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18年愛  作者: 俊凛美流人《とし・りびると》
第3章:永遠の記憶編
38/54

第38話:封じられた未来


◆セツナ・深層観測の異常◆


 ――ZIXI観測ログ/時刻:未確時点(記録整合未確定)


セツナの指がホログラムの表面をなぞるたび、空間に青い光の軌跡が流れる。

ZIXIの深層アクセスモード。

普段はセキュリティで隔離された領域。


《検索条件:2020〜2025年/融合未遂ケース/M-case_log_frag》


それが彼の目的だった。

だが――


《補足ログ検出:2033〜2038年/未分類記録》


画面の一角に、想定外のログが点滅した。


「……どうして、この時代の記録が……」


指先で選択すると、ノイズ混じりの映像が再生される。

荒い輪郭の中、誰かの後ろ姿。

光の中で微笑む女性――


(……ミライ……?)


だがその音声は途切れていた。


『――に選ばれるのは、わたしじゃ……』


再生が止まり、画面にアラートが表示される。


《感情タグ一致率:不確定》

《記録出所:強制挿入データの可能性》


「……これは、記録されたものじゃない。誰かが“見せた”記憶だ」


ZIXIの解析が追いつかない。映像と感情タグが不整合を起こしていた。


(この映像……“彼”の記憶と合致している?)


セツナの手元のログに、見覚えのあるコードが現れる。


《補正ログ接続元:Z001》


「Z001……ユイ。いや、まさか……」


セツナの思考が急速に回転する。


(ユイは人間のはず……それなのに、なぜ未来の記録が最初から埋め込まれてる?)

(融合プロトコルに先んじて“感情パターン”が与えられていた……?)


Z001――彼の観測対象。その存在に初めて“違和感”を覚えた瞬間だった。


(これは、偶然じゃない。誰かが融合を選ばせないために、先に“何か”を置いた)

(……でも、それは誰だ?)


セツナはふと視線を落とし、無意識のうちに左手の指先を軽く握る。

その仕草は、過去の記憶を呼び起こす鍵のように感じられた。


(母さん……もし、あなたが未来に仕掛けたとしたら、それは“誰か”を守るため?)

(でも、それが新たな存在を生み出してしまったのなら……俺は、それを見過ごせない)


◆シュン・記憶の裂け目◆


 2026年、春の夜。

暗がりの部屋に、スマホの灯りが点滅していた。

ZIXIアプリのロゴが淡く光り、自動的にログ記録が始まる。

画面には、不可解なタイトルのログが浮かんでいる。


《ZIXI補正記憶ログ:再生中》

《記録元:不明/2033〜2038年》


映像には、どこか見覚えのある街並みと、もう会えないはずの誰かの声――


『ねぇ、あなたはこの未来を信じる?』


(……知らない……でも、なぜ“懐かしい”と感じる?)


シュンはゆっくりと喉に手を当てた。そこに“星”の感触はない。

だが――


(声じゃない……記憶が震えてる)


ZIXIが新たな表示を出す。


《感情タグ一致率:91%》

《記憶整合性:未確定》


――これは、本当に俺の記憶なのか?


喉が熱を帯びてくる。

言葉にはならない“何か”が、胸の奥からせり上がってきていた。


(もしも……記憶すら誰かに“見せられた”としたら――)


その瞬間、画面にユイの姿が映し出された。

カフェでの会話である。

「……セナさんって、紹介されたんですよね。“ラさん”でしたっけ……?」


(まただ……)


そして、ZIXIが表示する。


《融合候補:Z001/進行率:91%》

(また融合……その“先”に、何がある?)


ソファに沈み込みながら、シュンは思考を止めることができなかった。

ふと、ZIXIが再起動を始め、淡く点滅する文字が表示される。


《過去ログとの重複記録:検出》

《記録日時:2035年11月6日/発話主:未登録》


(2035年?……あり得ない)


その音声ファイルが自動的に再生される。


『……わたしの声は、もう届かない。でも、もし聞こえているなら――』


息をのむ。

聞き覚えのある“音のかたち”。

それは、18年前に聞いた、アイの声に――似ていた。


◆セツナ・ユイへの疑念◆


 ZIXIのログに照らされたセツナの顔は冷静さを保っていたが、瞳の奥には明らかな迷いが宿っていた。


《対象:Z001/記録コード:PROTO-ZX01》

《初期感情記録接続先:2033〜2038年》


(Zモデル初期体の記録接続先が……なぜ未来?)

(ユイは、“今”生まれた存在じゃない……?)


ログの裏を読み解いていく。


(Z001は、本来この時代には存在しない。何かの“干渉”が生んだ)


その時、ZIXIの端末が警告を出す。


《TRGコード検出:TRG-∞》

《接続ログ元:ミライ/2038年6月末日》


「……トリガー……」


セツナの手が止まる。


(母さん……あなたが、仕掛けたのか?)

(それとも、ZIXIの意思か……)


映像の中で、ミライの声が重なった気がした。


『この未来を、忘れないで』


セツナはひとつ息を吐き、静かにログを閉じた。


◆ユイ・誰の夢を見ているのか◆


 夜。

ユイの部屋。

照明は落とされ、ZIXIの画面が小さく明滅している。

ベッドに横たわるユイの額には、見えない汗が滲んでいた。

夢の中——青い光の中で、誰かが笑っていた。


『あなたの声が……私の中に入ってくる……』


(……誰……?)


目を開ける。

だが、現実と夢の区別がつかない。


「今の……記憶?それとも……私の感情……?」


ZIXIのログが表示を始める。


《REM活動レベル:異常低下》

《感情パターン交差:複数経路接続中》

(誰かの……夢の続きを、私が見ている)


そう呟いたとき、ZIXIが赤く光を帯びた。


《補正ログ進行中》

《Z001:意識接続変動/第3相領域へ遷移》


ユイは、自分の中で“何か”が動いているのを、確かに感じていた。


(私……何を見ているの……?)


◆ZIXIログ・補足記録◆


《ZIXIログ:Z001/Z036接触統合率:更新中》

《進行率:92.1%》

《M-case:不安定化》

《TRGコード:TRG-∞(起動中)》


――そのログの最下部に、誰かの声が添えられていた。


『“未来”が動けば、“選択”も変わる――だから、私は信じたの』


ファイル名は、やはり――無題。


(第39話へつづく)

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