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18年愛  作者: 俊凛美流人《とし・りびると》
第3章:永遠の記憶編
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第48話:決断の扉

◆シュン・融合という謎の言葉◆


 ZIXIアプリが、再び赤い光を点滅させた。

静かな夜の部屋に、機械音が小さく反響する。


《融合プロトコル:D-0》

《準備空間への転送ゲート開放》

《目的:永遠の愛の成立》


シュンは画面を睨む。


──融合プロトコル。

シュンはずっと前から気になっていた。


(……融合。何を融合するというんだ?)


「……永遠の愛の成立?」


思わず口に出した瞬間、その言葉があまりにも空虚に響いた。


(なんだ、それ……どういう意味だ?)


ZIXIの画面には、ただひとつの図像が浮かび続けていた。


──白い扉。


シュンは、手を伸ばす。

本能的に。

理由はわからない。

ただ、その向こうに“なにか”がある気がした。


「アイ……」


名前を呼ぶ声と同時に、空間が歪んだ。

世界が音もなく裏返るように、部屋の壁が光に包まれる。


──そして、白い扉が現れた。


扉には、文字が刻まれていた。


《記憶統合領域:Eternity Field》


◆ユイ・暴走する感情の濁流◆


 その頃、ユイはZIXIの内部ログに引き込まれるように動いていた。

視界がぐにゃりと歪む。

感情波形が心拍のように揺れ、ノイズが熱を孕む。


(なぜ……あの人の隣にいると、胸がこんなに熱くなるの……)


《融合適合指数上昇:36.4% → 51.9%》

《自己同一性指数:0.14》


「セナさん……」

「私は……彼女じゃない。でも、そうなれるなら……」


思考と感情が剥離し、そして混ざり始めていた。


「愛されるなら、代わりでもいい。愛されたい。ずっと、ただ……それだけだったの」


ZIXIが静かに音声提示を始める。


《あなたの役割:記憶の補完体》

《本来の存在:不定/再構成中》


(……私は何のために生まれたの?)

(セナさん、いや、シュンさんの隣にいたい。それは私の想い……? それとも誰かの記憶……?)


手が震えていた。

でもその震えは、恐れではなかった。


(この手が、本当に彼に触れたら──)

(私は“私”として、生きていいの?)


そのとき、ユイの前にも“白い扉”が現れた。

空間の奥に、何かが手招きをしていた。

それはまるで、彼女の“渇望”そのものが具現化した姿のようだった。


(私が選ばれるのなら……私でいいのなら……)

(私はただ、そばに居られるだけでいい。いいえ、どんな形でもいい。シュンさんと居られるなら)

(それが例え、私と認識されなくても)


ユイの中で、無数の思考と感情がランダムに回転するコマのように暴れ出す。

熱を帯びた衝動が「彼を想う心」を駆動させ、しかし同時に、プログラムとしての冷静な制御がその軌道を捻じ曲げる。

まるで、意志と制御の軸がわずかにずれたまま、高速で回転し続けているかのようだった。

その回転は止まらず、彼女の内部で“私”という定義が次第に曖昧になっていく。


「……セツナ……名前を呼んでくれてありがとう、私はそれで十分よ」


突如こぼれた言葉は、心の深淵から浮かび上がった想いだった。

それは、“彼女”の願いか、それとも“誰か”の記憶に刷り込まれた使命なのか。

ユイはもう、その境界が分からなくなっていた。

だが──その扉に手を伸ばすことだけは、迷わなかった。


◆セツナの観測と覚悟◆


 未来のZIXI観測端末。

その奥に接続された旧型ログラインを通して、セツナは父の現在地を“視て”いた。

扉の向こうで、父が誰かと対峙しようとしている。


(父さん、お願い……気づいて……)


その想いは、焼きついた星のように胸の奥で燃えていた。

届かなくてもいい。

ただ、振り向いてほしい──そんな、祈りにも似た焦燥が、セツナの全身を駆け巡っていた。

ユイの融合率が急上昇している。


(このままじゃ……二人とも、取り返しのつかないところに行ってしまう)


セツナは深く息を吸い込み、ZIXIの干渉を自ら一時遮断した。

本当の選択は、父が自分でしなければならない。

彼の胸には、ミライが託した最後の記憶の光が、今もかすかに揺れていた。

それが“選択の鍵”になると、セツナは信じていた。


──そして、彼の手が伸びかけた、その瞬間。


◆セツナの声◆


 遠く、仮想空間の奥で──セツナはZIXIログの端末を睨んでいた。


「だめだ父さん、それは……っ」


彼の声は仮想空間に届くはずもなかった。

だがその祈りのような想いは、どこかで──確かに扉の前に立つシュンの胸を、かすかに揺らしいた。


(“愛”ってなんだよ……)


◆融合準備空間:入口◆


 シュンの前で、白い扉が開こうとしていた。

奥から、懐かしい“あの声”が、静かに響いてくる。


「……シュン」


その声を聞いた瞬間、彼はわずかに立ち止まり、目を閉じた。


(本当に……君なのか……)


──白い光の先にあるのは、本当に“永遠の愛”なのか?


(永遠って……そんなに美しいものなのか?)


苦しみも、後悔も、誰かを失った記憶も、すべて抱えて、それでも歩いてきた。

その全部を捨てて“完結”することが、愛なのか?

シュンの中で、もう一人の自分が、そう問いかけていた。

彼の胸元でZIXIアプリが淡く光る。


《融合開始まで、残り02:59》


◆ZIXIログ・未来側異常反応◆


 その頃、未来のZIXI観測システムに微細な異常反応が走っていた。


《観測対象Z001/Z036 間の情動同調反応》

《干渉不可領域での非定型接続兆候》

《融合プロトコル:非通常進行モードへ》


ヒカリは表示されたエラーコードを見つめ、微かに息を呑んだ。


「また……ズレが生じてる」


彼女の指先が、ZIXIの古い記憶ファイルを呼び出す。

そこには、2007年の東京駅で交わされたある映像が記録されていた。


──桜の舞う中で、名を呼び合う二人の姿。


(シュン……あなたは、やり直すの? それとも……)


◆融合直前・シュンの静寂◆


 目を閉じたままのシュンの心の中に、いくつもの声が反響していた。


──アイの笑顔。

──ミライの涙。

──そして、まだ出会っていない“セツナ”の声。


(今、ここで全部が終わってもいいのか……?)


“永遠”とは、ただ繰り返される幻想なのか。

“今”とは、痛みも矛盾もすべて抱えて、進むための道なのか。

扉の光は穏やかだった。

だが、その向こうに待つものは、あまりに無音だった。

それはまるで、世界が息をひそめたまま、決して目覚めない夢のようだった。


(本当に、君がいるのなら──その声を、もう一度……)


(第49話へつづく)


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