第三十一話 選択
リュウトは、運命の女神の塔の入り口まで来ていた。
徒歩で来たはずなのに、いつもに比べて、あまりにも距離が近かった気がする。途中、ワープでもしたかと思うくらいに、あっという間に辿り着いてしまった。
おそらくアリアは、運命の女神の塔の中にいる。
そういう直感がする。
当たってなかったら、じいやに大目玉を喰らうだろうけど、構わない。
アリアがもしかしたら、ピンチになってるかもしれないんだから。
王女のピンチを助けに行ってこそ、正々堂々たる、騎士の在り方じゃないか。
「えっ……!? も、門が……開いている……」
運命の女神の塔の麓。
本来なら塔への入り口の門は固く閉ざされているというが、今、扉は開かれている。
五メートルは優にある重々しい石扉が、どんな闖入者も拒まず、全てを受け入れるかのように堂々と開かれている。
「じゃあ……やっぱり本当に……」
――やっぱりここに、アリアが来たんだ。
そして多分。
――元の世界に戻る鍵も、ここにあるんだ。
「……行くぞ! 行くんだ! こわがるな、オレ!」
リュウトは勇気を出すために両手で顔を叩いた。
頬にも手にも感触がある。痛い。
しかし痛みを入れて勇気のチャージが完了した。
ずんずんと歩いていき、石の門を潜った。
塔の中は、静かで寒くて、暗かった。
夢に見たのと、同じ景色だった。
知っている。
いや、歩いたことがある石畳の螺旋階段。
階段の横幅は広く、人間が人間の為に造ったものではないような建物に感じられる。
上階を見上げると、どこまでも螺旋が続いている。
終わりがあるようには見えない。
この塔を、登りきった先に、元の世界がある。
根拠はない。
だが、何故か確信している。
でも、どうする?
元の世界にもし戻れるチャンスがあったら、
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ニア帰る?
帰らない?
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このリトレギア王国では、たくさんの新しい友だちができた。危険ではあるけれど、元の世界よりもいい暮らしをしている実感がある。新しい世界で、新しい生活を手に入れたばかりで、元の世界に戻って何の意味がある?
「それに、元の世界に戻ったところで、もうみんな」
言い掛けて、やめた。
リュウトは背筋にゾクリとするものを感じた。
「おい、はやすぎるだろ……」
まだ、百段も登ってないというのに。
カツン、カツーンと、足音が響いてくる。
木の靴が石畳に響いている音だ。
悪夢の通りだ。
足音の主は、夢と同じなら『あの人』だ。
今まで曇天だったが、外は雨が降り土砂降りになってきた。塔の中を雨音も響くようになってきた。
帰らせないために雨を降らせたのだ。
『あの人』にとっては天候操作も造作もないことだろう。だって、魔女なんだし。
夢の中では、階段から『あの人』が現れ、闇の言葉を囁いて夢が終わる。
「アレーティアを、殺せ」と。
なんでなんだ。
なんで『あの人』がそんなことを願っているんだ。
あんな小さい子を一人殺して、何になると言うんだ。
なんでしかも、オレじゃなくちゃ、いけないんだ。
いつもいつも『あの人』にしてやられてて、たまるか!
悪夢では負けてても、現実でなら勝てる気がする。こっちは男なんだ。その気になれば腕力で勝ってやる!
しかも、自分から迎えに行ってやるぞ!
待ってろよ!
リュウトは恐怖に打ち勝った。
どうにもならない夢の中ではどうしようもないが、なにかをやればなにかが成す現実でならどうしようもある。
頬の痛みはもうない。
この世界に来てからやたら怪我の治りがはやい。
嵐に包まれた女神の塔の螺旋階段を、ひたすら駆け上っていった。




