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天空の姫君と異世界の竜騎士  作者: しまいゆり
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第二十九話 疲労

 リュウトは嵐の日以降、毎晩悪夢にうなされていた。




 竜騎士学校は毎日本当に色んなことが起こる。貧弱な身体でこなさないといけない鍛錬はつらいけど、友だちにも恵まれて、日本の学校よりずっと楽しい。


 新米騎士たちが自分のドラゴンを持てるようになるのは先のことだけれど、一日一日を丁寧に過ごしていきたい。なによりこの国の家族の期待や信頼に応えたい。


 家族に対してそんな風に思ったことはこれまで一度もなかった。


 


 悪夢を見た時に聞こえる『あの人』の声は、日に日に大きくなっていっていた。


 朝起きると汗をびっしょりとかいている。


 精神的に不安定な日々が続いているのを、現実で必要以上にわざと明るく振る舞って、ごまかしてきた。




 悪夢の内容は、いつも決まって同じものだ。




 夢をみると、運命の女神の塔の中の、天に続く螺旋階段をのぼっている。


 階段をのぼっていると、途中で、『あの人』が降りて来る。


 そして『あの人』は、リュウトにこっそり耳打ちする。


 


「異世界に戻る方法を教えてあげる」




 悪夢の中ではいつも雷鳴が轟いている。




「それはね、とても簡単なことよ」




『あの人』に話しかけられると、手足から冷え、胴体も冷え、心の臓まで冷えきって、身動きが取れなくなる。




「――アレーティアを、殺せばいいのよ」




 そこで、目が覚める。


 目が覚めると、意味がわからないほど身体も、顔も、水浸しになっている。汗と、涙で。


 


 なんで、なんでアリアを殺さないといけないんだ! と怒りが込み上げて、ぶつける相手も見つからず、涙を拭って小さく震える。




 これはやっぱり、闇の魔法にかかっているのだろうと思った。


 気付かない間に闇の魔法にかかり、精神を蝕まれている。可能性としては、高そうだ。


 


 闇の魔法が関わっていたのはこれまで出会ってきたものだと、山で出会った巨大蛇の幻影、そして生まれながらにして闇の魔法が使えたというソラリス。この二つだけだ。




 蛇は死んだ。結局誰が巨大蛇を生み出したのかはわからない。


 ではソラリスが闇の魔法を使って悪夢を見せているのか? それも、理由がない。




 やっぱり、考えすぎか。


 異世界に来て精神が疲労してるから、悪夢を見ているだけかもしれない。それを、人を疑ったりなんかしては、よくない。




 今日は、竜騎士学校の入学一ヶ月後にあるたった一度の休暇日だった。真っ先にアリアの顔がみたい。


 


 食堂で、アルディナンド国王に結婚の話をされてから、少し気まずくなっていた。


 


 アリア、かなり拒絶してたな……と思い返す。


 でもよく考えると当たり前の話ではある。全然良いところないし、弱いし、すぐ調子に乗るし、それよりなにより、初対面では『全裸』だった。うっすら、どころか、やっぱりそれで結構嫌われてたんだ。


 だけど、アリアがソラリスのことを好きだったことを風竜の上で聞いた時、少し羨ましかった。誰かを本気で好きになる気持ちを今まで体験したことがない。


 人を好きになって、結婚して、家族が増えて、それで何になるんだと思ってしまう。普通の人々が描く幸せはそうなんだろうけど、そこに何があるのか?


 ……経験をしたことがないからわからない。


 


 だけど、純粋な彼女の気持ちが、叶う日が来るといいなと思っていることは、偽りなく思っている。




 リュウトは学校を出て友人たちと別れた後すぐ、王城へ向かった。


 アリアに会いたい。この一ヶ月のことを、話したい。友だちと一生懸命鍛錬したこと、調子に乗ったカスのクラスメイトをボコしたこと、反省文をかかされたのは自分だけだったこと、美味かった食事のこと、間に合わなかったトイレのこと、雨上がりの空が美しかったこと……どうでもいい話が山ほどある!


 どうでもいい話を聞いてもらいたいと思う相手が、はじめてできた。


 緊張から、ついついしゃべりすぎてしまう癖があった。面白いことを言うといって喜んでもらえることが多いけれど、本当はどうでもいい話がしたいわけではない。


 でもアリアには、どうでもいい話を自分からしたい。そして、聞いてもらいたい。


 退屈そうに聞かれてもいい、適当な相槌でもいい。


 どうでもいいことが、無駄ではない。


 やっぱりそれは、本当に友だちだと思ってる何よりの証拠だ!




 リュウトは走った。王城の中を駆け巡った。食堂、中庭、アリアの部屋! しかし。




「? えっ、アリア……。どこにも、いない……?」




 アリアが居そうな城内を探し回ったが、見つけられなかった。


 飛竜舎も見てみたが、風竜がいなくなっている。


 


 悪寒がした。




 ――もしかして、運命の女神の塔の中に行ったのでは……。




 直感があった。


 


 休暇日だというのに、あいにく天気は崩れてきた。暗雲が立ち込めはじめる。


 


「アリア、ヤバイよ! あそこは、あそこだけは行っちゃダメだ! なんとかして、連れ戻さないと」




 リュウトは運命の女神の塔を目指して、走り出した。

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