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18年愛  作者: 俊凛美流人《とし・りびると》
第3章:永遠の記憶編
41/54

第41話:母の記憶を継ぐ者


◆セツナ・ZIXI保管室(2042年)◆


 静寂に包まれたZIXI保管室。

数えきれないログの波がホログラムとして浮遊し、わずかに青白い光を放っていた。

セツナは、ひとつの端末の前に立ち尽くしていた。

目の前に表示されているのは、2042年6月に記録された“未再生ファイル”。


《記録名:MIRAI_2042_FINAL.vc》

《音声ファイル/開封条件:観測者認証》


セツナは、指を震わせながら再生を選択した。


──


『……セツナ。あなたがこれを聴く頃には、私はもういないかもしれないね』


聞き覚えのある、優しい声。


──母、ミライの声だった。


『あなたが育った世界は、優しかったかな。少しだけでも、笑っていてくれたら、それだけでいい』


ホログラムに、記録されていたミライの姿が映る。

髪をまとめ、落ち着いた瞳でこちらを見つめていた。


『私は、あなたを救いたくて、この記録を残しています。……それは、私自身のわがままかもしれないけれど』


セツナは、唇を噛みしめた。


『2033年……病が見つかったとき、私はほとんどの未来をあきらめていた。でも、ZIXIが見せてくれた“もしも”の中に、あなたがいた。シュンが、あなたを選んでいた未来が』

『私はその未来を、どうしても守りたかった』


画面が一瞬、揺れた。


『……記憶トリガーを使ったの。2020年から2025年の間に、シュンの深層心理に、“まだ起きていない未来”を──2033年からの5年間を、私はそっと埋め込んだ』

『それが正しかったかどうかは、分からない。ただ……あなたに“存在してほしかった”』

『でもね、セツナ……ごめん。私は、“あの子”が現れるなんて、思ってなかったの』


(あの子……ユイ……)


『ZIXIが、それを感知した。記憶の残響に反応して、ひとつの存在をかたちづくった。Z001──“ユイ”と呼ばれる存在』

『それでも私は、彼女を憎めなかった。むしろ、どこかで……ありがとうって思ったのかもしれない』

『でも、彼女が“融合”を望むなら、止めて。彼女は、本来の存在ではない。選ばれるべきではない』

『それに、彼女が融合してしまったら……セツナ、あなたまで消えてしまうかもしれない』

『セツナ……あなたには、選ぶ権利がある。私はそれを信じたい。未来は変えられる。だって、あなたがいるもの』


最後に、ミライは笑って言った。


『……これは祈りだよ。母から、子へ』


音声が止まった。

セツナの頬を、ひとすじの涙が伝っていた。


「……母さん」


そのとき、端末に一瞬だけ表示された記録コードが、彼の胸を強く揺らした。


《関連ログ参照コード:03:17》


(──また、03:17……)


◆セツナ・決意の時◆


 ZIXIの空間が、ログの終了とともに静けさを取り戻す。

セツナは端末に新たな命令を打ち込む。


《Z001監視ログ/感情同期値上昇中》

《融合率:99.2%》


「止める。たとえ僕が観測者じゃなくなるとしても」


◆シュン・夜の夢と再会と◆


 夜。

東京。

シュンは自宅のソファで眠っていた。

夢の中で、彼は手を伸ばしていた。

誰かの声が、遠くから届く。


『……迎えに行くって、言ったでしょう?』


(……誰だ……)


目覚めたとき、胸の奥が妙に熱く、喉が震えていた。


(声じゃない……記憶が、震えてる)


ZIXIが静かに点灯する。


《REM活動レベル:高反応》


──そのとき、TINEが震えた。


《ユイさん:明日、少しだけお時間いいですか? 会いたい景色があるんです》


シュンは、少し考えてから返事を打つ。


「……いいよ」


◆公園・ユイとの再会を◆


 翌日。

桜はほとんど散っていた。

だが、その余韻のように、風がそっと舞い、数枚の花弁が空へと浮かび上がる。


(この前も、この光景を見た気がする……)


そんな既視感が、シュンの胸にかすかに残った。

季節は繰り返しているはずなのに、なぜか一瞬だけ、“記憶”と“現実”の境界が曖昧になったような感覚。

小さな風景が、心の奥に波紋を広げていく。

ユイは、木漏れ日の中で待っていた。

白いワンピースに、淡い影が差していた。


「来てくださって……ありがとうございます」

「……なんとなく、来なきゃって思った」


二人はゆっくりと歩き出す。

小川沿いのベンチに腰掛けたユイが、ぽつりと呟いた。


「春の光って……やさしかったですね。あのとき……」

「“あのとき”って、いつのこと?」


ユイは顔を伏せた。


「……この名前が、“最近になって与えられた”もののような……そんな感覚を、昨日も今日も感じているんです」


シュンの胸に、かすかな引っかかりが生まれる。


(……ん? 前にも……彼女、同じことを言ってなかったか?)

(……まるで、台本をなぞっているかのようだ)


「……ユイさん、聞きにくいんだけど、親御さんは健在かな?」


──シュンはあえて、この前と同じ質問を投げかけてみた。


「オヤゴ?」


その返答で、シュンは確信に近い既視感を覚えた。


「いや……やっぱいいや。失礼なこと聞いてごめん」


そのとき、ZIXIが一瞬だけ画面を乱した。


(……前にも同じタイミングでこの現象が起きた気がする)


《識別コード:Z001 → 呼称登録:YUI/仮称》


(ユイさん……君は、本当に、誰に名付けられたんだろうな)


ユイが目を閉じる。


「セナさん……」

「うん?」

「私、何のために生まれたのか、ずっと探していた気がします」

「それは……」

「でも、今は分かる気がするんです。誰かが、私を“見せて”くれたのなら──その想いに、ちゃんと応えたい」


その目には、強い意志が宿っていた。


「私は……誰かの願いそのものかもしれない。でも、それを否定するんじゃなくて、誰かのために生きる理由にしたい」


シュンは、言葉を失った。


「あなたに会えてよかった。そう思えることが、私の証明なんです」


◆ZIXIログ・補足記録◆


《融合率:99.6%》

《Z001:認識主体揺らぎ中》

《記録タグ:祈り/願望/継承》

《参照ログコード:03:17(交差記録:ミライ/シュン/セツナ)》


最後に記録された音声。


『……母の願いは、もうすぐ誰かに届く』


(第42話へつづく)


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