第一話 一つ賭けをしませんか
校内にある決闘場。
自分の実力を試したい、またはあの生徒と対戦したい。
そういう願いを叶えるための場所。
もちろん、相手の許可を得てからでしか使用できない。
その決闘場に続く廊下。
近所迷惑になりそうなほど大きい叫び声が聞こえる。
「さぁ,やるわよノエラっ!」
男子生徒が女生徒に捕まっていた。
銀髪のストレートヘアに赤い瞳。
銀色の細縁の眼鏡をつけている長身の女。
総合戦闘科主席、高学部2年、そして生徒会長のレティ・アルフォート。
主席というのは、その科で一番強い、成績がいい人のことをいう。
ちなみに、12~15歳が小等部、16~18歳が中等部、19~20が高等部、ということだ。
それを無表情に見るのは
ノエラ・フレデリックとよばれた青年。
黒髪の長髪に青目、華奢な体格。
一歩間違えたら女に間違えられそうなその姿だが、成績優秀者がうようよいる魔法科のトップ。
見た目で判断するな、というのはまさにこのこと。
そして心底面倒くさそうに一瞥したあと
「無理です。
会長が仕事やってくれないし俺は自分の課題もやらなきゃいけないんです。
せめて仕事をやってからいってください、それなら検討しなくもないですから」
と、一蹴。
一蹴されたレティはふーん、と頷いたあと
「ああ、じゃあ私がやればいいのね?
じゃあやるから明日あたり手合わせ願えないかしら?」
どこか楽しそうに笑いながらさらっと言う。
獲物を見つけた獣みたいだ、とノエラは思ったがあえて口にしない。
そしてため息をついた後にまた言う。
「会長、いままでどれだけ仕事ためてきたと思ってるんですか。
半年分ですよ、半年分。俺がやったのでだいぶ減りましたがまだ1か月分も残ってるんですよ!?」
へええ、とちょっと驚いたような顔のレティ。
そこに続けて言う。
「なのでそれが終わるまで手合わせはなしです。以上」
ったく、副会長もやってくれればいいのに・・・とぼそっと呟く。
そう、この学園の生徒会の会長副会長は「面倒だから」という無責任極まりない理由で
多くの仕事を書記であるノエラに押し付けているのだ。
「ちぇー、友達の間で噂の「固定砲台」を見れると思ったのになぁ」
固定砲台。
妙に物騒な響きだがこの学園ではノエラの事を指す。
魔法科主席、空間魔法、回復魔法もさることながら攻撃魔法もお手の物のノエラだが身体能力が皆無、といってもいいほどのなさであり、攻撃魔法メインの時はほとんど動かないで隕石やらなんやら降らせることからこのあだ名がついた。
「・・・か」
「ん、何よ」
「って・・・じゃ・・・か」
「え?」
「そこまでいうならやってやろうじゃないですか、明日ですね。
総合戦闘科主席の非常識戦法、とくと見せてもらいますよ、会長」
非常識って何よとむくれるレティを尻目に一つ提案をする。
「会長、一つ賭けをしませんか?」