第二十五話 悲痛
「け、けけけ、結婚だ!?」
よく晴れたリトレギア王国の朝。食堂に集まって朝食を摂っていた一同は、国王の唐突な提案に、大ショックを受けていた。
「朝食だけに、超ショック!」
「えっ何を言っているの? リュウトさん」
「ほ、本当に、何を言ってるんだよ、国王。お父さん!」
アルディナンド王は真剣な眼差しだった。ふざけているのかと思ったけれど、そうではないらしい。白銀の髭を撫でながら、続けた。
「わしとしては、アレーティアとリュウトくん。二人が結婚をしてくれると、大変嬉しい。アレーティアはわしの大事な一人娘だし、リュウトくんのことをわしはとても気に入っておる! 二人も仲が悪いわけじゃないだろう。アレーティアと結婚して、リュウト君。君が次代のこの国の王になりなさい!」
「えっ!? この国の、王に!? リトレギア王国国王にぃ!? オ、オ、オ、オレがぁ!?」
「ちょっと待って! 兄様はどうなるの? 次期国王は兄様が受け継ぐって、そういう取り決めがあったはずよね?」
「ああ、そうだなアレーティア。だが現国王のわしが任命すれば、拒否はできん。その取り決めも無効にすることなどいつでもできる。…………ん、なんじゃ、アレーティア。お前もしかして、リュウトくんとは、結婚したくないのかね?」
「えっ!?」
リュウトの顔を見る。
困った顔をしている。こちらを見ようとしていない。
――そうよ、結婚なんて、早過ぎる。
でも婚約をしていなければ、リュウトが竜騎士になるのを待っている間に、グラン帝国との政略結婚の話が上がるだろう。そうなったら、リュウトにも、ソラリスにも、じいやにも、この国の誰にももう二度と自由に会えなくなる。それは、それはイヤだ。優しいこの国の人々と、いつまでも一緒にいたい。
「でも、そんなの兄様が……可哀想だわ。約束を反故にされるなんて」
「アレーティア、今はソラリスの話をしているのではない。リュウトくんのことをどう思っているのかと聞いているんじゃ」
「!」
どう思っているかなんて突然聞かれても。
だけど、思い出している。
はじめて会ったとき、素っ裸だったこと。
山から転落したアリアを脇目も振らず飛び込んで助けてくれたこと。
勝手に腰まわりを触ってきてえっちだったこと。
蛇の口の中から聖鳩琴を投げ渡してくれたこと。
二人ではじめてドラゴンに乗って、空の上から見た夕焼けの綺麗だったこと。
街で膝をついて倒れたときに、アリアに気付かず友だちと行ってしまったこと。そのとき、みじめに感じたこと。
まだ全然どんな人か知らないこと。
「…………そんなの、兄様が、可哀想だわ」
「もうよいアレーティア! お前は母親に似て本当にバカじゃ! 質問にもまともに答えられんとは! もうよいもうよい、部屋に帰りなさい!」
王は憤慨して、アリアは食堂から追い出されてしまった。
王はやはり、実子に王位を継承してほしいのだ。
もっと正確に言えば、ソラリスに王位を継がせたくないのだ。事情はわからないが。
王としての才知に嫉妬したのか、闇の加護が付いていることが気に食わないのか、また別の理由なのか。
考えてもわからない。
アリアはこの情けない姿を誰にも見られないように、急いで部屋へ帰った。部屋に帰って扉に鍵をかけて寝具に寝転がって泣いた。
誰も傷付けるはずじゃなかった。
誰も傷付けるはずじゃなかった……のに。
食堂から追い出されるときにちらりと見えたリュウトの顔が、見たことないくらい沈んでいたのを見てしまった。
「誰も傷付けたくなんて、ないのに……!」
思っていることと、口から出る言葉が違うことで、みんなを傷付けた。どうして人生はうまくいかないんだろう。
涙が止まらなかった。




