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天空の姫君と異世界の竜騎士  作者: しまいゆり
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第四話 止血

 山頂に棲むと言われていた風の竜の姿はどこにもなかった。人っこ一人、ネズミ一匹いやしなかった。


 リュウトの方は、何もいないことに安堵の念を覚えた。




「よしっ! 何もない! 何もいない。ここにはなーんにもない! アリア……もういいよね、帰ろう! 帰ってシャワー浴びて、おやつ食って、ゲームして寝よう!」


「そ、そんなはずは……!? そんなはずない! 伝説の風の竜が、ここにいるはず!! わたしの兄様は、伝説の竜を三体倒したの。この山と同じく、女神の塔を囲む山の上にいた伝説の竜を。ここが、最後の竜の試練の場所のはず。わたしは兄様より先にここの竜に勝って、みんなから認めてもらわないといけないのに!」




 それができなければ、家に居場所がない。


 


「じゃあその兄様がもう既に来てて、風の竜を倒したのかもよ。とにかくここには何もないよ。帰ろう!」


「そんな、そんなはずは!」




 ふーん、アリアには兄がいるのか。リュウトはアリアのような淡いピンク色の髪の毛の、可愛らしい顔の男を想像した。そんな人物もドラゴンを倒すのか。なんだか、想像が難しいな、と思った。




「兄様が既に倒した……。その可能性はあるかも。でも……」


 


 アリアは認めたがらなかった。認めなくても、ここには何もいない。帰るしかない。


 


 立ち尽くしているそのとき、先程転移魔法の詠唱の途中で割り込んできた飛竜が、再び舞い戻って二人の頭上に現れた。そしてまた、アリアを目掛けて飛んできた。




「きゃああっっっ!?」




 飛竜に襲われた拍子に足を踏み外して、アリアは山から真っ逆様に落ちていってしまった。




「!? アッ、アリアーーーッ!」




 リュウトも迷わず飛び出した。山から落ちる。落ちていく! 下は森だ。こんな高い山から落ちたら、即死だ。


 


 落ちていくアリアの目からも、後を追って落ちるリュウトが見える。




 ――リュウトさん、なんで追って――? なんで迷いなく飛び込んで追ってきているの――!?




 二人は山から滑落し、森の木々の枝をバキバキと折りながら地面に落ちた。この森の木々は背が高く枝も広がって生えている。二人は木々をクッションにして、




 即死――は免れていた。




「っ……! 痛ぁ……」




 と口にするが、アリアの身体はそこまで痛くない。リュウトが守るように覆い被さっていた。リュウトはぐったりとして、目を閉じている。




 まさか、死――!? と思ったアリアは、強く少年の身体を叩いた。




「リュウトさん! リュウトさん!! なんで、どうしてわたしだけじゃなく、あなたまで一緒に落ちてくるの! なんで!? どうして……」




 しっかりと抱きしめられているので、アリアは思うように身動きが取れない。鎧も相まって、重い。




「お願いリュウトさん、死なないで、目を覚まして! ねえ、起きて! 起きなさい!!」


「……っいてててて。うおーいてーええーー。あっ、アリア、無事そう? 怪我してない? うわオレたち、山から落ちたんだ!? でも、木が、衝撃を柔めてくれたんだね。あはは、あははははは。……生きててよかったねー」




 木々の枝に引っかかってついた無数の傷から血を出しながら、リュウトはニコリと笑う。


 


 ――この人は! 本当に、何!?




 この少年は、山から滑落したアリアを何の躊躇いもなく飛び込んで、身を挺して守ったのだ。




「おかしいわよ!!」


 


 この人は、おかしいところがある。


 無駄におしゃべりだし、無邪気で、感じがいい人ではあるけれど。


 助けてもらっておいてこんな言い分は失礼だけど、こんなの、おかしい。


 普通は躊躇う。


 怪我するかもしれない、命を失うかもしれない状況を、初対面の人間を救うために飛び込むだなんて。


 この人は普通じゃない。


 


 じいやの鎧は所々壊れ、一番ひどい怪我を負った腕からは血がどくどくと流れ出ていた。




「ひっ!? り、リュウトさん、血が! 血が出てるじゃない!」


「あーあ。借りてる服なのに破っちゃった。ごめんなさい、じいやさん」


「服が破れたことを気にしてる場合じゃないでしょ!? わ、わ、わたしのせいで……こんなことに、ああ……なんてこと……」


「いいよいいよ。生きてるんだし。たいしたことないよ」


「……さっき渡した布、出して」


「え、布? ああ、これね。はい」




 リュウトは腰の小袋にしまっていたさっき預かった布を渡すと、アリアはお気に入りだった手巾をピーっと手で破いた。それから繋ぎ合わせて、リュウトの腕の負傷部分に巻いた。




「これ、止血……。あの、リュウトさん。わたしのせいで……。本当に、本当にごめんなさい」


「ええっ! 布、破いてよかったの? そこまでするほどの怪我じゃないよ。別にオレなんかに気を遣わなくていいのに」


「本当に、ごめんなさい……」




 気まずい沈黙が、二人の間に流れた。

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