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「潮風が心地いい、いい場所ですね」


 セレスティアは風に揺らされる髪を押さえていた。水面の眩しさに細めた目の奥からは期待を感じる。

 もちろん、それはアリアからも。恐らく俺も同じ目をしているだろう。


 実際に俺たちの領地を目の前にすると、興奮しないわけがなかった。これは、境界がわかりやすい地形が効いている。


 魔王討伐の報奨として拝領した俺たちの領地は、海岸から突き出た小高い土地で、陸続きではあるが島のようにもみえる。ちょうど江の島のようだ。


 海岸から突堤のように伸びたこの先が俺たちだけのものだと明確で、しかもその全景が視界に入る大きさが丁度いい。


 かつて港として使えないか検討されたこともあるらしいが、周りは遠浅の海岸で貨物船が座礁してしまい断念したと聞いている。


 遠浅だけじゃない。内陸へ向かい2時間ほど歩けば王都にたどり着く距離では、船による外国からの襲撃の可能性を無視できず、港として開発することは諦めたと聞いた。


「あそこに教会を建てましょう。教会があれば、この島は信徒が多く巡礼する実践派の聖地になります」


 セレスティアは島の頂上に向かって指をさした。


 俺たちはここを花街にしようとしているんだぞ。周りは娼館だらけ。教会の眼下は娼館しかないって、どんな聖地だよ。


 でも、この異世界で信仰される宗教が、あれだからな。TSして女の喜びを知った元男の教えだから、ちょうどいい立地なのかもしれん。


「言っておくけど、まずは花街を作り上げるのが先だからな」


 非主流派を信仰するセレスティアにとって教会が悲願なのは知っているが、悪いけど後回しだ。


「タカシもセレスティアも何を言っているんですか。山の頂上といえば乳首も同じですよ」


 同じじゃねえよ。


「頂上には私とタカシの愛の巣に決まっているではありませんか。花街の建設資金はどこから出ると思っているのですか?」


「どこからって、そりゃ国王から貰った報奨金からだろ」


 そもそも、俺にはそれしか金がないからな。


 拝領した土地は小さいし、住んでいる領民もいないから徴税もできない遊ばせていた土地だ。国王にとって俺たちに下賜したところで痛くも痒くもない。

 その分、報奨金を上乗せしてもらっている。


「何を言ってるのですか!? とても足りるわけがありません。借りなければ、娼館は2つか3つしか作れませんよ」


「そうか、そんな程度なのか」


 この世界の物価には未だに慣れていないから、報奨金があれば十分だと思いこんでいた。

 王都での売春を禁止して娼婦全員をここに移すのだから、娼館が2つや3つではとても足りない。せめて、10棟は建てたいよな。


「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。私を誰だと思っているのですか。ブライトン家から借りればいいだけです」


 セレスティアより小さい胸を気にするアリアには珍しく、胸を張って自信を示した。


 ブライトン公爵家とは、四貴族と呼ばれる公爵家の一つ、そしてアリアの実家だ。この国の四天王みたいな感じなんだろうから、まあ金はあるんだろうな。


「私との手切れ金だと思って、いくらでも貸してくれますよ」


 どうして名誉ある家系との手切れ金なのか引っかかったが、アリアと家の事情を聞くのもはばかられスルーしてしまった。


「建設資金を借りるならなおさら教会にすべきです。聖地となるよう、教会は頂上に建設すべきです」


 教会への思いを込めてか、セレスティアは語気を強めた。


「教会がどうして借金返済の役に立つというのですが。しかも実践派の教会が」


「この地が聖地であれば、男たちは巡礼だと言って花街に立ち寄れるではありませんか」


 なるほど、目立つ場所に教会を建てて知名度があがれば、花街に出かける言い訳になるってことか。


 王都の郊外からは片道2時間。中心地からは3時間ほど。遊んで帰るなら1日かかることを考えたら、その言い訳はちょうどいい。


 さて、スポンサーであるアリアの意見を尊重すべきか、それとも借金返済を考えて客が増えるであろうセレスティアが求める教会にすべきか。


「タカシはどうですか? まさか教会がいいとは思っていませんよね? 愛の巣ですよね?」


「将来を考えたら教会にするべきです」


「ちょっと待て。今すぐ建てるわけじゃない。とりあえず、頂上まで登ってみよう。この目で見て感じたら、頂上が一等地じゃない可能性だってあるだろ」


 こんな適当な言い訳だが2人は納得したらしく、とりあえず先延ばしをして俺達は領地の探検を始めた。


 放置されていた土地だ、踏み鳴らした道があるわけもないが、道なき道を進むのは魔王討伐の冒険で何度となく経験し、慣れたものだった。


「こんなところを歩くと魔族の集落を奇襲したときのことを思い出しますね」


 王国では勇者ともてはやされてはいるが、実際には奇襲夜襲は当たり前。魔王はおろか、正面から戦っては魔族相手ですら手強かった。


 勇者らしからぬ作戦と罵られるかもしれないが、誉ある戦いより命あっての物種だ。


「奇襲は楽しかったです。魔族の子供なんて蜘蛛の子を散らすように逃げ回って」


「そんな言い方するなよな。俺たちの方が悪いことしていたみたいだろ」


「蜘蛛の子を散らすように逃げてくれたから余計な命を奪わなくて済んだ、という例えじゃないですか」


 異世界じゃ言葉の意味も変わるんだろうけど、俺は楽しむために奇襲したわけじゃないぞ。


「さあ、もうすぐ頂上です」


「思っていたよりもずっと貧乳でしたね」


 だからおっぱいじゃねえよ。


 頂上までは30分程度だろうか。一度道を作ってしまえば20分もかからない程度の小さな山だ。


「見てください、あそこです。ほら、ちょうど乳首がありますよ」


 もちろん乳首ではないが、頂上には石を積み重ねた小さなやぐらが建っていた。

 人が住んでいたことはないと聞いていたから、人工物があるとは思わず、あまりにも意外だった。


「どうやら、ここを日和山として使ってたみたいだな」


「ひよりやま? というのはなんですか」


「海の様子を遠くまで確認する小高い場所のことだよ。櫓を建てて、そこに登ったらよく見えるだろ」


「タカシは変なことはよく知っていますね」


 櫓を登るための螺旋階段に絡むツタをナイフで切りながら登ると、視界は一段と高くなり目の前はほぼ海だけになる。

 水平線が丸みを帯びるほど、凪いだ静かな海が広がっている。


「見てください! ここ蓋になっていますよ。もしかしたら、この下にお宝が眠っているのかもしれません」


 海に興味がないのか、アリアはしゃがんで足元を指さしていた。


「あの大きな魔王城を3日もかけて探しまわってもお宝なんてなかったのに、こんなところにあるわけがないでしょ」


 まるで泥棒じゃないか。本当に俺たちは勇者だったんだよな。


 アリアが見つけた蓋は木製のようだが、表面に石を模した加工が施してある。そこには隠す意図がうかがえる。

 こんなところに何を隠そうとしたのかと考えれば、お宝の可能性は確かにある。


「じゃあ開けますよ」


 アリアは指をかけて丸い木製の蓋を引き上げた。ちょうど真上に登った太陽の光が奥まで差し込む。


「ひぃぃ、ごめんなさい」


 隠されていた、いや隠れていたのは髪の短い少女だった。


「こ、殺さないで」


 しかも随分怯えている。服の代わりだろう、汚れた麻袋で体を覆い、顔も体も汚れが目立つ少女がまともな生活を送れていないことはひと目でわかる。


 でも、どうしてこんなところに隠れて暮らしているんだ。


「殺すわけがないだろ。そんなところに入ってないで、でてこいよ。腹減ってるなら食べ物だってあるぞ」


 怯える少女を俺が殺すわけがない。第一、少女じゃなく美少女だ。もったいない。


 この世界では珍しい赤みの強い髪、まだ少女なのに男の庇護欲を誘うような大きな涙袋、体つきは貧相だが隠れて暮らす生活がそうさせたのだろう。


 暮らしが変われば化けることは容易に想像できる。


 だから、もう大丈夫。俺がいる。

 おっぱいがいっぱい成長するよう、俺が食べさせてあげよう。


「タカシ、ちょっと待ってください」


「どうして優しくしようとしているのですか?」


「どうしてって、まだ小さい女の子が怯えているんだぞ」


 セレスティアは俺の反応が気に入らないのだろう。わざとらしく「ハァぁ」とため息をついてから言った。


「もしかして、既に魅了されいますか?」


「魅了? 何言ってるんだよ」


「こいつは魔族ですよ」


「しかも、悪名高いサキュバスです」


 サキュバス!?


「そんなわけないだろ。魔族が住んでたのは、ここから歩けば半年はかかるんだぞ」


 魔族の住処は王都から離れていたからこそ、直接の被害を免れたっていうのに。こんなに近くに魔族が住んでいるわけがない。


「さてはお前ら、嫉妬してるんだな。突然美少女が現れたから嫉妬してるんだろ。正直に言えよ」


「やっぱり魅了されているようですね」


「ここにいる理由はわかりませんが、そのボロキレを剥ぎ取ればサキュバスだとすぐにわかりますよ」


「ご、ごめんなさい。殺さないで」


 アリアは怯える少女の懇願も無視して手を伸ばし、汚れた布をつかんだ。それは縫製された服ではなくただの布だ。簡単に少女の肌の全てが露わになった。


 裸になるとそれは一目瞭然だった。白い背中には黒い羽と魔族の象徴ともいえる細い尻尾が確かに生えていた。


「どうです、サキュバスですよ」


「すぐ殺しましょう」


 セレスティアの冷徹な目がただの嫉妬でないことは、ようやく俺にも理解できた。

 人型の魔族を殺すことは誰だってためらいがあるが、それでも殺そうと言う理由は十分過ぎるほどある。


「ちょっと待てよ。まだ子供だろ。それにサキュバスなんて特に悪いことするわけじゃないんだろ」


「何を言っているんですか、タカシ。サキュバスは男を淫らにする夢魔ですよ」


「でも、アイサ教ってそういうの好きだろ。エロいことがさ」


「アイサ教はエロかったら何でもいい、そんな淫らな宗教ではありません!」


 アイサ教実践派はベッドさえあればいいって言ってたじゃねえか。


「サキュバスは夢に現れて搾精し、男を堕落させるのです」


「そのくらい可愛いものだろ」


「何を言っているのですか? もしタカシがサキュバスに搾精されたら私たちはどうなるのですか? ドピュドピュ♡してくれますか?」


「するに決まってるだろ!」


 俺は即答した。

 即答したのはサキュバスを守りたい気持ちだけじゃない。


 異世界に来てようやく童貞を卒業した俺が女をドピュドピュ♡できる女を手放すわけがないからな。一択だ。そこに迷う余地など1ミリもない。


「そ、それはタカシが絶倫だから。普通の男はそうじゃないんです。普通の男は」


「そうですよ。普通の男が与えられる喜びは限られます」


 なるほど、そういうことか。サキュバスに搾られたら女が相手してもらえなくなるってことか。確かに男のドピュドピュ♡は有限だ。

 いくら淫蕩なアイサ教でもサキュバスを嫌う理由はあるってことか。


 でも俺は諦められない。これから作る俺のハーレムにサキュバスを入れることを。


「タカシはよくても、世の男はサキュバスに堕落させられてしまうのですよ」


「いまのうちに殺しましょう」


「ちょっと待て。花街で働かせよう。花街ならサキュバスの特性を活かせるだろ。俺たちにとって大きな戦力だ。夢の中で搾精すれば客も増やせる」


「あの、私まだ15なのでエッチぃのはちょっと」


 なんでだよ!


「サキュバスなんだろ、殺されそうなんだぞ。花街で働くって言っとけば助かるんだぞ」


「助けるなんて言っていませんが」


「殺しましょう」


「搾精、できるよな? あと1年もすればここには娼館が建ち並んで大勢の男であふれる。そうしたら搾精、してくれるよな」


「いや、搾精とか無理だし」


「なんでだよ! 来年は16だろ、いいじゃんか」


「……エッチぃことしていいのは18からだって、お母さんと約束したから」


「サキュバスのくせにぃ!?」


「タカシは少し冷静になってください。16の小娘より、脂の乗ってきた20前後の方が娼館では人気があります。そう、ちょうど私のような」


 腕を使って胸を寄せたって、セレスティアは花街で働く気なんてないだろ。


 だいたい男の好みは一様じゃないんだよ。熟女好きも若いのが好きなのもいるんだよ。異世界なんだから倫理観は多少無視させろよ。


「そうですよ。貧乳ですし胸が成長する前に殺しておきましょう」


「ダメだ、俺は認めない」


 せっかく見つけたお宝サキュバス。みすみす逃す手はない。


「俺は国王と約束したんだ。王国の女を幸せにするってな。こいつはサキュバスでも女だろ。俺はこいつも幸せにする。いいな」


「エッチなことはできないって言ってますよ、サキュバスのくせに。それでもいいのですか?」


「もちろんだ」


 18になるまで待てばいい。

 異世界まで来て2年かけて魔王を倒したんだ。それと比べたら3年くらい待つなんて大したことじゃない。


「ふぅ、しょうがありません」


「タカシは女のことになると、本当に聞き分けがありませんね」


「王国の女はここにもいます。当然、あたしのことも幸せにしてくれるのでしょうね」


「当たり前のことを聞くなよ」


 俺はそんなことを国王に言ったのか、それとも言っていないのか。誰も覚えちゃいない。

 それでも2人は納得してくれたのか、単に人型の魔族を殺すことを躊躇ったのか、ただ単に諦めたのか、無事にサキュバスを使役できることになった。


 もちろん3年後にはハーレム要員にするけどな。

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