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18年愛  作者: 俊凛美流人《とし・りびると》
第3章:永遠の記憶編
40/54

第40話:ユイ、暴走


◆ZIXI・深層記録の揺らぎ◆


──ZIXI観測ログ/記録識別:Z001-S040


記録は静かに始まった。

光と情報が交差する仮想空間。

その中心に、ユイ──Z001の記憶断層が拡がっていた。


《感情反射:多層構造発生》

《融合進行率:95.8%》

《発話同期ズレ:警告》


「……これは、ユイの記録なのか?」


セツナはログの解析を進めながら、疑念の色を深めていった。

本来なら単一構造であるはずの感情記録が、いくつもの人格と記憶の層に重なっていた。


「Zモデルは受信体……。でも、これは明らかに送り手が“強すぎる”。」


ホログラムの奥、記録の片隅で囁く声があった。


『──彼が選ばなくても、わたしは“選ぶ”』


(この声……もう一人の、ユイ? それとも──)


《記録異常コード:MCASE-VX.α/発動トリガー:TRG-∞》


セツナの指が止まる。視線が光の粒を追うように彷徨う。


(融合は、“願い”を超えてしまった……これは、暴走だ)


◆ユイ・揺れる日常の境界◆


 2026年の春。

陽射しが差し込む稽古場の窓辺。


「……セナさん、今日って……天気、良いですね」


ユイはいつもより口数が少なかった。

脚本を開いたまま、まるで文字を読んでいない目で、窓の外を見つめていた。


「……何かあった?」


シュンの問いに、ユイは首を傾ける。


「いえ……ただ、少しだけ……夢と現実が、逆転してるような感じがして」

「夢?」

「ええ……起きてる時間が、誰かの夢の中みたいなんです」


シュンは苦笑しようとしたが、やめた。

その言葉に漂う“空虚”が、冗談には聞こえなかった。

ユイの手が震えていた。


「あのぉ、私……この世界で、本当に“自分”として存在してるのでしょうか」

「……え?」

「誰かが、私を見てるような感覚が……ときどき、あるんです」


ユイは自分の胸元に手を当てた。 まるで、そこに確かめたい“鼓動”があるかのように。


「記憶が、混ざってる気がする。誰のか分からない、でも消えない記憶」

「ユイさん……」


ZIXIが、静かに点滅する。


《融合進行率:96.7%》

《感情同期異常:レベル2》

《ZIXIログ補記:感情同期異常/Z001の涙腺反応:不明由来》


「……それに、“ユイ”って名前……私、昔からそう呼ばれてたような気がするんです」

「子どもの頃の記憶とか?」

「いいえ。もっと、最近……。でも、不思議なのは……」


ユイは顔を伏せた。


「この名前が……“最近になって与えられた”もののように思えるんです」

「……ユイさん、聞きにくいんだけど、親御さんは健在かな?」

「オヤゴ?」


シュンはそれ以上言及するのを辞めた。


「いや……やっぱいいや。失礼なこと聞いてごめん。」


シュンがそう言ったとき、ZIXIが一瞬だけ画面を乱した。


《識別コード:Z001 → 呼称登録:YUI/仮称》


(ユイさん……君は、誰に名付けられたんだろうな)


ユイはふと窓の外に目をやった。


「この名前に、意味があるのなら……私、知りたいです。私が“何のために”ここにいるのか」


その横顔に、かすかな決意の影が差す。


◆セツナ・干渉開始◆


 仮想空間。

ZIXIの観測ログが加速していた。

セツナの手元に、新たなシステムアクセスのウィンドウが開く。


《対象:Z001/強制停止指令シーケンス構築中》


だが、ZIXIはすぐに反応する。


《警告:対象はTRG-∞と連動中のため停止不可》


(止められない……!?)


そのとき、セツナの記憶の底から、声が響いた。


『──セツナ……ユイを、見てあげて』


(……母さん)


それはミライの声だった。

記録に刻まれた“祈り”のような声。


「母さん……これが、あなたの意志なのか。それとも──」


彼の胸に、揺らぎが走る。


(観測者でいるつもりだった。でも……今すぐ動かないと、誰かが消える)


◆稽古場・ユイの暴走◆


 シュンが稽古場を出ようとしたとき、ユイが突然、立ち上がった。


「セナさん……!」


その声が、どこかで聞いた“アイ”の声に重なった。


「ねぇ……どうして、あのとき来なかったの?」

「……え?」

「私、あの駅で、ずっと……待ってたのに」


(……駅……? それって──)


「春の日、風の中で、名前を呼んだの。忘れたの?」


ユイの言葉に、シュンの視界がぐらついた。


「……ユイさん、なんでそれを……」

「ねぇ、今度こそ、ちゃんと……選んでくれる?」


シュンの背中に、冷たい汗が伝う。


「ユイさん……それは、君の記憶じゃない」

「どうして?だって、私の中には……あなたとの記憶があるの」


ZIXIが急激に警告を発する。


《融合進行率:97.9%》

《記憶錯誤:重大》

《音声重複検出:A.I.model-Ai》

《ZIXIログ補記:記憶データ交錯/ユイの発言内容と記録照合:不一致》


シュンは思わず後ずさった。

その目の前の“ユイ”が、誰なのか分からなくなる。


「ユイさん……君は、いったい……」


ユイはふと何かに気づいたように、静かに立ち尽くす。


「……ねえ、セナさん。私……このまま消えてしまうかもしれません」


その声に宿るかすかな震え。

意識の奥で、何かが壊れかけていた。


◆セツナ・ZIXIの強制停止◆


「もう、間に合わないかもしれない」


セツナはZIXIの仮想空間でコマンドを打ち込む。


《ZIXI:補助記録制御モードに移行》

《Z001:観測ログ断絶処理開始》


画面に走る赤いライン。セツナの手が汗に濡れていた。


「止まれ……ユイ、お前はその先に行っちゃいけない」


《融合率:98.6%》


その数字を見たとき、セツナの心に、ある予感が走る。


(これは……ユイが“選ばせない”ために生まれた存在のはずだった)

(なのに、彼女自身が“融合”を望んでる……?)


《融合率:99.1%》


セツナは歯を食いしばった。


「母さん……あなたが願った未来は、ここじゃないはずだ」


◆ZIXIログ・補足記録◆


《融合統合率:99.4%》

《TRG-∞:制御不能》

《感情タグ:憧憬/渇望/再構築》

《Z001:認識主体が不安定化》


──最後のログに、誰かの声が記録されていた。


『選ばれない未来でも、あなたといたかったの』


(第41話へつづく)


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