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第三十三話 策謀の果て


 朝から空は澄み渡り、心地よい風が屋敷の庭を吹き抜けていた。ロザリアの屋敷での生活にすっかり馴染み始めた僕とクリスだったが、この日は少し違った展開を迎えることになった。


「お兄様、そろそろ新しい剣を手に入れませんか?」


 朝食の席で、アリスが何気なく提案した。僕の剣はまだ使えるものの、最近の激しい訓練で刃こぼれが目立ち始めていた。


「確かにそろそろ新しい剣が必要かもな。でも、今買いに行く必要あるのか?」


「ええ、いい鍛冶師の店を見つけたんです。最近、騎士たちの間でも評判らしくて、早めに行かないと人気の品は売り切れてしまうかもしれませんよ。」


 アリスはさらりと理由を並べた。その提案に、クリスも乗り気になる。


「お、いいじゃねえか! 俺もちょっと新しい武器を見てみたいしな!」


 僕は少し考えたが、アリスの提案を断る理由もなかった。結果として、三人は屋敷を出ることになった。



 街の鍛冶屋を巡りながら、僕たちは新しい剣を探した。幾つかの店を回るうちに、アリスは意図的に時間を引き延ばしているように感じた。僕が真剣に剣を選んでいる間、アリスはそれとなくゆっくり歩き、余計な買い物を提案してきた。


「お兄様、せっかく街まで来たのですから、少し休憩していきませんか?」


「まあ、いいけど……?」


 僕は訝しげにアリスを見たが、クリスはすでに屋台の軽食に夢中になっていた。


「バレットも食えよ、ここの肉串うめえぞ!」


 結果的に、思いのほか時間が経ち、日が落ち始めていた。


「もうこんな時間か……そろそろ屋敷に戻るか。」


 僕がそう言ったとき、アリスがさりげなく提案した。


「それなら、今夜はこのまま外泊しませんか?もう遅いですし、今帰ったら迷惑になりますよ。」


「まあ、確かに夜道を歩くのも面倒だしな……。」


 クリスが頷くと、僕も納得せざるを得なかった。


「そうか……なら、一泊して明日帰るか。」


 こうして、アリスの計画通りに、僕とクリスはその夜屋敷へ戻らないことになった。



 その頃、ロザリアの屋敷では静かな夜が訪れていた。しかし、それは一瞬の平穏でしかなかった。


 屋敷の周囲に、暗闇の中から無数の影が忍び寄っていた。貴族たちが送り込んだ刺客たちが、一糸乱れぬ動きで屋敷の門を超え、警備の薄くなった敷地へと侵入する。


 ロザリアは書斎で静かにワインを楽しんでいた。だが、その優雅なひとときを破るように、屋敷内から微かに物音が聞こえた。


(……何かしら?)


 彼女はグラスを置き、ゆっくりと立ち上がる。長年の経験から、何かが迫っていることを感じ取った。


 しかし、不審に思った時にはもう遅かった。扉から多くの侵入者が現れた。


「……ふふ。」


 彼女はかすかに微笑む。まるでこれが予定された運命であるかのように、抵抗する意思すら見せなかった。


(なるほど……アリス、これはあなたの仕業ですね?)


「私としたことが、忘れていました。そういえば、17歳の3月10日今日が、私の命が尽きるときでしたわね。」


 刺客たちの鋭い刃が迫る。


(つまらない最後ね。)


 ロザリアはすべてを受け入れるように、ゆっくりと目を閉じた。彼女は静かに、崩れ落ちる運命を待っていた——。


 しかし、刃が彼女の肌を裂く直前、微かに扉の奥で音がした。誰かが屋敷へ戻ってきたのだ。


 それは、予想外の展開だった。


 暗殺者たちは一瞬の静寂の後、音の主を確認するために目を向けた。その隙を見て、ロザリアは一歩後退する。


「……さて、どうなるかしら?」


 彼女は静かに呟く。もはや運命を受け入れていたはずの彼女が、今度は何かを期待するような目で、その扉の向こうを見つめていた。


 そして、扉が大きく開かれた——。


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