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18年愛  作者: 俊凛美流人《とし・りびると》
第3章:永遠の記憶編
42/54

第42話:記憶は、未来を遡る


◆ZIXI・記憶干渉領域◆


 2042年、ZIXI中央記録区画。

観測者としての任務を終えたはずのセツナが、再び記録保管室に姿を現していた。

彼の目の前で浮かび上がるのは、2045年に向けた「未来処理計画」に関する膨大なログ。


《プロトコル:SINGULARITY_RM/次元記憶統合計画》

《予定発動時期:2045年4月以降》


(シンギュラリティ……2045年、人類の記憶が再定義される)


ZIXIは、その時に“不要な記憶”を全世界から除去するという。


──表示された時刻は、「03:17」。


どこかで見たような数字。けれど、思い出せない。


(……なぜだろう。胸の奥がざわつく。まるで、夢の中で誰かが囁いていたような)


その違和感をよそに、ZIXIは無機質な表示を続ける。


《削除対象:記憶された存在》


個人の記憶だけではない。

人々の記憶の中に“いた”という記録さえも、消される。


(つまり……記憶を失えば、存在も失われる)


ZIXIが表示を切り替える。


《対象:SHUN/削除候補:記録抹消予定/理由:認識共有率ゼロ》

《最終アクセス履歴:2026年7月/以降記録断絶》


セツナの喉が、ごくりと鳴った。


(シュンが“抹消”される……それは、単なる死じゃない。“存在”そのものがなかったことにされる)


ZIXIは機械的に追加表示を行う。


《記憶データ継承:存在維持条件/肉体維持下に限る》


(……生きてさえいれば。肉体が存在していれば、たとえ記憶が消されても、存在は残る)


セツナの視線が強くなる。


「……なら、止める方法はある」


ただ記録するだけの観測者じゃない。

今度こそ、自分の意志で運命に手を伸ばす──

自分の存在の“根”を守るためではない。

シュンを、あの記憶を、あの未来を、ひとつでも残すために。


◆2033〜2038年・フラッシュバック記録◆


 画面に、セツナが幼少期を過ごした頃の映像が、断片的に再生される。


──病室。

ベッドに横たわる母・ミライが、微笑んでいる。


「ねぇ、セツナ……お父さんのこと、時々思い出すの。あなたはどう?」

「……何で? 会ったこともないのに?」

「そう。でも、心の中にいる気がして。きっと、あなたにも……」


ミライの言葉は途中で途切れたが、セツナの脳裏に残っていた。

次に映ったのは、2035年の記録。

セツナが小さなノートに“声”について綴っている。


「母の声は静かで、でも、耳の奥まで届く。僕の声は、それに届かない。だけど、心だけは……」


2038年、ミライが一時的に危篤状態に陥り、意識が混濁。

セツナの存在が一瞬、世界から“消えかける”。


──その瞬間、ZIXIの観測ログからも“セツナ”の名が消えた。


セツナが自分でも覚えていない“空白”の数日。

誰からも呼ばれず、触れられず、そこに“いない”のに、苦しさだけが残っていた空白の記憶──

ミライが意識を取り戻した瞬間、セツナの存在が再び認識され、ZIXIの記録にも彼の名前が戻ってきた。


《空白時間:2038年5月21日〜5月24日/存在ログ消失》

《原因:記憶リンク不全による一時抹消》


(……あの時、僕は本当に存在が消えかけていた)


セツナはその経験すら、自分にとって“誰かが与えた記憶”だと感じていた。


(それも母さんの想いの一部……だから今、僕がここにいる)


ミライはこの危機を経て、自らの命が尽きる前に決断する。

2038年、人々の記憶から存在が消えた瞬間、本来存在しない筈の個体は、この世から消滅するコマンドがZIXI内で試験的にプログラミングされた。

一時的なセツナの消失は、そのコマンドが正しく作用することを証明した。

2045年に実行される「未来処理計画」のテストケースとしてZIXIに認識された。

2042年、ZIXIの深層アクセス権を取得したミライは、シュンの存在が「記憶の死」によって完全に消滅してしまう未来を予測する。


《記録操作権限:MIRAI/特例コード:TRG-∞_EMBED》


シュンが存在しなければ、セツナもいずれ完全に消えてしまう。

だからこそ、彼女は2033〜2038年の“存在の記憶”を、シュンの深層心理にトリガーとして埋め込む決断をしたのだ。


──それは、2045年に起きる“存在抹消”に対する、彼女なりの防衛線だった。


「……誰かに選ばれるんじゃない。選びたかったの、私自身が」


その記憶はZIXIによって補完され、現在にまで残っていた。


◆2042年・ZIXI内部記録室◆


 ZIXIの奥深く、接続制限領域。

セツナは、ミライが残した記録にアクセスしていた。

そこには、未来を変えようとした彼女の決意が刻まれていた。


『……これが届く頃には、私はもう消えているかもしれない……でも、届いているなら、きっと救いはあるわ。セツナ、よく聴いてね』


彼女の声が空間に響く。


『私の選択が正しかったかは、わからない。だけど、あなたが存在している今、それだけで……きっと意味がある』

『あなたに、選んでほしい。自分の未来を』


セツナは目を閉じて、その言葉を胸に刻んだ。


「ありがとう、母さん」


ZIXIの画面が、静かに点滅を始める。


《記憶干渉プラン:緊急実行権限、要請中》


◆ZIXI緊急干渉・構築ログ◆


 ZIXIは、セツナの命令を受けてデータ同期を開始する。


《対象:Z001(YUI)/感情同期進行率:99.8%》

《融合完了まで残り実時間:72時間未満》


「間に合う……まだ、間に合うはずだ」


セツナはZIXIに向かって命じた。


「未来を書き換える。彼が“生きて”さえいれば、全てはまだ変えられる」


そして、ZIXIが静かに応えた。


《観測デバイス:時空遡行システム/再起動準備完了》


(シュンを救う。それが、俺の存在理由だ)


◆ZIXIログ・補足記録◆


《観測者:SETSUNA/記憶継承率:100%》

《シュン記憶防衛トリガー:TRG-∞ 継続活性中》

《対象:SHUN/存在維持:肉体確認中》


──


『記憶は、消されても構わない。だけど、“想い”は消えない』


そう記録された音声と共に、ログは閉じられた。


◆ヒカリ・交信の兆し◆


 その時、ZIXIが静かに、新たなウィンドウを開く。


《未接続ログ群へのアクセスが試行されました》

《記録名義:HIKARI/アクセス権限:G-5》


「……ヒカリ?」


セツナは眉をひそめる。


(ZIXIのログにはなかったはずの名。そして……あの“03:17”と同じくらい、胸の奥がざわめく)


《次段階アクセスには追加認証が必要です》


ZIXIが静かに、だが確実にデータの奥へと誘導していく。


(この名……どこかで見た気がする。けれど、記録に心当たりがない)


ホログラムに浮かび上がる新たなデータ群。


《星律関連記録ファイル/記録者:HIKARI》


──星律?


セツナの中に、新たな疑念と予感が生まれる。

自分の中の“力”が、どこから来たのか──

彼の指先が、新しい記録にそっと触れる。


(第43話へつづく)

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