失われた「感情」と人々の熱気
30秒間の崩壊の後、制御センター内もまた、窓の外と同じくらい混沌としていた。
同僚たちは、機能不全に陥ったコンソールと、住民の感情的な爆発を示すライブフィードの間で、混乱し、怒り、そして何よりも深く困惑していた。
彼らの完璧に統制されていた世界は、音を立てて崩れ去ったのだ。
「エリオット! 何をしたんだ!」
主任技術者であるブラウンが、怒りに顔を紅潮させて叫んだ。
彼の顔は、エリオットが生まれて初めて目にする「怒り」という感情で歪んでいた。
エリオットは振り返らなかった。
彼はただ、新しい都市の雑踏を見つめ続けていた。
彼の内なる恐怖は消え去り、代わりに奇妙な静けさが訪れていた。
「人間を取り戻すための、メンテナンスプロトコルです」
エリオットは静かに答えた。
ブラウンは信じられないといった様子でエリオットを睨みつけた。
しかし、彼の怒りはすぐに困惑と、ほんのわずかな恐怖に取って代わられた。
制御盤にはもはや「オメガ」のログは残っておらず、システムは正常に再起動していたが、都市は元に戻ることはなかった。
都市の至る所で、予期せぬ衝突と抱擁が同時に起こっていた。
長い間抑圧されていた悲しみと喜びは、物理的な力となって街を揺さぶった。
オルドスの人々は、自分たちが何を感じているのか理解できなかったが、その感情に抗うことはできなかった。
「匿名」からの次のメッセージは来なかった。
彼らの役目は終わったのだ。
残るは、この新しい、予測不可能な世界を生き抜くことだけだった。
エリオットは制御センターを出る決意をした。もはやここに留まる理由はない。
彼はメインエントランスへと向かう廊下を歩きながら、すれ違う人々の目を見た。
もはやそこには灰色の無表情はなく、混乱、疑問、驚きといった、無数の色彩が渦巻いていた。
広場に出ると、そこは人で溢れていた。
ある女性は、亡くなったはずの子供の写真を見つめて泣き崩れていた。
隣では、見知らぬ二人の男性が、強い口調で議論していたかと思えば、突然笑い声を上げて抱き合っていた。
エリオットの個人端末が再び振動した。
差出人は「匿名」ではなく、主任技術者のブラウンだった。
メッセージは簡潔だった。
「どうすればいいんだ? この『感情』とやらに、どう対処すればいい?」
エリオットは笑みを浮かべた。
それは、日記の中でしか知らなかった「喜び」という感情だった。
彼は返信した。
「感じればいいんです。私たちも、あなたも、皆同じです。明日からは、新しい世界の始まりです。」
もはや、完璧な秩序の「至福の都市」オルドスは存在しない。
不完全で騒々しく、混乱に満ちた新しい都市で、人々は初めて、本当の意味での「人間」としての一歩を踏み出したのだった。
エリオットは空を見上げた。
灰色の空は、相変わらず灰色のままだったが、彼の心の中には、青い空と緑の草原が広がっていた。




