第二十二話 悪夢
その夜、リュウトは夢を見た。
夢の中で、石畳の螺旋階段をのぼっていた。
壁に右手を当てて登っていく。が、身体が鉛のように重い。
ぐるぐると、どこまでも続く螺旋階段をのぼっていく。一歩一歩が重くて、息切れがする。
寒い。
手足の先から、冷えてきた。身体が冷え切って動かなくなってしまう前にはやく、はやくのぼらなければいけない。
何故かって、それは……。
『あの人』が、待っているから――。
この塔の頂上で、『あの人』が待っている。
そうだ。この螺旋階段がある場所がどこだか、もうわかりきっていた。
これは、『運命の女神の塔』の内部の、螺旋階段だ。
どうして運命の女神の塔の中にいるんだろう。それよりもどうして、運命の女神の塔の中をこんなにも鮮明に知っているんだろう。
疑問に思う余地もない。
前、ここに来たことあったもんな。異世界に辿り着いて、最初に着いたのがここ、『運命の女神の塔』の頂上だった。
そしてオレは、『あの人』に出会った。
どうして、今まで忘れていたんだろう。
風竜の山に置き去りにされてから、すっかり忘れてしまっていた。あんなに大切なことだったのに。
螺旋階段は、どこまでもどこまでも続いている。外から見た時、塔は空に続いていた。この疲れた身体で、そんな高い塔を登り切るのは不可能だ。歩くのをやめたい。でも、できない。
運命の女神の塔をみたとき、オレにも運命があるのか、運命があるならこの人生に意味があるのか、なんて考えてたな。答えならもう、とっくに出ていたのに。
オレは『あの人』のために、異世界に来たんだった。
そのとき、カツン、カツーンと音を立てて、塔の上の方から、誰かが降りてきた。木の靴が、石畳を踏み締める音だ。
静かな塔の中を、足音が石畳を反響する。
――『あの人』が、降りて来た。
見覚えがある顔だ。
表情はない。なくしてしまった。オレのせいで。バカだったオレのせいで。
「……やっと話せた。久しぶりね」
声が出ない。
「元の世界に、帰りたい?」
『あの人』が、囁く。
リュウトは、こくりと頷く。もう身体が完全に冷え切って、どの力も出ない。
リュウトは壁に持たれて座り込んでしまった。
座り込んで丸まった少年に近寄り、『あの人』は弱い力で抱きしめる。そして、耳打ちする。
「それじゃあ、帰る方法を教えてあげるわ」
雷がなった。
リュウトは、目を覚ました。
外は嵐になっている。
ビョオビョオと風が吹き、森の中の木々が暴れているのが音でわかる。
目を覚ましたが、起き上がれない。
頬に冷たいものが流れていくのを感じた。
――涙。
目には涙が溢れていた。
悪夢をみた。
忘れてはいけない、大切な悪夢を、みた。




