第九話 失踪
「リュウトさーん! 朝ですよ〜!」
翌日の朝。元気なアリアが、客室で寝ているリュウトを起こしに来た。しかし部屋はもぬけの空だった。
「じいや、緊急事態よ! リュウトさんが、いないの!」
「な、何ですと!?」
リュウトが突然いなくなったことを、じいやのヴァイゼルに告げ、二人はリュウトを探し回った。食堂、大広間、謁見の間、離れの塔、貯蔵庫、武器庫、礼拝堂、菜園、沐浴室、客室。くまなく探し回って、いなかった。
「リュウトさん、どこ行っちゃったのよ! 勝手に、一人でニホンへ帰っちゃったの……?」
中庭のベンチに腰をかけてつぶやく。
こんなに探していないのだから、本当に一人で帰ってしまったに違いない。
仲良くなれたと思った。
思い違いだったようだ。
何の相談もなく、何の挨拶もされず。
リュウトは旅立ってしまった。
「どうして、何も言ってくれなかったのよ! リュウトさんの、バカ!!」
「ただいま〜! って何が? 今オレのことバカって言った……?」
背後からリュウトの元気な声が返って来た。何事もなく現れたリュウトに、アリアもじいやも目を丸くして驚いた。
「!? リュウトさん! 今までどこに行ってたの!?」
「えっ、昨日お父さんが、どこでも自由に行っていいって言ってたから、王城を歩き回ったり、街に出てみたり、色んなところに行ってきたよ!」
「えっ!? 一人で!?」
「うん、一人で」
「ああ……ああ、そ、そうだったのね……」
「えっ、うん。悪かったかな? ねえ、なんでオレってバカ?」
「え!? バカじゃないです! ごめんなさい!」
朝早く目覚めたリュウトは、一人で勝手に色々動き回っていたようだ。山でモンスターに襲われたことは、もはや恐怖に感じていないらしい。恐怖心より好奇心の方が勝つ性格をしているらしかった。
「でもこの国どれだけ広いんだよ。城下町も全部回れなかったから、また行くつもりだよ。出入り口の兵士に止められたんだけど、うまいことおしゃべりしつつ、掻い潜ったんだ。じいやに昨日盗っ人って言われたけど、盗賊も案外向いてるのかもしれないね。RPGでは盗賊も職業の一つだよね。ま、悪いことは好んでしたくはないけどね。あ、話変わるけど、そういえば西側の塔の階段の踊り場で変な隠し部屋も見つけたよ! あれ何だったんだろう……」
「な、な、な、何をやっとるんじゃリュウト殿は!?」
饒舌に今朝の出来事を話すリュウトを、じいやが怒る。無理もない。この少年、一体なんなのだ。自分勝手に動き回って、けろりとしている。性格は良いのだが、良い性格もしているようだ。
「うわー! 怒らないで! 朝起きたら構えるほどの筋肉痛がなかったんだ! オレの好奇心は止められないんだよ! 知らないことは調べないと済まない性質なんだ。ねえでもそれっていいことでしょ? 二人とも、怒らないでよ!」
「まずは礼儀作法を知らねばならんな! リトレギアの騎士道を知らねばなるまい!」
「えっ!? 痛いのもこわいのもイヤだよーーっ!?」
「両方知らねばなるまい!」
「えええ〜!?」
「あはは。まあまあ」
三人は和気藹々としている。リュウトがいると、場が明るくなる。これは人から好かれるだろうなと、少しせつない眼差しをアリアは彼に向ける。
そんなまったりとした時間の中、城の中の侍女たちがバタバタと慌てて走り回りだした。
「どうしたんじゃ、そんなに慌てて」
じいやが一人侍女を捕まえて、問う。
「ああ、ヴァイゼル様。嬉しいお知らせですよ」
「はて」
「ソラリス様が帰って来ます!」
「おお!」
「えっ、兄様が帰って来る?」
アリアの兄、ソラリスが帰ってくる。
最強の竜騎士と誉れ高いリトレギアの第一王子。
第一王子なのに、国王がアリアを一人娘と言っていたのも少し気になる。
リュウトの想像の中では依然としてピンク髪のアリアそっくりの柔らかな雰囲気のお兄さんなのだが――。
三人は正門へと向かった。




