第六話 夕焼
伝説の風の竜がいるとされていた山の下の洞窟で、生涯忘れ得ぬ光景を目の当たりにした。突然巨大蛇と戦うことになったリュウト、アリア、風竜は、連携プレイでこれに勝利。アリアが持っていた聖鳩琴という楽器は、竜の怪我を治す癒しの光魔法が使えることがわかった。奏でたメロディは、アリアの誕生後すぐ亡くなった母がよく口ずさんでいたものだった。
「母様が、守ってくれた」
アリアたちは、洞窟を出た。傾いた陽が、目に眩しい。もう夕方だ。夜になったら森に棲むモンスターの活動時間になって、危険だ。ここはできればすぐに城に帰りたい。
アリアと契約して下僕竜となった風竜に跨って、二人は城に帰ることにした。
「ドラゴンに乗るのって、生まれてはじめて!」
「ふふ、わたしもよ。じゃ、風竜。わたしたちを、王城まで連れて行って」
『御意――』
小柄な風竜の上に二人で乗るのは窮屈だった。アリアが前方、後方にリュウト風竜の背に乗る。
「よっこいしょ。あ、よっこいしょって言ってごめん」
ズボン越しの太ももに、風竜の鱗があたる。思ったより硬くなく、長時間乗っても尻が痛くなることはなさそうだ。足が地面につかない。こわい。これが空に浮いて飛び去ると思うと……。
「うう、こ、こわぁい!」
シートベルトがほしいと、リュウトは思った。
振り落とされる恐怖の想像から、アリアの腰を強く抱きしめた。
「いやっ! 腰をそんな触り方しないで、えっち!?」
「ご、ごめん。えっちじゃない。でもさ〜、マジでこわすぎるよ! だってこれから空飛んで帰るんだよね……?」
「そうよ」
「えっ!? なんでそんなに淡々としていられるんだよ。ね、風竜、絶対に落とさないでね、絶対に落とさないでね、絶対だよ! 落ちたら死ぬからね!? フリじゃないからね、頼むからね」
『……』
二人を背に乗せた風竜は、ゆっくりと浮かび上がる。翼で風を切って飛んでいく飛竜の飛び方と異なり、風竜は多分周りの空気を操って飛んでいる。だから多分、風竜の背に乗った方が安定している。はずなのだが。
「ぎゃああーーーーっ! こわいこわいこわいこわい。オレ高いところキライなんだよー!」
「じゃあ、帰りはずっと目を瞑ってたらいいよ、リュウトさん」
「いやもうずっと目瞑ってるよ。足元の地面が一ミリでも見えちゃったら、パニクって落ちると思う、オレ!」
このまま、目をぎゅっと瞑りながら帰ることにしよう。地面が目に入らなければ、こわくない。はず。
瞑った目のまま、ゆっくりと風竜が上昇していくのを感じる。そして登りきり、前進する。
風竜の飛び方は優しくて、目を閉じて乗っている分にはこわくない。
リュウトはそうっと目を開けた。
こわいだのなんだのと喚いてみせたが、せっかくの空中遊泳に興味がないことはない。
眼前に飛び込んできたのは、夕焼けで赤く染まる空と、朱に照らされる海と森だった。
「ああ……なんて……」
上空からだと、海が見えるのか。赤く照り返し揺れる波が乱反射して煌々と輝いている。なんてキレイなんだろう。
「ねえオレ、マジックアワーが一番好きな時間帯なんだ。夕日を見ると、せつなくなってさ、なんかいいよね。自分の気持ちに一番シンクロするのは、日が沈むこの時間だけだよ。朝昼は眩しすぎるし、夜は冷たすぎる。この時間だけは、自分に味方してくれるような気がするって、何故だか昔からそう思ってたんだ」
アリアは返事をしなかった。彼女もこの光景を前に感傷に浸っているようだ。
ドラゴンの背の上から見た、大パノラマの夕焼け。全てが朱に包まれたノスタルジックな静寂。
「オレ。この景色を、生涯忘れることはないと思う……」
竜に乗った二人は旅を終え、リトレギア王城へと帰って行った。




