妹を優先する婚約者に、私も妹を優先したいと思います!
シオン・ユーリ伯爵令嬢には最近婚約者ができた。
相手はカイル・シースコン公爵子息である。現在20歳だ。見かけもイケメンで高位貴族、そしてお金持ちの彼は過去に2度の婚約解消をしている事故物件だった。
そこで新しく婚約を決める時に双方に条件を出し合うことにしたのだ。
シースコン公爵は息子の二度の婚約解消に危機感を覚えており、これ以上は家名に傷が付くと恐れていた。
故に、安易に婚約解消できないように条件を出したのである。
貴族の婚約とはお互いの家に利益がなければならない。
まぁ、ごく稀に仲がいいからとか、お互いに愛し合っているからなどもあるが、基本的には家同士のメリットで結ばれるものである。
今回は、シースコン公爵の領地には大きな運河が流れており、物流の拠点となっており、運河の利用料と通行税で莫大な収入を得ていた。
一方、ユーリ伯爵家では西から東に抜ける主要街道が走っており、北側にその運河が伯爵の領地に流れてはいるのだが、馬車で街道を使って荷物を運んだ方が安上がりのため、活用されていなかった。
故に、婚約の解消を言った方は下記の罰則を払うことになった。
シースコン公爵家から言った場合はユーリ伯爵家に、10年間の運河の利用料と通行税の免除。
ユーリ伯爵家から言った場合は10年間の街道の通行税の免除となった。
お互いに利のある婚約だったが、シースコン公爵の父親は息子に厳しく言った。
「今度の婚約者を蔑ろにすることは許さん!しっかりとエスコートするんだぞ!」
流石にカイルも頷いた。
そして、婚約者同士のお茶会にて──
「遅いな。時間は合っているはずだが?」
しばらくしてユーリ伯爵家から遣いの者がやってきた。
「すみません、シオンお嬢様は妹のユリア様が熱を出したので看病の為に来られないそうです」
「そ、そうか。妹君にお大事にと言っておいてくれ」
「かしこまりました」
一度目のお茶会はこうして幕を閉じた。
次のお茶会はシオンが前回のお詫びとセッティングしたが、今度はカイルの妹のシースさんが体調を崩したとの事で中止にとカイルが頭を下げてやってきた。
「シオンお嬢様、どうなさいますか?」
「無論、続けるわよ。どうして見かけは優良物件の公爵子息が2回も婚約解消になったのか調べてあるしね」
「それはそうですが、本当に大丈夫でしょうか?こちらから婚約解消を申し付けると罰金で大赤になりますよ?」
「大丈夫よ。こちらは絶対にお茶会やデートに『行かない』もの。あちらは3回に一度くらいは来るでしょう?問題ないわ」
カイルは妹を溺愛しており、妹のシースの頼み事は断れなかった。シースは三歳年下の17歳である。
しかし、父親にキツく言われている為に、シースに頼まれても、なるべく自分で約束の場所に行き、すぐに戻らなければならない。埋め合わせは今度するからと言いに来ることになるのだが、ここでおかしいな、と思うことが出てきた。
デートなどの約束の時間に行くと、必ずユーリ伯爵のシオン令嬢が居ないのだ。
そして遅れて遣いの者が訪れて妹のユリアの体調が悪い。妹のユリアと急に出掛ける用事ができたなどと、カイルは顔合わせの日から一度もシオンに会っていなかった。
無論、妹の頼みですぐに帰らないといけなかったのでこれ幸いとそのまま帰ったのだが、それが続くとまた来ないのか?と気になることになった。
妹のシースがゴネても、父親にキツく言われているのと、出掛けないと怪しまれると言うこともあり、約束の場所には向かうのだが───
※妹のユリア様が──
※妹のユリア様が──
※妹のユリア様が──
代理でくる遣いの使用人が毎回似たような内容で来ることができないと伝えてくるのだ。
その回答は、自分が妹のシースに言われて使った内容と同じ事に気付いてはいなかった。
シースコン公爵家ではいつまで経っても向こうからの婚約解消の話が出てこない事に妹のシースが苛立っていた。
「どうして今までの様に婚約解消を言ってこないのよ!お兄様は私だけのものなのに」
無意味な独占欲を拗らせたシースは部屋で地団駄を踏んでいた。そして、実際に自分で見て訴えてやる!と、ついに兄カイルのデートに付いていくことにした。
「本当に付いてくるのかい?」
「ええ、私もお兄様の素敵な婚約者に会ってみたいもの」
デートの約束の場所で待っていると、いつも以上に誰も来なかった。
「ねぇ?遅すぎなのではありませんか?」
「おかしいな?いつもはもう少し早くに遣いの者がやって来るのだが?」
はっ?
カイルの言葉にシースは驚きの声を上げた。
「お、お兄様?『いつも』とはどういうことでしょうか?」
「ああ、向こうにも妹がいるようでな。毎回、妹が体調を崩したとかでキャンセルになるんだ。私もシースの為に早く戻れるからありがたいと思っていたんだよ」
ヒクッとシースの顔が引き攣った。
「さ、最後に婚約者に会ったのはいつなのですか?」
「うん?いつだったかな?顔合わせの時以来会ってないかな?」
!?
これは完全に相手にされていない!
デートに来ないとわかってやっているんだわ!?
このままでは結婚までされてしまう。
だって相手はお兄様を居ないものとして扱っているのだもの。結婚さえしてしまえば、うちの資産が手に入ると思っているのよ。そして、お兄様が私を優先して妻を蔑ろにしたと言うことで、最後は多くの慰謝料を請求するつもりだわ!
シースは独占欲が強いが、妄想も酷かった。
しかし自分が独占していると言う『自覚』があるからこそ、相手の考えも遠からず当たっているのだった。
「お兄様、確かにデートやお茶会の日に私を優先してくれるのは嬉しいですが、一度も来ないなんてあり得ません!こちらから婚約を破棄しましょう」
「シース、落ち着きなさい。そう感情的になってはダメだ。これは家同士の契約なんだから、そう簡単に破棄などできないよ。それに違約金の話もある」
ここでカイルとシースには決定的な行き違いが生じていた。シースは家同士の契約を知らなかったのだ。故に、普通の金銭での違約金と思っていた。
「大丈夫です!この数ヶ月で、毎回来なかった相手の婚約者が悪いのです。違約金は向こうが払うのですわ!」
「そ、そうなのかな?」
自信のないカイルにシースははっきりと言った。
「向こうが悪いのですから当然です!お父様も絶対に同意してくれます。私に任せて下さい!」
シースに押される感じでカイルは頷くしか出来なかった。そして、シースに手を引っ張られながら帰るのだった。
実は、ユーリ伯爵の使用人はすでに来ており、遠巻きに適当に時間を潰してから目の前にやって来ていただけである。今回は妹が付いてきていたので、様子を見ていたのだ。
「ふぅ、ようやくシオンお嬢様に良い報告ができそうですね」
今の会話を聞いていた使用人は急いで屋敷へ帰るのだった。
「意外と早かったわね」
「本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。最初から勝負は決まっているもの♪」
???
シオンの側仕えのメイドは首を傾げるのでした。
そして後日、家同士の話し合いがしたいので、必ず当主と一緒に公爵家に来るようにと連絡があった。
時間通りに行くと、シースコン公爵は用件を聞いていないようで話した。
「御足労頂いて感謝する。どうやら息子が大事な話があるということで来て頂いた」
「いえ、公爵様からの呼び出しですもの。喜んで参上致しますわ」
他愛のない話から本題に入った。
「それで、そちらの女性が妹さんでしょうか?」
シースはキッと睨んで自己紹介してから兄のカイルの背を押した。
「シオン令嬢、君はデートやお茶会の時に妹君を優先して来ることがなかった。よって君の有責で婚約を解消させて頂く」
大きな声では無かったが、部屋の中がシーンと静かになった。
「あらあら・・・」
シオンは平然としていた。
「カイル様、今どのような気持ちですか?」
「なに?」
質問の意味がわからず聞き返した。
「約束の日に妹を優先して時間になっても来ない婚約者をどう思いましたか?」
「それは、愉快な気分ではない・・な。不快な気分になる」
まったく考えたことがなかったのだろう。
一般的な気持ちの代弁をした。
「はぁ、理解していなかったようですね」
シオンは視線を公爵に移した。
「大方、すぐに帰れると喜んでいた貴方には理解できないことでした」
公爵は目を瞑って深いため息を吐いた。
「賭けは私の負けのようだな。カイル、貴様を勘当する。そしてカイルの婚約を三度も破談にしたシースは修道院に送ることにする」
!?
「はっ?どういうことですかお父様!?」
カイルより妹のシースが叫んだ。
「この度の婚約は気軽に解消できないように、罰則を設けてあった。カイル、覚えているな?」
「え、ええ・・・」
シースはなんの話?と首を傾げたが、その内容に驚いた。
「そんなのおかしいわ!だって、向こうが失礼を働いたのよ!」
10年間もの運河の利用権や通行料の免除なんて膨大な金額である。
本来入るはずの収入がなくなるのでは公爵家としても無視できない金額である。
特にユーリ伯爵家は運搬業が主な仕事を生業としているのだから、馬車の行き交いが多い。
「この契約を・・婚約を結んだ時に決めた罰則だ。理由はどうあれ婚約の解消を申しでた方の負担になると」
流石に犯罪を犯したとかなら話は変わるけどね。
「待ってください!契約の話は分かりましたが、それでどうしてお兄様が勘当されて私が修道院に行かなければならないのですか!」
公爵はため息を吐いた。
「我が公爵家の娘なのにそんなこともわからないのか?お前がカイルを独占したいと言う我儘でどれだけ周囲に迷惑をかけたか。カイルにも婚約者を大切にするように厳しく言ったのにこれだ」
「父上、お言葉ですが──」
「婚約者との約束の日に必ず約束の場所に向かったとか言わぬよな?普通なら手紙を送ったり、家まで訪問して交流をはかるものだ。お前は1ヶ月に数度あるお茶会やデートに参加すればいいと思っていただろうがな」
!?
「その通りだったろう。政略結婚とはいえ、相手に敬意を払い、最低限、お互いを尊重し合える関係を築くのに、月に数度のお茶会だけでは不十分だ。もっと時間を作って頻繁に会いに行くべきだった」
カイルは何も言えなくなった。
「そしてカイルも悪いが一番悪いのはシース、お前だ!何度も兄の婚約を破談させたお前を許すことはできない。修道院でその甘えた根性を叩き直してこい!」
公爵は厳しい言葉を吐いたが、数年経って娘が反省して成長していれば連れ戻すと言っているのだ。
「そ、そんな~~」
シースはその場で座り込んでしまった。
「カイル、お前は仕事はできるが、シース以外に興味を持たず、相手の気持ちを汲み取ることができない。それでは今後は大事な商談でも、相手を怒らせて失敗するぞ。分家に養子に出す。そこで学び直してこい。そして自分の意志で生涯の伴侶を見つけてくるんだ」
「父上・・・申し訳ありませんでした」
カイルは静かに涙を流しながら頭を下げた。
「さて、うちのバカ息子達の処遇はこれで許してもらえるだろうか?」
すでに空気となっていたシオンとユーリ伯爵は気を取り直して頷いた。
「ええ、私どもとしては婚約解消の契約の件さえ守ってもらえれば、問題ありませんよ」
これでしばらく運河を利用した運輸で大儲けできますね!
シオンはホクホク顔で婚約解消の書類にサインをして帰ったのだった。
帰り際までカイル様からお詫びの言葉はなかった。
そういうとこやぞ?
女性は細かい所を見るんだから。
まぁ、今回はお互い様だし仕方がないけどね。
実はあらかじめ公爵様と話をしてあったのだ。
カイルが婚約者としてどのように接してくるのか。
シオンはカイルがしっかりと婚約者との交友を持って尊重するのであれば、このまま結婚もやぶさかではないと思っていた。
しかし蓋を開けてみれば、家同士で決められたお茶会やデートの日以外は、手紙も送らない、プレゼントもない、その日以外に家に訪ねてくることもないと、ないない尽くしであり、速攻で見捨てた次第である。
そのことは逐一公爵様に報告していた。
家に帰ると──
「おねいさまー!」
歳の離れた最愛の妹が出迎えてくれた。今年で5歳になる。
「ユリア!ただいまー!」
ユリアを抱っこして頬をすりすりして抱きしめた。
ああ、やっぱり妹って最高よねー!!!!!
「おねいさますきー!」
グハッ!?
うちの妹が可愛すぎる件について───
シオンの妹好きは嘘ではなく、本当に溺愛しているのでした。
【END】
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【あとがき】
最後までお読み頂きありがとうございます。
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