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天空の姫君と異世界の竜騎士  作者: しまいゆり
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第三十話 墓地

 


 いなくなったアリアを探して少年は運命の女神の塔へ走り出していた。


 一方、王城内の墓地。


 ここには、歴代の王の墓碑が並べられている。初代の建国王から、先代の王まで。いつもなら日当たりがいいが、急に天気が曇ってきた。黒く分厚い雲が、王城を覆う。


 


 この墓地には、アリアの母の墓碑もある。


 外国の、しかも奴隷の身分であったアリアの母は、本来なら墓を作られない。夫が死んでも、同じ墓に入ることはない。


 しかしこれまでの慣例を破って、国王が無理に作ったのだった。王はそこまで愛していたのだ。




 アリアが旅立ちの前に母の墓にお別れを告げようと、風竜と共に来てみると、先客がいた。


 ソラリスだった。




「え、……兄様……?」




 一体、墓地に何の用事だろう。


 墓地をこわいと思ったことはないのだが、こうも天気が悪いと不気味に思えてくる。




「あの……ソラリス兄様……?」




 アリアは勇気を出して話しかけてみる。


 


「アレーティア、か。また、一人で行くつもりか?」


「あっ……」




 見抜かれている。


 魔法の国へ勝手に行こうとしていることを。


 この人には、隠し事は通用しないのだ。




「……ダメでしょうか」


「……やりたいことをやればいいさ。人生は短いのだから、好きにすればいい」


「……!」




 なんだか最近、ソラリスは雰囲気が穏和になった気がする。


 最近の変化といえば……リュウトが来た。風竜を仲間にした。マリンが来た。


 何が彼を変えたのだろうか。


 やはりリュウトだろう。誰の目にみても、明らかにリュウトはソラリスに気に入られてる。リュウトには人から好かれる才能が本当にある。


 私と違って――。と、思ったところで首を横に振った。


 ネガティブ思考とは、さよならするのだ。




「明日、旅立ちます」


「そうか。寂しくなるな」


「えっ……」




 さ、寂しくなる?


 本当に? 本当にそう思ってくれてる!?


 そんなことを言われていたら、明日旅立つのに後ろ髪を引かれる思いになる。


 頑張りたいと願った原動力、最初の気持ちは、この人の役に立ちたいからだった。


 


 でも最近は違っていた。


 リュウトのように頑張りたいと思う。


 リュウトの後ろ姿が、頑張りたいと思う指針に変わってきていた。




「あの……ありがとうございます、兄様」


「アリシアもきっとお前を守ってくれる。大丈夫だろう」




 アリシアというのは、アリアの母親の名前だ。十個年上のソラリスは、アリアの母と面識がある。




「そうですね! 母様が、見守っててくれる!」


「ああ」




 こんなところで意見が一致するとは思わなかった。共通の話題があったのだ。ソラリスは両親を亡くしているから、母の話を聞くのを遠慮していた。本当は、どんな人だったか、どんな思い出があるか聞きたかったけれど、悪いなと思ってできなかった。




「……ところでアレーティア、一つ聞きたいことがある。ああ、別に構えなくていい。ただ、雑談がしたいだけなんだが……」


「? なんでしょう」


「アレーティアは、人は死んだらどこへ行くと思う?」


「えっ……どこへ行く、ですか……?」




 唐突な質問に驚く。しかし、唐突ではないのかもしれない。ここは墓地だ。死に思いを馳せるのも不思議ではないか。




「……俺は、人は死んだら無になるんだと思う。父上も母上も、アリシアも……。ここには墓碑があるが、中には何もない。何も残らなかったんだ、誰も……。こうして、死んだら何も残らないのに、何故俺たちは生かされて、生きねばならないのだと思う? アレーティア」


「え…………」




 空気が、重い。


 普段は淡々としてるソラリスが、こんな風に話すのは珍しい。


 悲愴……いや、悲壮か。


 


 何か答えなくちゃ、何でもいいから、何か答えなくちゃ。


 思いついた言葉を口に出す。


 


「人は死んだら…………楽園へ行くのだと思います!」


「…………楽園、か」


「はい。兄様のご両親も、わたしの母様も、楽園へ行ったのだと思います。ここには形はないけれど、わたしたちが天を全うし、召されるときがあれば、いつかまた、再会できる。いつか、楽園で、再会を、果たすのです……わたしは、信じています!」




 アリアは、ポロポロと涙が流れていた。


 もし、母に会えたならーー。




「…………俺も、その楽園へ、行けるだろうか……」


「? もちろんですよ! 兄様は、これまでにすごーく頑張ってきていっぱい功績があるじゃないですか! 神様の方でも来てほしいと思われていると思います! でも、楽園に行くとか、まだそんなこと言うの、はやすぎると思います。これからきっと、楽しいこと、いっぱいありますよ」


「……ふふ、そういえばアリシアも同じことを言っていたな」


「え、母様が!?」


「……。ありがとう、アレーティア。なんだか気分が軽くなった。今ならどんな望みでも果たせそうな気がするよ」


「! それは、それはよかったです!」




 アリアは墓地を後にした。なんだかようやく、本音で話せた気がする。本当に、人が変わったみたいに穏やかだ。これまでは、アリアの言ったことで笑うだなんて、ありえなかった。




 風竜を空で待たせ墓地を出て、部屋で着替えていると、じいやがノックもせず慌てて入ってきた。えっち! と叫んだがじいやはそれどころではない様子だった。




「アレーティア様、リュウト様を見かけなかったですか!?」


「え? リュウトさんが、どうかした? 朝、学校の前で友だちといるところは見たけれど……?」


「召使いの話では……一刻前、尋常じゃない声量で、運命の女神の塔へ行かなくっちゃ行かなくっちゃ! と叫んでいるリュウト殿を目撃したとのことで……。あやつ、もしかしたら、何かに取り憑かれておるのかもしれません!」


「! ……それは心配ね!」


「本当に、運命の女神の塔へ行ってしまったのだろうか……。あれほど行ってはならぬと口を酸っぱくして言ったのに何故!? やはり、女神に祝福…………呪われたのでしょうな……」


「でも一刻前に徒歩で出発したのなら、ドラゴンを飛ばせばすぐに追いつくわ! 追いかけましょう!」


「はい……!」




 じいやとアリア、二人が会話しているところで、血相を変えたソラリスがやってきた。いつも冷静なソラリスが、今回は取り乱している。




「アレーティア!!」


「はい、兄様、何でしょう?」




 ソラリスは一旦冷静になるため、ふーっとため息をついた。




「……女神の塔から、金竜が現れた」


「金竜……!?」




 って、何? と聞きたいけど聞けないアリアを察して、じいやが説明する。




「金竜ですか……風竜と同じく伝説の古竜種で、その名の通り金色の身体を持ち、長い胴体で全てを薙ぎ払うと言われている、巨大な竜です! 伝説によると、とにかく凶暴で残忍な奴なのです」


「そんな、そんな金竜が、何故急に……!?」


「わかりません……闇の魔法使いが出現していたこと、巨大蛇が現れたことと何か関係があるのかもしれませぬな」


「待って……そんな巨大な竜が暴れてたら……リュウトさんは!? 運命の女神の塔に向かったって、こ、殺されちゃうわ! はやくリュウトさんを救出しないと!」


「ダメだ、アレーティア!」


「!? 兄様、何故止めるの!?」


「金竜は危険すぎる。もしかしたら王国竜騎士団が束になっても敵わないかもしれない。それほどの奴だ。リュウトのことは諦めろ。俺たちは金竜を倒しに塔へ向かう。アレーティアは、この城に残って守備にあたれ!」


「え!? リュウトさんを、諦めろって!? そう言ったの、兄様!?」


「アレーティア、これは命令だ。城から出るなよ!」




 ソラリスは急いでその場を離れ、リトレギア王国竜騎士団を指揮して運命の女神の塔へと出撃していった。




「じいや! 兄様が城から出るなって……。そんなの、そんなのできないわ! リュウトさんが死んじゃうかもしれないのよ!? わたし、リュウトさんを探さないと……! あの人を、傷付けたの、誤解をさせたの……謝らなくちゃ! こんなところで、本当に会えなくなるのは、イヤなの!」


「わかっております、アレーティア様は、こういうときにじっとしていないお方です。ソラリス様に、後で大目玉を喰らう覚悟はできておりますな!」


「……! じいや……! ……無茶を言って、ごめんね」


「じいやはアレーティア様が立派なワガママ姫に成長されて、嬉しく思いまする!」




 アリアとじいやはそれぞれの竜に乗り込んで、リュウトを探す旅に出た。金竜を倒すのはソラリスたちに任せて、アリアたちはリュウトの回収がミッションだ。


 正門で飛び立とうというとき、アルディナンド国王も飛竜に乗って飛び立とうとしていた。


 


「え、父様も!?」


「何、アレーティア!? お前は城の中で待っていなさい! 城の地下室なら、金竜に王城が壊されることがあっても、生き延びれるじゃろう!」


「待てないわ、リュウトさんを探すの! あの人きっと今頃泣いてるわ……最初に山で出会ったときみたいに……」


「リュウト君が……そうか、わかった。しかしリュウト君を見つけたら、みんなで非難するのじゃぞ……。任せたぞ、ヴァイゼル。しかし立派になったな、アレーティア……」




 国内の竜騎士総出だ。城にいた竜騎士は全軍、ドランディオーソも含めて金竜を倒しに向かった。それぐらいの危機だ。正門から次々と飛竜が飛び立っていく。


 天候は大荒れで、大雨が吹き荒ぶ視界の悪い中、リュウトを保護することができるだろうか。




「父様、そういえばマリンさんは!? 光の魔法使いだから、金竜に特効のダメージを与えられるかも!」


「ああ、わしもそう思ったのじゃが……マリンがどこにもおらんくてな……。力を借りたいと思ったが、わしだけで行くことにした!」


「えっ、マリンさんが、いない?」




 マリンがいなくなった。


 このタイミングで、何故?




 しかし今はそれどころではない。雨の中を、突き進もう。行方不明のリュウトを探して。




 アルディナンド王も飛竜に跨り、金竜を倒しに向かった。


 


「さあ、アレーティア様、我々も向かいましょう!」


「そうね、じいや。……お願いリュウトさん、無事でいて!」




 シリウスと風竜は飛び立った。

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