第四十一話 愛情
新国王即位のパレードは一週間以上続いた。
待ち望まれていた王の誕生。国民の熱狂は終わることはなく、王女がいなくなったことも、誰も気にとめていなかった。
リトレギア王国に留まることにしたマリンは、パレードの主役にも関わらず国民の前にあまり顔を出さないソラリスの部屋を訪れていた。
ソラリスはリュウトと話をしたときと同じ椅子に腰をかけていた。マリンは出入り口のそばに立って、話し出した。
「ソラリス王子、あなたに聞きたいことがあるの。同じアスセナ族の生き残りとして、耳を貸してくれないかしら」
「新国王が誕生したというのに、王子と呼ぶ異国人風情に何故この俺が耳を傾けなければいけない?」
「……。どうして、アリアさんを、あんな酷い方法で、救ったというの?」
ソラリスはアリアを救った。
マリンは間違いではなくそう言った。
「さて……なんのことかな」
「王女をこの国から追い出して、安全な外国へ行くように、わざと仕向けたんでしょう?」
「…………どうやら思い違いをしているらしい。俺は、アルディナンド国王と同じくアレーティアのことは憎んでいた」
「この前頼まれて作った、光魔法を使う調合薬……。あれを、無理やりアリアさんに飲ませたのね……。バレないように、奥歯に仕込んで……。あの薬は、闇魔法に効く薬。アリアさんが、微弱な闇魔法にかかって、日に日に弱ってきていたことを、あなたはいつ知ったの……?」
「……同じ一族のよしみとして見逃してやってたものを、色々と嗅ぎつけたものだな。…………症例を見たことがあった。アレーティアの母親のアリシアと、同じ病を患っているように見えた。遺伝性の疾患なのかと思って半年ほど前アリシアの墓を掘り返した。だが、遺体がまるで最初からなかったように、無に帰っていたのだ。骨もすべて溶けて無くなっていた。……アリシアはアレーティアを妊娠したせいで弱って死んでいったものだとずっと思い込んでいた。しかし違った。闇の魔法にかかったせいで死んだのだ。アルディナンド王が優しい国なんかを目指したせいで、闇の魔法使いの侵入を許し、結果大切なアリシアを無残に死なせたのではないか! すべてあいつの罪だ! ……水の国から無理に連れてこなければ、この国なんかに連れてこなければ、彼女は死ぬことはなかった……」
「……」
「だから罰を与えなければいけないと思った。あいつに奇襲をかけられ殺された俺の両親と同じ方法であいつを殺してやろうとずっと思っていた。あいつの優しさとは、立場が上の人間には媚びを売って、思い通りにいかなければ平気で裏切る。そんなものが優しさと言えるか? そんなものはまやかしだ。優しさなどでは断じてない。しかしまさか、あのタイミングで都合よく金竜が現れるとは思っていなかったが……金竜の正体はリュートなんだろう? はじめて出会ったときにわかっていたよ。あいつは人間ではないと。俺と同じ闇を持っているな、と。だからあいつがいざというときに俺に従うように先手は打たせてもらっている」
「…………?」
ソラリスは足を組み替える。
「話を戻そう。……アリシアは太陽のような女性だった。俺は幼いとき、闇の魔法が自分で制御できなかったんだ。だから召使いにはこわがられていた。だが彼女はそんな俺にも、真っ直ぐ愛情を向けてくれる優しい人だった……」
「……じゃあ、どうして? アリシアさんから受け取った愛情を、どうしてアレーティアさんにも同じように愛情を受け渡すことができなかったの? 何もあんなやり方でなくてもよかったでしょう。彼女とても傷付いたわ……。本当のことを話せば、アリアさんになら、伝わっていたと思うわ……あなたもそれはわかるでしょう?」
「………………しゃべりすぎたようだな」
「……」
「アリシアの無念を晴らすため、俺は各地に蔓延る闇の魔法使いを永久に葬り去らねばならない。一人残らずな! ……そして強さと、アリシアの優しさを兼ね備えた国を作る。それが俺の理想だ」
「……闇の魔法使いを、一人も残さず屠るのだとしたら……あなたも……? でも、アリアさんが、本当のことを知る日が来たら、どうするの? 無意味な復讐心を植え付けて何がしたいの!?」
「……俺はな、もはやアレーティアのことなどどうでもいい。あいつがどこで何をしようが、無様にのたれ死のうがもう関係ない。俺はこの国の王としてできる限りをやる。それだけだ……」
「なんて……なんてひどい人!」
本当に、不器用すぎる兄妹なのね、とマリンは思った。
「ただしリュートにはまだ利用価値がある。だけどあいつも俺と同じ、闇側の人間だ。あいつも裏切るのは得意だろうな。まあ、せいぜい利用させてもらうつもりでいるよ、金竜の力を。逆に言えばあいつの価値はそれだけしかない」
「! ……リュウトさんは、闇ではないわ。あの子たちなら、きっとどんな困難も乗り越えていける。ねえ、あの子たちと話してみて、そう思わなかった? きっと女神の呪いもいつか必ず解けて、幸せに暮らせる日が来るわ……。あの子たちのような、純粋な愛があれば、世界は必ず平和に導ける。本当に必要なのは、あの子たちのような魂なのよ!」
ソラリスは大きくため息をついた。
「………………やはりお前とはどこまでも気が合わんようだ。もういい、失せろ! ここでしゃべったことは誰にも言うなよ。同じ民族の生き残りであることなど、俺には何の価値もないからな。邪魔をするならすぐに殺す。わかったらこの部屋から出ていけ! 二度とこの俺に減らず口を叩くな!」
ソラリスは立ち上がると強引にマリンの肩を掴み、無遠慮に部屋から追い出した。
「ひどい人……。あの王子は間違っている。本当に正しいのは、アリアさんとリュウトさんのような真っ直ぐな魂を持つ子たちなのに……。ああ、女神さま、どうしてこの世界に混乱を招いたのです。これも貴女の試練なのでしょうか……。この試練を乗り越えた先に、本当の平和があるのでしょうか……それとも……? いえ、女神さまを疑うようなことをしてはいけませんね…………アリアさん、リュウトさん、元気でね………………」




