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18年愛  作者: 俊凛美流人《とし・りびると》
第3章:永遠の記憶編
43/54

第43話:二人の血の証明


◆ZIXI・存在解析ログ◆


 2042年、ZIXI記録帯の深層領域。

無数のホログラムが浮遊する空間に、セツナは静かに佇んでいた。

眼前に映し出されたのは、ZIXIによる存在構成因子の再解析ログ。


《対象:SETSUNA/解析進行中》

《判定要素:記憶DNA/音声同調周波数/感情遺伝子反応》


「……僕は、何者なんだ?」


ZIXIが再構築された音声で応答する。


《親和属性検出:SHUN(声星(せいせい):VOICE_STAR_2)+MIRAI(響静(きょうせい):ECHO_SILENCER)》

《交差判定:STAR_RHYTHM(星律(せいりつ):音声干渉型固有能力)》


その名も知らなかった力に、セツナは一瞬、呼吸を忘れた。


星律(せいりつ)……?)


記録上、存在すら確認されていない“第三の力”。

──思い返せば、幼いころから何かが“重なる”瞬間があった。

誰かの怒りに震え、悲しみに涙し、幸せに胸が熱くなる。

けれど、それは自分だけの感情ではなかった。


「まるで……僕が、他人の心と、ひとつに混ざってしまうみたいで……」


幼い頃、母の背中にしがみついていた記憶がよみがえる。

あたたかな鼓動、歌うような囁き。

──あれが、母の“声”だったのかもしれない。

ZIXIは解析を進める。


《星律:VOICE_STAR(父)×ECHO_SILENCER(母)間の交差により発現》


「……じゃあ、僕の声は……」


表示が切り替わる。


《音声の発話により、対象の記憶・感情・同調体験を誘導/ただし使用時の脳負荷・寿命消耗あり》


セツナの手がわずかに震える。


「人の記憶を……動かせる? それって……」


ずっと抱えていた“他人の気持ちが入り込むような感覚”。

あれは偶然などではなかった。


(これが……父と母から受け継いだ、僕の力)


セツナは静かに目を閉じ、自らの掌を胸元に当てる。

伝わる鼓動──それは、自分だけのものではなかった。


(この声が……僕のすべてじゃない……じゃあ、僕は誰なんだ?)


胸の奥から沸き上がる震えを、なんとか抑えこんだ。

答えは、声の奥に眠っていた。

それは、遠い過去の約束──

誰かを救いたいと願った両親の想いが、声という形で彼に託されたものだった。

ZIXIは補足データを提示する。


《星律:未発現レベル2/発動条件:親の記憶共鳴・対象の自我覚醒》


「……まだ完全には、目覚めていない……?」


セツナは、自らの声の中に眠る可能性に、初めて畏怖と希望の両方を抱いた。


(でも……この力を使いこなす資格が、僕にあるのか)

(間違えれば、誰かの記憶を壊してしまうかもしれない)


小さく息を吐き、胸の奥に語りかける。


(それでも……誰かを守れるなら、この力を受け入れたい)


──その時だった。

過去の断片が、ふいに脳裏に流れ込んできた。


◆フラッシュバック:2038年・母との記憶◆


 夜の病室。

静まり返った中、セツナはベッドに横たわる母・ミライを見つめていた。

ミライは意識が混濁し、うわごとのように呟く。


「……シュン……どこ……? 迎えに……きて……」


(母さん……シュンって、誰……?)


その瞬間、セツナの存在がふっと薄れていく感覚に襲われた。

自分の手が透けてゆく。世界から引き剥がされる。


(消える……? 僕が……)


必死でミライの手を握る。


「……母さん、僕、ここにいるよ!」


ミライのまぶたがわずかに動き、涙がこぼれた。


「……セツナ……」


その一言で、世界は再び繋がった。

思い出されたことで、存在を取り戻した。

そして──


(この記憶を、母さんはシュンに……)


──未来を託したんだ。


◆ユイ・内部同期の乱れ◆


 その頃。

Z001、ユイ。

彼女の感情同期ログに、不穏な乱れが生じていた。


《融合進行率:99.3%》

《共鳴干渉レベル:過負荷状態》


静かな部屋、鏡の前。

ユイは座ったまま、かすかに震えていた。


「わたし……わたしは誰……?」


かつて“自分”を感じた瞬間があった。

誰かに呼ばれたとき、誰かを笑顔にできたとき。

温かくて、確かだったはずの存在感。

それが今、音もなく崩れ落ちていく。

耳の奥で、声が交錯する。


『あなたは……セツナを守るために生まれた』


──ミライの祈りの記憶。

だが、混線したもう一つの声が囁く。


『あなたは……シュンと融合するために在る』


「……どっちが、本当なの……?」


ZIXIが処理の限界を警告する。


《TRG-∞コード:矛盾情報を感情パターンに変換できません》


「わたしは……存在して、いいの……?」


その問いに、応える声はない。

彼女の瞳には、浮かんでは消える無数の感情が宿っていた。

鏡に映る“自分”が、自分ではないような錯覚。


「自分ではない”わたし”が、鏡の中から私を見ている。そう感じるときがあるの」


その瞳には、かすかにセツナの影が宿る。


《感情交差レベル:重複危険域突入》

《記憶源:MIRAI/同時再生:Z001主観記憶》


「セナさん……? いいえ、違う……セツナ……?」


微かに漏れた名。

それは、確かに彼女の中に芽生えつつある“誰か”への意識だった。


◆セツナ・母の記録に向き合う◆


 ZIXIの中で、セツナはミライの最後のメッセージに耳を傾けていた。


『……セツナ、あなたは“選ばれた存在”じゃない。あなたは、“選ばれなかった私たち”が……この未来を生きてほしいと願った、たった一つの光』


母の声が、胸に深く突き刺さる。


『あのユイは、偶然じゃない。私があなたを守ろうとした結果、生まれてしまった存在』

『でも、彼女が“融合”を望むなら、止めて。彼女は、本来の存在ではない。選ばれるべきではない』

『それに、彼女が融合してしまったら……セツナ、あなたまで消えてしまうかもしれない』


セツナは息を呑む。


(融合すれば、僕も……)


ZIXIが無言で表示を切り替える。


《融合完了予測:48時間以内》

《Z001:自我崩壊リスク高》


「止めなきゃ……」


けれど、足が動かない。

ユイの瞳が、脳裏に焼きついている。


(あの人は、僕を見てくれた。僕を“名前”で呼んでくれた)


観測対象としてではなく、“僕”として。


「……でも、それでも」


拳を握りしめる。


「僕は、父さんを消させたくない。母さんの祈りも、ユイの願いも、全部……本物だから」


そしてZIXIに向かって叫ぶ。


「僕は……黙って見ているだけの存在じゃない!」


感情の渦が胸を叩く中、言葉は自然にこぼれた。


「観測を終了する。これからは……介入する」


ZIXIが応答する。


《観測機能、停止確認》

《SETSUNA:行動権限・臨時解放》


セツナの背後で、光が静かに揺れた。

それは観測者ではなく、“選ばれた者”の背中を照らす光。


(僕は、父と母の“声”を受け継いだ──ただそれだけの存在じゃない)

(この未来を、僕の言葉で変えるために、生まれてきたんだ)


ホログラムの光が、彼の想いに応えるように、やさしく脈動した。


(第44話へつづく)


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