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 殺されないとわかり警戒を解いたのか、ボロをまとったサキュバスは隠し穴から這い出てきて、興味深げに大きな目で俺たちを見つめる。


 着の身着のままここに辿り着いたのだろう、潜んでいた穴には身の回りの道具すら置いてなかった。


「それで、お前はなんでこんなところにいたんだよ」


「お前じゃなくてルナリアだよ、おじさん」


 俺たちに興味はありそうなのに、心は開いていない、そんなつっけんどんな声音だった。


「おじさんじゃなくて、お兄さんだ。……まあいい。食べてるのか?」


 穴の中には食い物だってない。体を見ればろくに食べていないこともわかる。俺はカバンの中からパンを塊のまま一つ取り出し、サキュバスのルナリアに渡した。


「この島は水はあるのか?」


「井戸があるようですね。ほら、あそこに」


 アリアは貴族出身だが、魔王討伐の冒険で生きるために目ざとくなっている。意識しなくても常に水を探している。


「そのパンと水があれば、一晩くらいはどうってことないでしょう」


 自称聖女候補の割りに冷たく言うセレスティアを利用して株を上げようと、俺はドライフルーツもルナリアに渡した。


「一晩って、じゃあ、おじさん達また戻って来るの?」


 そういうとドライフルーツの礼は一言もなく、匂いを嗅いですぐに口にした。


「ああ。俺たちは一旦王都に戻って、準備をして明日また帰ってくる。着る者も食べ物も用意しておくから、大人しくあの穴に隠れているんだぞ。こんなとこにサキュバスがいると知られたら大変なことになるからな」


 サキュバス、魔族が王都近くに潜んでいると知られたらどう大変になるのか、言わないでおこう。


「だったら、いいものがありますよ。もしかして絶景を前にタカシが求めるかもしれないと思って、シーツだけ持ってきました」


 俺のことをなんだと思ってるんだよ。サキュバスのくせにエッチぃことができない未成年に無理やり手を出したりしないぞ。


「ルナリアはこれを服代わりにしてください。羽と尻尾を隠せば、遠目にならサキュバスとはわからないでしょう」


 そっちか。いや、もちろん俺だってわかっていた。人に見られてもサキュバスだと気が付かれなきゃいいんだからな。


「ボロキレだと泥棒に見えますが、これなら清潔ですね」


 そう言うとセレスティアはアリアと2人でルナリアに白いシーツを巻き付けて、サキュバスの印、羽と尻尾を隠した。

 生来より男を惑わすサキュバスだけあって、体に巻く布がボロからシーツに代わるだけでも見違える。


「こんなとこは誰も来ないと思うけど、大人しくしておけよ」


 不用意にルナリアが見つかってしまわないよう、ここは俺たちの領地だって看板でも建てた方がいいかもな。


「わかったから。エッチぃ目で見ないでよ、おじさん」


「だからお兄さんって呼べって言ってるだろ、ったく」


 若干の不安はあったが、これまで生き延びてきたんだから一晩くらいどうってことないだろう。


 俺たちは再び王都へ戻ると、これから領地で野営するための道具と食料を買い揃え、配送を依頼した。王都ではまだ仕事は少ないらしく、まるで通販のように明日には届けるという。


 加えて、ルナリアの服を一通り見繕った。それが当然かのように、アリアとセレスティアも服を買うものだから、やたら時間がかかってしまった。


 王都に戻る道中も、戻ってからも、サキュバスのことは諦めているのか、アリアもセレスティアもそのことは一切何も言わず、俺たちの領地、あの島をどう開拓して花街に仕上げるかばかり話した。


 なんとか服にけりをつけると急いでギルドへ向かい、花街建設のための技術者と人足の手配を終え、すっかり暗くなってからようやく宿で足を休めることができた。


「でもいいのか、アリア」


「なにがです?」


「お前の実家だよ。急に押しかけることになるけど」


 明日の予定はアリアの実家、ブライトン公爵家へ向かい金の無心をすること。アリアに言わせれば喜んで貸すというが。


「構いませんよ。私にとっては帰るはずの家なんですから、急もなにもありません」


「それだけじゃないだろ。金借りるわけだし、それに……」


「だから言ったじゃありませんか。向こうからすれば私との手切れ金のようなものですから、歓迎こそすれ煙たがるようなことはしませんよ」


「なあ、聞いていいか? どうして手切れ金なんだよ。アリアは大切な娘だろ」


「優秀な、いえ超優秀で可愛い娘です」


「私も少し気になっていました。アリアのようなちょっとだけ可愛い娘に、なぜ手切れ金なのですか」


「簡単なのことですよ。爵位を継ぐのは一人だけと決まっているからです」


「どういうことだよ」


「眉目秀麗だけでなく加えて魔王を打ち倒して世界を救った娘がいるのに、何もしていない兄が公爵を継いだら気まずいではありませんか」


「つまり借金をするってのは、アリアは相続争いをしないって意味なのか」


「そうですよ。公爵家の領地経営ではなく、新しくタカシの領地で商売を始めようというのですから」


 よくわからないが、貴族には貴族の体裁とかあるんだろう。商売しちゃいけないとか。

 まして、花街を起こそうっていうんだから貴族ってわけにはいかないか。


「公爵に限らず貴族の爵位を継げるのは一人、基本的に長兄です。女性が継ぐこともありますが、四貴族と名高い公爵家では未だにそれはありません。そこに、私のような才色兼備が産まれてしまったのです」


「つまり、ブライトン公爵家にとってアリアは目の上のたんこぶ、そういうことですか?」


「罪なほど美しく魔王討伐という偉業を達成したのです。セレスティアは私がたんこぶに留まると思っていますか」


 珍しくアリアは悪役令嬢のように高笑いをして自信を伺わせた。


 それは不安を隠すためのものとは思えず、純粋に、ただただ自信と共に溢れ出たように聞こえた。

 実家と確執があるのではないかという俺の心配は、どうやら杞憂だったらしい。



「私は一足先に家に向かい、借用書の準備などしておきます」


 朝食を済ませたアリアは「用意ができた頃に迎えを寄越しますよ」そう言って宿を出ていった。


「なあ、アリアは本当に大丈夫だと思うか? セレスティアは俺より多少は詳しいだろ。貴族のこととか」


「貴族のことはあたしにもわかりませんが、アリアの様子はいつもと変わりませんし、大丈夫でしょう」


「そうか」


 アリアが不安を隠しているって感じではないし、セレスティアもこう言っているし、俺が心配しすぎているだけなんだろうな。


 公爵家から迎えが来たのは、アリアが出て1時間くらい経った頃だった。


「迎えって、馬車かよ!」


 もちろん荷馬車ではない。二頭立てで屋根のついた立派なやつだ。荷馬車はよく見かけるが、荷馬車じゃないやつは初めて見た。

 この馬車一つで、アリアの実家の太さを伺わせる。


「私の初めて、また奪われてしまいました♡」


「下ネタはいいから乗るぞ」


 馬車の揺れはセレスティアにとって心地良いのか、騎乗位を思い起こさせるのか、道中下ネタが途切れることはなかった。


 馬車が止まったかと思うと一呼吸置いて、外から引かれてドアが開いた。


「ようこそお越しくださいました。公爵がお待ちしております」


 向こう側から置いた執事は丁寧に言うと、うやうやしく頭を下げた。

 これだけでアリアが貴族の娘であることが十分に伝わるが、馬車を降りた時に目の前に広がる光景は想像を大きく超えた。


 大きな門の向こう側は芝生と刈り込まれた植え込み。さらに奥に大きく白い建物が悠然とそびえている。


 明らかに一つの家族が住むには大きすぎる規模で、むこうの世界だとなんだろうか、マンションやホテルというよりも図書館が頭に思い浮かんだ。


 執事に導かれ通された建物の中は静謐で、メイドや従者が仕事をしているのだろうが、その気配はまるで感じさせない。もちろん清潔で掃除は行き渡っているというのに。


 目の前にあるのに現実ではないような感覚に、地に足がつかず体が浮くような不思議な心持ちになる。


「どうぞ、こちらにお掛けになりお待ち下さい」


 広い部屋に、10メートルはあろうかという細長い机。俺たちが座った向こう側にも椅子が3つ用意されていている。


「お待たせいたしました」


 それは執事の声ではなかった。


「はじめまして。私はマリアの父、ブライトン公爵です。この度は魔王討伐いただきありがとうございました。また、娘のマリアが無事に戻ってこれたことに感謝しております」


 公爵の挨拶など俺の耳にはまるで入ってこなかった。アリアが着替えていたからだ。

 それは俺が知らないだけで貴族の礼装なのだろう、白いドレスを着ているのだ。まるでウエディングドレスのような純白のものを。


 ただでさえ屋敷に気圧されているというのに、初めて見る着飾ったアリアの姿に俺の頭は完全に真っ白になっていた。


「お話は既に娘の方から伺っております。私としても是非お願いしたいと……、あぁすみません。娘は無駄話はしなくていいと、契約だけでいいと言われていたのに。タカシ=サンは忙しいからと」


「いえ、お気遣いなく」


 その返事が適切なものかわからないが、公爵は気にする様子も見せずに革で装丁された書類カバーを開き、何枚かの書類を俺に向けた。


「ご依頼のものです。いくつかサインを頂きたいと思います。貸付に関しては上限はありません、必要な時に申し付けていただきたい」


「細かいところは私が確認してありますから、タカシはサインするだけで大丈夫ですよ」


 サインか。なぜか、こっちの世界の言葉は喋れるけど、文字はよくわからないんだよな。

 当然、サインは向こうの文字を使うしかない。


「異世界から来られたというのは本当なのですね。疑っていたというわけではありませんが、こうして実際にこの目で見るまでは実感がわかなくて」


 この場の誰もが、俺の漢字のサインを驚いた表情で覗き込んだ。そういえば、セレスティアもアリアも見たことなかったもんな。


「大変複雑なのに聡明さを兼ね備えた、素晴らしい文字です」


 初めて漢字を見ると、そんな風に感じるのか。少しだけ習字を習っていたのが初めて役立った気がするな。


「では、続いてこちらにもお願いします」


 続けて3枚の書類にそれぞれ漢字でサインをすると、2枚目の書類にアリアが、3枚目の書類にはセレスティアがさらにサインを加えた。

 連帯保証人みたいなものだろう。どうやら、借りるのは相当な大金らしいな。


 さらに、3枚の書類に公爵が大きな印章を押した。家紋のような印影は恐らく伯爵家の印だろう。


「ありがとうございます。これで本日全ての契約が成立いたしました。ご結婚、おめでとうございます」


「ちょっと、結婚!? 結婚って?」


「はい、娘アリアと、そしてセレスティア様とタカシ=サンの結婚が成立いたしました」


「待てよ、アリア。どういうことだよ。聞いてないぞ」


「昨日、話しましたではありませんか。手切れ金のことは。セレスティアとの結婚は話していませんが、私だけ結婚するとうるさいですよね。私なりに気を利かせたのです」


 アリアが公爵を継がないってそういうことだったのかよ。俺と結婚するから爵位を継げない、貴族ではなくなるって言いたかったのか。


「じゃあ、セレスティアはこの書類がなんなのか知っていたのか? いつからだ」


「さっき、ここで初めて書類を見た時です。結婚証書だとはっきりくっきり大きく書かれてありますから」


 セレスティアは泰然としている。いつもならアリアと言い争うシチュエーションだろうに。いや、落ち着いているのは同時に結婚するからか。


 でも、それって。


「でもアリアとセレスティア、2人と同時にしていいのか? 結婚だぞ」


「そうしないと、セレスティアがうるさいですからね。最初に選んだのにって絶対に言いますよね」


「そうじゃなくて、重婚はできるのか? この国の法律は」


「問題ありません。どちらかと言えば、王国では女性が複数の男性と結婚することが多いのですが。男性が複数の女性と結婚しても問題ありません。しかし、まさか結婚のことをご存知なかったとは」


 そうか、重婚は可能なのか。

 だったら問題ないな。


「いえ、重婚ができるなら構いません。アリアもセレスティアも、俺でいいのなら。本来は俺が頭を下げてお願いするような相手なのに」


 ようやく公爵の笑顔がアリアと似ていることに気がついた。アリアの白いドレスを見た時に気がついて、緊張していたようだ。


「タカシがそんなことを言うとは、少し意外です。あたしが聖女候補だと何度言っても信じてくれないのに」


「私が本当にブライトン公爵家の元令嬢だと知ったからですよ」


 アリアも言うと2人は朗らかに優しく笑いあい、つられて俺も笑っていた。

 魔王を討伐する旅に出てから今日まで、こんなに安らかに笑ったのは初めてかもしれない。


 冒険を終えて、ようやく新しい生活が始まる実感が湧いてきた。


「それではタカシ=サン、改めて結婚は成立しました。合わせて融資に関しても。問題ありませんか」


「問題ありません。融資いただきありがとうございます」


「こちらこそありがとうございます。このように王国の景気はすっかり冷えているところですから、私としても大変いい話がまとまったと考えています。年利30%で返済は1年後の今日から始まります。アリア共々、返済もどうかよろしくお願いします」


「30%!」


 ちょっと待て、この世界は法定金利とかないのかよ。30%とか完全に闇金だろ。


「喜んでいただけたようで、ほっとしました。愛娘の嫁ぎ先ですので、精一杯頑張って勉強させていただきました」


 喜んでねえし。なんだよ、まるで良心的な金利だって言いたいのかよ。


「魔族が少なくなり、数年あれば治安も良くなるでしょうから、その時は改めて金利について相談しましょう。いまはこれが精一杯であることを、どうぞご理解ください」



「借金のことなら大丈夫ですよ。タカシなら返済できます」


 アリアはいつもより明るい声で励ますように言った。

 俺は自分に商才があるのかわからなくて、屋敷を出てから領土へ向かうここまでの道すがら、ずっと心配が顔に出ていたのだろう。もしかしたら肩を落としているかもしれない。


「結婚したんだから、俺たち3人の借金だしな」


「思い出してください、タカシ」


 ん?


「サインをした順番を。一番最初が借用書だったことを。つまり、結婚前の借金はタカシ一人のものです。あたしとアリアは無関係ということを」


 え? ガチでそうかもしれない。


「冗談です。そんな顔しないでください」


「いざとなれば、私が公爵を継ぐこともできますし」


「できるのか? できないからこその手切れ金だろ」


 アリアは伯爵家の身内だし、結婚した俺も義理の家族。いざとなれば、泣きついて、それでも駄目なら踏み倒すってこともなくはないだろうな。

 だけどアリアが公爵になることはもう。


「私の他に相続可能な家族が全員消えていなくなれば、私が公爵になるしかありませんからね。そうなれば、私が私に貸したことになりますよね」


 胸を張って怖いこと言うなよな。踏み倒すよりずっと酷いわ。


「今までは珍しくなかったのですよ、爵位を継いでもすぐに亡くなることは。魔族との戦いがありましたからね」


 この異世界が平和になって王国の生活は変わっていくのだろう。そう思うと、俺って凄いよな。


「私が貴族から抜けられるのは、タカシのお陰ですよ」


「アリアだけじゃありません。あたしの聖女も近づきましたから」


 アリアとセレスティアがじゃれ合っているうちに、いつの間にか領地のすぐそこまで近づいた。

 島が見えるとアリアは指をさして言った。


「頂上からは夕日が綺麗に見えそうですね」


 傾き始めた太陽が海に向かって進んでいる。どうやら海に夕日が沈むらしい。少し小高くなっている、俺たちの領地からは綺麗に見えることだろう。

 朝日と夕日、見えるならどちらでも構わないが、夕日の方が楽しめるだろうな。


「結婚初夜ですから夕日よりも早く暗くならないか、いまから夜が待ち遠しです」


 セレスティアは本当に夕日には興味がないと言わんばかりに甘えた声で言うと、俺の腕を掴んだ。


 書類を交わしただけで実感はないけど、セレスティアともアリアとも夫婦になったんだよな。


「結婚の書類にサインをしたのは私の方ですから、当然私から先にしてもらいます」


 負けずにアリアまで腕を掴んだ。


 花街建設が進むまでの間、しばらくはテント暮らしだが、早くベッドを用意しないといけないな。3人が寝れる大きなやつを。


 ようやく島の入口となる海岸に着いた時だった。島の方からか細い悲鳴が聞こえた。間違いなくルナリアの叫び声だ。


 聞こえると同時に俺の体は動きだし、走り出していた。


 声までは遠くない。俺は走ってルナリアを探したが、先に目に入ったのは大きく太った男の背中だった。

 その体の下に、小さなルナリアの体が見える。明らかに押し倒され、押さえつけられている。


 それだけじゃない。体に巻いた白いシーツははだけ、未成熟な体のほとんどが露わになっていた。


「貴様! 何をしている」


「何をしてるだと!? うるせえよ! 見ればわかるだろ、犯すに決まってるだろ。ふんっ、お前みたいな細い体じゃ俺に敵うわけねえだろ。大人しく見てな!」


 男の鼻息は荒く目は血走り、俺の事など無視するかのように自ら服を脱ぎ、投げ捨てた。


「その手を離せ」


 丸腰相手に剣を抜くのは気が引けるが、聞き分けのない相手には実力行使が必要だ。


「ろくに振れもしない剣でカッコつけてるつもりかよ。ふんっ、どうせお前もこの女を使いたいんだろ。正直に言えば使わせてやるよ、俺が飽きたらな」


 下卑た笑みを浮かべる男に睨みつけた。


「俺の領地で勝手なことはさせない。その汚い手を離せ。これ以上、言葉で警告はしない。次は片腕を切り落とす」


「俺の領地!? なに言ってるんだよ、ここは勇者の……、へっ、てことは、お前、いやいや、あなたが勇者タカシ=サンでしたか! 申し訳ありません、どうか命だけはご容赦ください」


「……ここからでていけ」


「す、すみませんでした!」


 男は自分で脱いだ服も忘れ、慌てて走り去っていった。

 どうやら注文の品をあの男が運んできたらしい。荷を積んだままの荷車も残っている。


「あ、ありがとう。勇者、だったの?」


 シーツで体を隠すのも忘れてルナリアは興奮した目で俺を見ている。


「あいつが言っていた通り、俺は元勇者だ」


 話さなきゃいけない。ルナリアがボロをまとって、こんなところに隠れていた理由の一端は俺にあることを。


「覚えていないが、きっとルナリアが住んでいた集落も俺たちは襲ったんだろう。何度もしたことだから、いちいち覚えていない。ルナリアにとって唯一つの集落でも、俺にとっては無数にある魔族の集落の一つだったから」


「正直に言って、いまでも悪いことをしたとは思っていない。俺たちが生きるためにしたことだ。だからルナリアに感謝される資格はないよ」


「いや、ちょっと何言ってるかわからないです」


「だから、俺がルナリアの集落を襲って」


「うちが住んでたとこ襲ってきたのは勇者って呼ばれてたけど、女のひとだったし。おじさんじゃなくて」


「へっ?」


「そもそも、あたしたちサキュバスの集落を襲撃したことありません」


「男が一人いるだけで、サキュバス村の襲撃はパーティー壊滅の危険性が高いですからね。常識ですよ」


「それに、あたしたちが勇者と呼ばれるようになったのは、魔王討伐して王都に帰ってきてからです。ルナリアを襲ったのは、勇者を騙るただの冒険者でしょう」


「でも、おじさんたち魔族の集落を襲っていたんだ……」


「襲ったし、魔王を打倒した。どっちにしろ魔族であるルナリアから恨まれてもしょうがない」


「いや別に恨みとかないし。サキュバスはもともと魔族好きじゃないから。あ、だからって人間が好きってわけでもないんで」


「好きになってくれとは言わない。俺たちとルナリアは何もかも違うからな」


「ただ、俺はルナリアのことを、サキュバスのことを理解したいと思ってる。できれば、ルナリアにも俺たちのことを、ほんの少しでも理解してくれたら、理解しようとしてくれるだけで嬉しい」


「そう」


「うちは全然理解できそうもないけど。でも……」


「でもカッコよかったよ、…… お兄ちゃん」


 お兄さんな。お兄ちゃんなんてエッチ過ぎで18になるまで我慢できなくなりそうだろ。

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