第三十五話 過去
佐々木リュウトは、日本で生まれ育った。
リュウトの両親はまだ彼が幼かった頃、交通事故で二人とも亡くなった。
それから叔父に引き取られて幼少期を過ごした。
十歳まではよかった。叔父夫婦には長く子どもが無く、リュウトを本当の息子のように可愛がってくれた。
しかしリュウトが十歳になると、叔父夫婦の間に本当の娘がやっと授かった。
娘はミクと名付けられ、大切に育てられた。
リュウトも新しくできた妹のミクを大切にしようと思った。しかし叔父夫婦は実子が産まれると、ミクだけを可愛がるようになった。
リュウトは、遠慮をするようになった。
家族旅行には水を差さないように留守番。食事も部屋で一人で摂る。お金が掛かることは言い出せない。なるべく家族とはすれ違わないように気を付けて生活していた。
学校では何をやっても平凡。
比較的整った顔をしているのでモテることはあったが、なるべく一対一の深い関係にはなりたくない。
浅く広くの付き合いはできる。もし誰かと深く仲良くなったら触られたくないところが傷付くことになる。だから、仲良くなりすぎないように注意している。
学校を卒業したら、誰も知らない場所へ行きたいと思っていた。誰もリュウトを知らない別世界へ。
家では居場所もない。
学校はもっと最悪だ。
付き合っている友人らは、スクールカースト上位を自称するような連中しかいなかった。カーストが上なら何をやっても許されるのか? 人を虐めるようなクズのどこがカースト上位なんだ?
人間としては圧倒的下位。
虐められてる者を見て助けに行かない自分ももちろん下位だ。
学校にはバカげた人間関係しかない。
大人になってもいつか自分がどこかへ行くよりも、ある日ドラゴンが空から舞い降りて、すべてを焼き尽くしてくれたら話は早いのに。
そんなファンタジーの空想。
それが、現実となった。
映画館の帰り道、金の竜が現れた。
金の竜は口から炎を一吐きし、街を焼いた。
直感した。
あれはオレだ。
オレが呼び出したんだ。
そうだ、いいぞ、炎を吐け。
こんな世界はいらない。
壊せ、滅ぼせ、焼き尽くせ。
街は焼かれて、全員死んだ。
友だちも、自分も、無関係な街の人も。
人間は死んだらどうなるんだろう?
きっとなんにもなくなる。
人は数十年の僅かな時間を生きるだけ。
地球の何十億年の歴史に比べたら、最初からなかったこととさして変わりはない。
夢が叶った。
全てが燃えて消えた。
『あの人』のおかげだった。
金の竜に変身したのも、炎を吐いてこの汚い世界を清掃できたのも、誰もいない世界へ行くことができたのも、全部『あの人』が力を貸してくれたからだった。
自分の炎に焼かれて死んだ。
死んだら、白い空間の中で目を覚ました。
あれが、無だ。
無の中に居続ければ、そのうち意識もなくなって、存在そのものがなくなるはずだった。
世界の本来の姿は、無の空間なのだ。
しかし意識はなくならなかった。
まだ、彼女はやってほしいことがあるらしかった。
自分の夢を叶えさせてくれたのだから、もちろん何でも協力したいと思っていた。
白い空間の中で彼女は自らを『運命の女神』と名乗った。




