第十三話 感謝
ソラリスとリュウトは、飛竜舎に向かった。
ソラリスは自分の、他の飛竜より一回り大きい個体の竜を出し、背の上に乗り込んだ。
「リュート、来い」
ソラリスに手を差し出された。
「来いって何?」
「竜に乗れ。こわがるな」
「えっ!」
こわがるなって言われたって。
こわいに決まってるじゃないか。
昨日は飛竜に何度も襲われたし、乗ったら多分、空に連れて行かれるじゃないか。こわいことはこんなにもイヤだって言ってるのに。
リュウトはソラリスの手を取った。竜鞍の前方に乗せられ、後ろに座るソラリスにしっかり抱きかかえられた。
「シ、シートベルトが、ある……なんて安心感」
「では、行こうか」
「や、やっぱり! やっぱり飛ぶんだ! オレ、高所恐怖症なんだよ! や、やめてくれー! 降ろしてくれー!」
飛竜は既に地面から飛び立っていた。一瞬だった。ソラリスの飛竜は、風竜よりはやいかもしれない。
「ほう、空の上で降りたいのか。なら、望み通りにしてやってもいいが……どうする?」
飛竜は空高く舞い上がっている。天気は快晴、風も穏やか。地面を見ると、王城がある。森があって、点々と村があるのも見える。
「や、や、や、やめてー! 今ここでは降ろさないでー!」
「ふふ……ははははは!」
ソラリス、冗談なのか、本気なのか、全然わからないよ!
それにまず、なんで急に一緒に空を飛ぼうなんて言い出したんだ?
異世界人は非業の死を遂げたと言っていたがて……ま、まさか! もしかして、今オレ、ここで、こ、殺される……?
異世界人の力を借りたいと言っていたのに!
友だちだって言ってたのに!
オレを空に連れてきて、人知れず殺すつもりだったんだ!
最初からそういう策略のもとであんな会話をしたんだ!
やっぱりこわいと思った見た目通りだ!
この人を、信じるんじゃなかった!
「ひどいよ、ひどいよソラリス! リトレギア王国に来てから、悲惨な目にばっかり遭ってる! オレを殺して、一体何になると言うんだ! 言ってみろ!」
「リュート、ふふ。何か勘違いしていそうだな。まあいい」
ソラリスは手綱を引っ張ると、飛竜は急加速で空をとぶ。
「ギャーーーーーーッ! 殺すならなるべく苦しくないように一思いにやってくれーーーーッ!」
数時間後。二人の空の散歩は終わった。
「ソラリス。今日は快適な空の旅をどうもありがとう。やっぱりドラゴンに乗って空を飛ぶってこわいけど、それに勝る興奮があるね。今日はすごく楽しかった! じゃあ、そういうわけで……」
『G』のかかりすぎたリュウトは、飛竜の上で気絶した。シートベルトがあったところで早すぎたらなんにもならないよ。少しは手加減してくれよ。手加減してこれだったらどうしよう。
空の旅が終わり気絶したリュウトを侍女に任せると、ソラリスは執務に戻っていった。
リュウトは寝室に眠らされ、夢の中で、ソラリスとの空の散歩のことをリプレイしていた。
「リュート。最強の騎士とは、何だと思う?」
「? 急に、何? わかるわけないよ、騎士じゃないんだから」
「そうだな。まだ騎士ではないな。だが魂はもう騎士の卵だと言っても過言ではない。アレーティアを援助してくれて、ありがとう。たった一人の、大切な妹なんだ」
「……」
「結論から言おう。最強の騎士とは、弱者を守り、正々堂々と戦う。それがリトレギアの戦士の流儀だ」
「……そうなの?」
「ほう。意外か?」
「聞いてた話と、ちょっと違うような……?」
「俺は昔のような野蛮なリトレギアは好まん。個人的な思想になるが、アルディナンド国王の慈悲の精神を受け継ぎたいと思っている。強さと優しさ、両方の性質は矛盾しない。同時に存在できる。これからのリトレギアを、強く優しい国にしていく。それが俺の望みだ。……アレーティアは自分の居場所がないことを悩んでいるようだが……優しくあることもまた大事なことだと、国民の大多数が理解するようになったら、きっとその悩みも解決する。アレーティアは大切な妹だし、アルディナンド王は両親がいなくなった俺を育ててくれた、本当の父親だからな」
その会話を終えて、わかった。
アリアたちに対する想いを、万が一本人たちに聞かれていたら恥ずかしいから、空の誘いを申し出たんだ。空の上なら、誰にも聞かれないから。結構、恥ずかしがり屋なんだ。いい人だ。あの人の理想は支持できる。
アリアのお兄さんは、立派な王子だ。
それにしても、殺されなくて本当によかった。ソラリス王子、凄みがありすぎるんだよ。だから誤解されるんだよ。っていやいや、信じなくて、ごめん。
そういえば、アリアは「信じる!」が口癖だったなあ。信じることって大事だなあ。今回のことは疑ってマジごめん、ソラリス。
と、リュウトは薄れた意識の中でアレキサンドライトの宝石言葉、思い出していた。
「『秘めたる想い』か。口には出さずとも、こころの中でとても大事に想ってることってあるもんね。オレにも……きっと……そういう想いが……いつか……」
高速の飛竜に乗って与えられたダメージを感じながら、しみじみと思い、気分よく眠った。




