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18年愛  作者: 俊凛美流人《とし・りびると》
第2章:記憶の錯綜編
24/54

第24話:繋がらない記憶


◆深夜のTINE通話◆


 午前1時過ぎ。

静まり返った部屋に、スマートフォンの通知音が微かに響いた。


《TINE通話リクエスト:ユイ》


(こんな時間に……)


シュンは少し迷った末、通話ボタンを押した。

画面にユイの名前が表示される。


「……こんばんは、遅くにすみません」


イヤホン越しに、ユイの声が届く。


(この声……)


どこかで、何度も聞いた気がする声。

ユイのはずなのに、ふとした間の取り方、息継ぎの仕方、言葉の抑揚が、“誰か”に似ている。


「大丈夫。寝てなかったし」

「よかった……今日、少しだけ話したくなって」


シュンは頷く。

沈黙のままでも、会話は成り立つような感覚がそこにはあった。


「昨日の……舞台、本当にすごかったです。来栖さんの“あの台詞”、まるで本当に誰かを待っていたように聞こえました」

「……待ってたよ。誰かを。……でも、それが誰なのか、自分でも分からなくなってきてる」


ユイは小さく息を呑むような音を立てたあと、囁くように言った。


「来栖さんの“声”って、記憶を呼び起こす力があると思うんです」

「……俺の声が?」

「はい。私……たまに夢の中で、あなたの声を聞くんです。でもそれは舞台の稽古の記憶じゃない。もっと……昔の景色の中にあるんです」


◆記憶と夢の狭間◆


「それって、夢じゃなくて“記憶”ってことか?」

「分からないです。でも、“夢で思い出す記憶”って、ありませんか?」


シュンは、思い返す。

昔、母親がぼんやりとつぶやいていたことがあった。


——お兄ちゃん、舞台の上ではすごかったのよ……


その言葉の意味を、幼い頃のシュンは気にも留めていなかった。

でも今になって、それが“誰か”に繋がっているような気がしてならなかった。


「記憶って……本当に自分のものなんだろうか」


シュンがぽつりと呟くと、ユイは少し間を置いて答えた。


「それは、私もずっと考えてきたことです。だからZIXIにアクセスするのが怖いときもある」


◆音が記憶を呼び起こす◆


「私……小さい頃、ある声を聴くと、知らない映像が頭の中に流れ出すことがありました」

「映像?」

「はい。光の差す教室、ガラス窓に反射する影、人の名前。……だけど、現実にはそんな記憶はないんです」


(ミライもそんなことを言っていたような……)


「“音の記憶”って、誰かの想いと繋がる回路なのかもしれない」


ユイのその言葉に、シュンの胸がざわついた。


「……もし、記憶が“音”で伝わるなら、それはもう、俺たちだけの記憶じゃないな」

「はい。もしかしたら、それは“残された誰か”の想いかもしれません」


シュンは思わず、自分の声を一度録音し、それをイヤホンで聴いてみたことを思い出す。

自分の声のはずなのに、どこか“他人の声”のように聴こえたあの違和感。


——あれも、誰かの記憶を拾っていたのだろうか?


◆声が届く、その意味◆


ふたりはしばらく無言になった。

夜の静けさに、通話の呼吸音だけが流れていた。


「ユイ。……ひとつ聞いていいか?」

「どうぞ」

「俺の“ありがとう”って言葉、聞こえてた?」


ユイは一瞬、言葉に詰まった。


「……はい。でも、あれ……どこから聞こえたのか、分からなかったんです」

「それ、どういう意味?」

「来栖さんの口が動いていたのかも、分からない。ただ、音として“届いた”んです。胸の奥に、直接」


(やっぱり、俺……あのとき、声を出してなかったのか?)


ZIXIの音声ログには、確かに“自分ではない声紋”が記録されていた。


「声って、どこから来るんだろう」

「たぶん、心から。でも、それが別の“心”だったとしても、届けば意味があると思います」


ユイのその言葉に、シュンは目を閉じた。風のように通り抜ける“言葉”。

形は違っても、確かにそこに存在する想い——。


「……たとえ“記憶の代弁者”としての声だったとしても、それで誰かの想いが届くなら、それはきっと意味があると思う」

「優しいですね、来栖さん」

「違うよ。ただ……俺がそうやって何度も助けられてきただけ」


ふたりは少しの間、黙って夜の音に耳を澄ませた。


◆変わっていくユイ◆


「来栖さん……」


ユイの声が、少し低くなる。


「もし……今までとは違う私が現れたら、怖いですか?」

「……どういう意味?」

「たとえば、私が違う名前で、違う姿で、違う時間に立っていたとして——それでも、あなたは“私”を見つけられますか……?」

「気づけると思う。きっと」


ユイはそれを聞いて、小さく笑った。


「……ありがとう。今、そう言ってもらえて、嬉しかったです」


その“ありがとう”の言い方が、どこかアイの声と重なった。


(これは……偶然か? それとも——)


まるで、“別の人格”がここに届こうとしているような、そんな気がした。

画面越しに、ユイが何かを言いかけたその瞬間——

ZIXIが自動的に反応した。


《発話解析中:照合率 91%》

《一致対象:A.I.》


(やっぱり……何かが繋がってる)


ふたりの会話は、そのまま夜明けまで続いた。

その内容のすべてを、シュンは覚えていなかった。

ただ、ひとつだけは確かだった。


——“声”は、確かに届いていた。


(第25話へつづく)

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