表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空の姫君と異世界の竜騎士  作者: しまいゆり
42/44

第四十話 旅立


 金竜がアリアを咥えて女神の塔を一部破壊したときに、ソラリスは全軍を撤退させていた。


 金竜はどうにかなると見通したのか、深追いすることはなかった。


 城都では、金竜の脅威が去ったことと、国王は名誉の戦死を遂げ、新しい国王が迎え入れられたことでパレードが行われていた。




 じいやの遺体を埋葬後、これからの話を三人でした。


 


「リュウトさんとアリアさんは、この国から出た方がいいわ。できるだけはやく、遠く、女神の意思が届かない場所へ逃げた方がいいわ」




 そういえば運命の女神はリュウトを金竜に変えた後、全く出てこなかった。金竜に変えて力を使い果たしたのか、それとも……?


 


「マリンさん、具体的には、どこに行けばいいの?」


「そうね……。水の国か、魔法の国。火の国や砂漠の国でもいいけれど、ここからだと少し遠いわね」


「わたし、魔法の国へ行く」




 アリアが進み出た。




「魔法を勉強して、兄様を倒す。……父様の仇を討つの」


「アリア……」


「アリアさん……」


「わたしは王女よ。自国を、あんな人の好き勝手にさせちゃいけない。確かに、復讐をする理由はあったかもしれない。でも、復讐に手を染める決断をする人では、優しい国は絶対に作れない。兄様は、わたしがこの手で必ず倒す。倒せるようになったらこの国に戻ってくるわ……」




 沈黙が続いた。


 リュウトは思った。


 それじゃ完全に、ブーメランじゃないか。


 やっぱり、アリアがポンコツというのは本当にそうかもしれない。そんなの、復讐の連鎖が続くだけだ。そんなことは、させない。それもまた、『守ること』だ。


 


 復讐をさせてはいけない。


 なんとかして、和解の道を探さなくては。


 また、同じ食卓を囲んで、わだかまりが溶けて、笑い合えるような兄妹に戻れるようにする。


 それが正々堂々たる騎士の、使命で、望みだ。




「わたしは、このリトレギアに残るわ」


「えっ!?」


「えっ!? マリンさん、残るの!?」


「まだ、運命の女神の塔の謎を調べ終わってないし。他にもやることがあるから、ね」


「そんな、でも、この国は危険じゃない! 助けてくれたマリンさんが、危ない目に遭うのはイヤよ!?」


「わたしは大丈夫。万が一死んでも、神の天命を受け入れるわ。大丈夫よ、わたしは強いから。ただじゃ終わらないわ」




 マリンは強い。そこに異論はないけれど。




「本当に、この国に残るの……?」


「ええ」


「…………」


「…………」


「絶対に、生き延びてね。またどこかで、会えるよね、マリンさん。わたし、あなたのことを本当のお姉さんのように思ってた。謝らなくちゃいけないこともあった……」


「ふふ、もういいのよ。ありがとう、アリアさん。わたしも、民族虐殺のあと、ずっとひとりぼっちで生きてきた。だから、あなたの存在に、救われていたのよ……妹のような存在のあなたに……!」


「マリンさん……。ごめんなさい、本当にごめんなさい」




 マリンはリュウトに話しかける。




「リュウトさん。あなたは、女神の塔で運命の女神に会ったわね」


「…………!」


「運命の女神は、どんな風だった?」


「……ワガママ姫だ。アリアの比にならないくらい。めちゃくちゃで、自分勝手で、オレはあいつを許せない!」


「どうして、それが『運命の女神』だったんだと思う?」


「え? え……そんなのわかんないよ。あんな奴、女神なんかじゃない。禍々しい物を閉じ込めてあったんだ、この塔は。モンスターなんだあいつは!」


「……あなたの運命の呪いはまだ解けていないわ。でもきっと解ける。あなたが運命の意味を理解したときに、きっと。呪いが解けるときに、旅は終わる」


「それは……占い……?」


「そう。あなたが眠っている間、占いをしたらそう出たの。運命はあなたが生きている間は必ず着いてくるわ。だって運命というのですものね。でも大丈夫。あなたのような真っ直ぐな気持ちがある子は、きっと大丈夫」


「絶対じゃなくて、きっとなの?」




  ニコリと微笑み返す。


 


「さあ、そろそろ出発をした方がいいわ。王子の命令で、竜騎士団に殺されてしまわないうちに。この国から飛び立ちなさい!」


「はい!」


「うん、マリンさん、元気でね。どこにいても、どんなに離れても、仲間だよ」


「ええ……」




 そろそろ、飛び立とう。しかし、気になることがあった。まだ、土を見続けるシリウスのことである。




「シリウス…………本当に、ごめん。オレのせいなんだ…………じいやが死んだのは」




 シリウスはリュウトに反応しない。ただひたすら土を眺めている。


 シリウスはじいやと五十年連れ添った。


 じいやには家族がいなかった。


 家族を作らず、王家に忠誠を誓っていた。


 悠久の時を生きるドラゴンにとって、五十年は僅かな時間だ。


 されど、シリウスがじいやのことを忘れることはないだろう。




「…………シリウス、よかったら、一緒に来ないか。オレがダメダメすぎたら、取って食っていいからさ。じいやにはまだ全部教わってなかった。でもシリウスは知ってるだろ、じいやのこと、一番良く。だからさ、パートナーになって欲しいんだ。じいやが大事にしてたこと、オレに教えてよ。シリウスの中で生きてるじいやを、オレにも分けてよ。………………ダメかな………………」




 シリウスは、尻尾でリュウトを小突いた。




「! …………ありがとう、シリウス…………」




 リュウトは次はアリアの方へ歩いた。




「あの……出発前に…………話しておきたいことがあって…………」


「なあに?」


 


 ポケットの中にしまっていたものを取り出す。竜になったりしたのに、破れていなくて本当によかった。




「これを……あげたくて…………」


「えっ、これは…………」




 リュウトはアリアに、ピンク色の新しい手巾を手渡した。




「ほら……オレのせいで、ダメになっちゃったじゃん。怪我したとき、腕に巻いてもらって……それをずっと返したくて…………でもどうせなら、サプライズで渡したかったんだ…………だから街の人に色々聞いて回ってたんだ。アリアが喜んでくれそうなの…………」


「そう…………だったの………………!?」




 愕然とする。


 嫉妬でみじめな思いをしていたときでさえ、リュウトは自分のことを考えていてくれたのだ。


 こころが離れていく感覚があったのは、自分だけだったのだ。




「リュウトさん………………ごめんなさい、わたし、わたし…………あなたのこと、もっとちゃんと知ろうとしなくて…………ごめんなさいっ…………!」


「えっ、えっ? なんで泣くの!? センス、ダメだったかなぁ……」


「ううん、そうじゃない。そうじゃないの……嬉しいの、本当に。あなたに会えて本当によかった」




 アリアは抱き付いた。


 最初に出会った日と同じだ。


 あの日は、ハグを返すことができなかった。


 今回は。




 アリアの背中に、手を掛けようとする。


 しかし。




 できなかった。


 まだ何も、問題は解決していない。




 運命の女神のことも、ソラリスのことも。




 それに自分なんかでは、王女を幸せにすることができない。自分勝手な人間であることが自分でよくわかっていた。自分は騎士だ。騎士見習いだ。


 王女のパートナーにはならない。なれない。


 王女がいつか相応しいパートナーと出会えるそのときまで、守り抜く。


 それだけでいい。




 だから、ハグは返さなかった。




 二人は、それぞれの竜に乗り込み、魔法の国を目指して飛び立っていった。


 女神の塔の下で、マリンは二人を見送った。




「生きるのよ……二人とも。生き延びるのよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ