第二十七話 素直
リュウトが竜騎士学校へ入学することになってちょうど一カ月が過ぎた。王城は変わりなく、平和に時は過ぎていく。日本に帰る手掛かりも見つけられないままだが、もういいのかもしれない。リュウトはこの国で、居場所をみつけた。
アリアが探しても見つからない「居場所」を。
じいやがアリアの部屋を掃除しながら話しかけてきた。
「アレーティア様は寂しい気持ちでおいでですかな?」
「………………何が?」
「リュウト殿と会えなくて。寂しい気持ちには、ならないのですかな?」
「リュウトさんは、自分でやりたいことを見つけたの。応援してあげなくちゃ。それが、友だちとしてできることじゃない」
「……寂しさに効くというお茶が入りましてな。飲みませんか」
「…………飲むわ。寂しいわけじゃないのよ。ただちょうど喉が乾いてただけだからね。勘違いしないでね」
「では、淹れますから、少し待っていてくだされ」
じいや。いつもいつも揶揄うような口ぶりで。こっちは真剣に悩んでいるのに。
食堂での出来事を最後に、リュウトとは話せていない。あの明るい少年の最後の姿を、悲しい姿にしてしまったのは、自分のせいだ。
あれから、その時の出来事を思い出すたびにこころが痛くて、涙がとめどなくあふれてしまう。
傷付けたいわけじゃなかった。でも結果的に傷付けた。
……本当に傷付いたかはわからない。
本人に直接聞いてないし。
こういうとき、リュウトだったら「直接きいて見ればいいよ!」だとか言って一人でずんずん進んでいくのだろうなあ、と思う。マリンとの出会いの時が、ちょうどそうだったように。
「お待たせいたしました、アレーティア様。本日のお茶でございます。熱いので、気を付けてお飲みくだされ」
「ありがとう、じいや。じいやは、お茶を入れるのが上手ね……」
「アレーティア様はど下手ですな。何をやらせてもポンコツで。ウヒャウヒャ」
「なっ、なんでそういうこと言うのよ! ……でも本当にそうね。何をやってもうまくできなかったわね、わたし」
「呪われているのかもしれませんな」
「!? えっ、の、呪い……!?」
「ははは、冗談ですじゃ」
「わたし、仮にも王女なのに、じいやにひどいいわれよう……」
「しかしですな、アレーティア様。不器用と言うのは、あなたが持って生まれた才能なのかもしれませぬ」
「え、ええ……? 本当にひどい言われようね……!?」
「いえ、じいやはこう思いますのじゃ。完璧な人間は、いつまでも人から好かれはしませぬ。人というのは、自分と同じように、不完全なものに、愛着がわいてくるのだと思います。アレーティア様は、不器用です。しかしその性質をわかっていたからこそ、リュウト殿は、あなたと一緒にこの国へ来たのだと思います。ふふ……まあ、実際のところはわかりませんが……。アレーティア様は、もう少し自分に素直になってみれば、きっと道が開けていくと、じいやは思いますのじゃ」
「……自分に素直に……?」
「はい」
「……素直って、何?」
「今日は竜騎士学校の入学一ヶ月後の一日休暇の日です。もしかしたらリュウト殿が、帰って来るかもしれませんな」
リュウトが、帰って来る!
「でも……」
この前の言動で、リュウトを多分傷付けた。
――もう少し自分に素直になれば、きっと道は開けていく。
「わたしの素直な気持ち……?」
どうなんだろう。
リュウトにまた会えるチャンス。
会いたいか、本当は、会いたくないのか。
そっと胸に手を当てて、本当のこころを聞いてみる。
鼓動が、いつもより少しはやい。
「……会いたいわ、わたし。リュウトさんに、会いたい! 傷付けてたのなら、謝りたいの。直接。迷わないでいけばいいのよ!」
「ふぉふぉふぉ……」
「じいや、お茶、ありがとう。わたしもいつか美味しくお茶が淹れられるように、絶対になるから。じいやに失礼なことを言わせないから! 覚えててね!」
「ふふふ……それはそれは楽しみですな」




