁ。」
俺の名前は翔。大学に通う学生だ。
今日はスカイダイビングに初挑戦する。
俺はもともと、フリーフォールやバンジージャンプなどが好きだった。
いわゆる絶叫系というか、高いところから落ちるようなものだ。
しかし、スカイダイビングはそれらとは桁違いの高さから飛び降りるのだ。
少しばかり不安と恐怖が合った。
「今日は風も強くないですし、ダイビング日和ですよ」
この人は富脇さん。
スカイダイビングは初めてということでインストラクターの人が同行するのだ。
「では、最終確認をいたしますね。」
富脇さんが話し出す。
「まず、ダイビング中は私の手を絶対に離さないでください。
ダイビング中に万が一何か起こった場合、例えばパラシュートが開かなかったりしたら、翔さんを救出しなければなりません。なので手は離さないでください。」
「はい。」
正直言うと、手なんて繋ぎたくなかった。
これじゃ自由に飛びまわれないじゃないか。
まぁ安全上仕方のないことなのかもしれないが・・・
「高度三千メートルに到達したら合図をします。合図を聞いたらまず、翔さんがパラシュートを開いて下さい。それを確認したら、私がパラシュートを開きます。」
ってことは七千メートル落ちていくのか。
やっぱり、バンジーなんかは比べものにならないな。高度が桁違いだ。
「注意すべき点はこのくらいですね。後はダイビングを楽しんで下さいね。それではこちらへ移動してください。」
・・・とうとう始まるのか。
意外と緊張するんだな。
俺はヘリコプターから大空へ飛び出す地点に立った。
建物なんてほとんど見えない。
「それでは3,2,1で飛びましょう。何度も言いますが絶対に手を離さないでくださいね。」
返事はしたものの、俺の意識はほとんどヘリコプターの外へ持ってかれていた。
「では、カウントを始めます。3,2・・・」
いきなり、突風が吹いた。ヘリコプターが揺れる。
「あっ・・・」
何が起こったのかわからなかった。
ただ、気づいたときはすでに俺の体は宙に投げ出されていた。
どうやら、俺の初ダイビングは単独飛行になりそうだ。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
我に返った俺は、叫んだ。
すでに体は落下しはじめている。
「まずいっ!」
すぐに、富脇さんがヘリコプターから飛び出してくる姿が見えた。
こうして、ダイビングは始まった。
「翔さん!落ち着いて聞いてください!!
まずは体を下に向けて、両手を広げてバランスをとってください!!」
この状況で落ち着いてられるかよっ!
そう思いながらも、富脇さんの指示を聞こうと思った。
たしかに今の状態のままじゃ、まずい。
回転しながら落下している状態だ。
このままではパラシュートも開けない。
「したっ、下はどっちだ!?」
そりゃこのパニック状態で、しかも回転しているんだもの。
上も下もわかりませんわ。
回転を続けたまま、俺は高度八千メートルに突入した。
「翔さん!!まずは落ち着いてください!!」
このスピードに慣れてきた俺は、叫ぶ富脇さんの姿が見えるようになってきた。
しかし、いまだ回転を続けたままだ。
なんとかしなければ。
冷静な思考が戻ってきたようだ。
「でもっ、どっどうする!?」
思考が戻ったからといって対処できるわけではない。
しかし、対処できなければGAME OVER ・・・すなわち「死」だ。
富脇さんがいる方向が上だということはわかる。
でも、それがわかった所でどうしようもない。
「翔さん!!まずは回転を止めてください!!
手を広げてバランスをとって!」
言われるがままに俺は、両手を広げた。
回転は止まらないが、スピードが落ちた。
これならいけるかもしれない。
「翔さん頑張って!!」
富脇さんの声が聞こえる。
さすがに冷静だ。
すでに回転は収まってきている。もう少しだ。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!」
・・・止まった?
回転は止まった。しかし、体は上を向いている。
「そのまま、体を下に向けてください!」
指示に従い、体を下に向ける。
慣れると簡単なもんだな。
ようやく、落ち着いたダイビングになった。
いや、落ち着いてないか。
高度、残り六千メートル。
「翔さん。今回はこのような状態ですので、一人で着陸までしてもらいます。」
富脇さんの言葉も落ち着きがみえる。
このような事態でも冷静に対処できるとは、さすがインストラクターだ。
でも、一人で着陸なんてできるのか? ましてや、俺はスカイダイビングは初体験だ。
「着陸といってもパラシュートを開くだけです。説明するのでよく聞いてください。」
それならなんとかできそうだな。
「高度三千メートルになったら、左脇にあるひもをひいてください。
そうすればパラシュートが開きます。そのまま着陸できるでしょう。」
まさか、初ダイビングが単独飛行になるとは思いもしなかった。
でも、やるしかないんだ。
落下していく中で俺は、ある決心をした。
(絶対に生きて着陸しよう)
高度、残り四千メートル。
もうすぐ、パラシュートを開くくらいの高度だ。
俺は左脇にあるひもを何度も確認した。
大丈夫。これをひけば助かるんだ。
そう自分に言い聞かせながら落下していく。
地上の建物もだいぶ大きくなってきた。
そんなことを観察する余裕もでてきている。
「そろそろ、パラシュートを開く準備をしてください。」
富脇さんの声が聞こえた。俺は左脇のひもに手をかける。
「ひもを引っ張ってください。」
グッ!
俺は力強くひもを引っ張った。
あぁ。これでもう安心だ。
安堵の息をもらす。このダイビングも・・・終わるんだ。
・・・あれ?
おかしいな。
そろそろ勢いが止まってもいいころなんだが。
いまだにスピードを落とさぬまま、落下を続けている。
「な、なんでだぁぁぁぁぁぁ!!!」
たまらず叫ぶ。先ほどの安堵はどこに行ったのか。
高度、残り二千五百メートル。
「翔さん!!パラシュートが引っかかってるようです!!
まずは、背中にしょっているパラシュートを外して、引っかかってるところを解消してください!!」
富脇さんの声でわかる。これは・・・緊急事態だ。
どうやら、パラシュートが開いていないようだ。
「やばいやばいやばいやばい!!!」
完全に冷静さを失った俺は、パニックになっていた。
唯一の頼みであるパラシュートが開かないのだから。
それでも、富脇さんの言葉だけは耳に入っていた。
俺はパラシュートを背中から外し懐に持ってくる。
そして、適当に袋を探る。
「くそっ!!何で開かねえんだよ!!」
そう言いながら探っていく。
高度、残り二千メートル。
いまだ、パラシュートは開かずに落下を続けている。
「開いてくれよ!!」
そう言いながら、パラシュートをいじる。
どうにかならないのか。
突如、ボンッ!という音と共にパラシュートが飛び出した。
「やった!?」
しかし、突然のことだったため俺は左手一本でパラシュートを掴む体制になってしまった。
「絶対に・・・離してたまるか!」
パラシュートが開く。
その瞬間、左肩に激痛が走った。
パラシュートが開いた瞬間、一気に風の抵抗を受けて減速する。
そのため、大きな負荷がかかるのだ。
「まずいっ・・・!」
どうやら、左肩を脱臼してしまったようだ。力が入らない。
もうどうしようもないのか・・・
俺の手からパラシュートが・・・離れた。
「もうだめか・・・」
「しっかりしてください!!」
声が聞こえると同時に左腕を掴まれた。
この声は・・・富脇さん?
どうやらパラシュートを開いたおかげで、少し減速した俺に富脇さんが追いついたのだ。
それでも、俺の左手にはもう力がのこっていない。
「しっかりしてください!!最初に言ったでしょう。絶対に手を離さないでくださいって!!」
・・・そうだったな。
俺は残った右手でも富脇さんに掴まった。
・・・最後の希望にすがるように。
高度、残り千メートル。
「もう時間がありません。パラシュートを開くので振り落とされないようにしてください!!」
そう言って富脇さんはひもを引っ張る。
背中からパラシュートが飛び出すのが見えた。
俺は富脇さんを掴む手に、よりいっそう力をこめた。
絶対に離さない。この最後の希望を。
覚悟を決めた。
「くっ・・・!」
・・・運命は残酷。
手汗ですべったのだ。
おそらく・・・緊張のせいだろう。
最後の希望も・・・俺から離れてしまった。
いや、放してしまったのだ。
「翔さんっ!!!」
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
富脇さんが離れていく。
手をのばしても・・・届かない。
「いやだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだ!!死にたくない!死にたくないよぉぉぉぉ!!!」
いくら叫んでも止まらない。止まってくれない。
地上は近づいている。
こうなっては富脇さんでもどうしようもない。
もう・・・終わりだ。
「くそっ!くそっ!くそっ!くそぉぉぉぉぉ・・・」
無駄だとわかっても叫ぶ。
叫ぶことしかできないのだから。
俺は走馬灯を見ていた。
あぁ、まだまだこれからなのに・・・
結婚もしてないのに・・・
これで人生・・・終わりか。
ドンッ!
・・・こうして、俺の初スカイダイビングは終わった。
高度、残り零メートル。
・・・・・・・・・・・sん、さん。ぅさん。
何か聞こえる。
これは・・・富脇さん?
「翔さん!翔さん!!」
俺は重いまぶたを開く。
「あぁ・・・」
「っ!!翔さん!!大丈夫ですか!?」
どうやら、あの後すぐに病院に運ばれて一命をとりとめたらしい。
二段階による減速で、落下の衝撃がやわらいだおかげで被害が少なかったらしい。
「生きててよかった・・・」
心の底からそう思った。
それから、俺は順調に回復していき今日退院できるようになった。
富脇さんは毎日お見舞いに来てくれた。
なんでも、今回の事故の罪悪感があるそうだ。
退院の日も富脇さんは来てくれた。
「退院おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「体はもう大丈夫ですか?」
「はい。この通りピンピンしてます。」
「今回の事故は私たちにとっても始めての状況でして、対応も至らぬ点が多くございました。本当に申し訳ございませんでしたっ!!」
「いえいえ、もう大丈夫ですよ。」
入院代はすべて払ってもらっているし、慰謝料も存分にもらえた。
生きているし、文句はない。
「すいませんでした・・・。お詫びといってはなんですが・・・」
「ん・・・?」
「退院祝いに、スカイダイビングなんてどうですか?」
俺は苦笑いを浮かべ、こう言った。
「いえ、もう結構です。しばらくは地に足をつけて生活していきます。」
空を見上げる。
今日も飛行機が飛んでいる。
さわやかな風が吹き抜けた・・・
みなさん、こんにちは!
藍川 捺槻ですっ!
短編二作目を書きました。
前回よりかは大分長くなってます。
スカイダイビングなんてやったことないんですけどね…。
てゆーか高所恐怖症です。
知名度が低いからしょうがないですが、できればたくさんの人に読んでもらいたいです。
改善点などがありましたら気軽に教えて下さいね。
勉強になります。
それではこのへんで。
またお会いしましょう!
ちなみにこれ誤字とか直したんで二回目の投稿になります。
前回のはちゃんと消しました。