第十八話 算数
「よぉし、じゃあ合図したらオレが出発するから、十秒数えたら、じいや追いかけてきて。それじゃ行くよ! スタート!」
リュウトは風竜を操ってスタートした。信じられないスピードだ。短期間で何故これほどまで成長したのか。
「ふふ、ソラリスの飛竜の方がもっと早かった。でも風竜は古竜なんだ。飛竜の上位種のドラゴンなんだ。風を操れるから、スピードもすぐ出る。行け、風竜! オレたちが、勝つぞ!」
風竜はぐんぐんスピードをあげる。はじめの位置からもう見えなくなるほど離れた。
じいやが、十秒数え終わった。
「リュウトさん、いつのまにあんなにドラゴン捌きが上手になったの? 高所恐怖症は、どこに行ったのよ。じいや、本当に大丈夫?」
「確かに、竜の個体差がありますからな。しかしあやつは大事なことをわかっておらん。もう既に敗北しているも同然じゃ」
リュウトが後ろを振り向く。じいやだ。十秒で随分離したと思ったのにもうそこまで追いかけてきている。じいやの方が、スピードは上だ。
算数の問題だ。
【問い、一】
リュウトさんは爆速で出発しました。その十秒後、じいやさんは超高速で追いかけました。何秒後に追いつきますか。
答えは。
「ふははは、リュウト殿! スピード勝負でもありませんでしたな! このままでは、追いついてしまいますぞ!」
「ふん、バカなじいやだ。ただのスピード勝負じゃ、ないぜ!」
リュウトは風竜に合図した。風竜は、進行方向を変え、森の中に潜る。
「!? 何!? 森の中だと!?」
どうだ、やってやったぜ!
風竜は森の木々をかわしながらでもスピードを落とさずに進める。風を操って木々をどかせるからな。慌てふためいた姿を見てやれないのは残念だが、この勝負、オレの勝ちだ! 森の中に潜みながら風竜を操るリュウトは勝利を確信した。
もうすぐ、三分になる。
「よし、風竜、上がれ! じいやに勝利をみせつけてやろう!」
風竜は、森を垂直に駆け抜け、上空に再び戻った。
「!? 何ィ!?」
「わしの勝ちじゃな、リュウト殿」
森を出た風竜のさらに頭上に、じいやが待ち構えていた。じいやは持っていた槍の柄尻で、リュウトの背中をトン、と突いた。
リュウトの、負けだ。あんなに調子に乗っていたのに。
「えーーーっ!? ま、ま、ま、負けたーーーーっ!」
「ふはははははは! 面白い勝負だった。考えたな、森に潜伏するとは。しかし勝負がはじまる前に、お前はもう負けていたよ。それはなんだと思う?」
「うう……。やっぱり、調子に乗りすぎたこと?」
じいやは、吹き出した。予想外の返答だったらしい。
「ま、それもあるな。しかしな、答えは『協調性』じゃ。騎士は団体行動をするからな、ああいった身勝手な行動にでる者から、死んでいく。これまで見てきたどの世代でも例外なくそうじゃった!」
「げ! 学校みたいなこと言うんだなあじいや。協調性ってさあ。オレは思うに協調性がないことも個性だと思うんだよね。もしみんながみんな協調性があったら、そのチームは全滅すると思う。でも協調性がない奴が一人でもいれば、そいつだけは生き延びれるじゃない。間違ってること言ってるかな?」
「ああいえばこういう奴じゃな。お前はやはり、口は達者だが視野が狭い。例えばじゃ、チームで敵に居場所が見つからないように潜伏してたとして、たった一人の協調性のない奴が勝手に飛び出したらどうなる? そいつ一人のためだけに大勢が犠牲になることもある。視野を増やしなさい、リュウト殿。あらゆる視点から物事を考えられるようになることが、強くなると言うことじゃ」
「ううーん……。ディベートみたい。口でも言い負かされた気がする。素直に、反省する。やっぱり、じいやは、すごいよ。そうだね。その言葉、忘れないようにする。強くなることは、あらゆる視点から物事を考えられるようになること、か。確かに、その通りだ。強いって、筋トレとかするだけじゃないね。実践と精神を伴わなければ強くはなれないね」
「うむ、わかっておるな。よろしい!」
それから、リュウトは大人しくじいやの特訓に付き合った。日が暮れだし、そろそろ城に戻ろうかというとき、王城とは逆方向の森から、巨大な衝撃音が聞こえた。鳥が飛び、飛竜の群れが暴れている。
「あれは?」
衝撃音は一回だけではなかった。三回、四回、連続して何かが爆発するような音が聞こえてくる。何か不穏な気配だ。
「じいや、何が起きている?」
「いや、わしにもわからん。」
「行ってみましょう!」
三人は空を進み、音の聞こえてくる場所へと向かった。




