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第二十七話 優雅なる狩人と籠の鳥


 ロザリアの屋敷は、まるで絵画のように美しく整えられていた。白亜の外壁、手入れの行き届いた庭園、そして高級家具が並ぶ広い客室。そこで護衛任務を行けたバレットたちは、その豪奢さに圧倒されながらも、ロザリアの温かい歓迎を受けていた。


「バレット様、どうぞ自宅のようにおくつろぎください。」


 ロザリアは優雅に微笑みながら、バレットへと優しく視線を向ける。その美しい佇まいに、僕は思わず視線を逸らした。


「わざわざ用意してもらって悪いですよ。」


「そんなことありませんわ。バレット様がいらしてくださるだけで、私はとても安心しますし、嬉しいのです。」


 バレットはその言葉を真に受け、「そうかな」と少し気恥ずかしそうに頷いた。ロザリアの優雅な振る舞いに、特に違和感を持つことはなかった。


 しかし、アリスは微笑みを浮かべながらも、その瞳は冷たくロザリアを見つめていた。



「すげえな、こんな飯が毎日食えるのか!」


 クリスは目の前に並ぶ豪勢な料理に目を輝かせ、すでにナイフとフォークを手にしている。


「気に入っていただけたようで何よりですわ。」


 ロザリアは穏やかに笑いながら、バレットのグラスにワインを注ぐ。


「バレット様、どうぞ。」


「ああ、ありがとう。」


 大きな果実が丸々と入った高価そうなジュースを口に運んだバレットの唇に、ほんの少し赤い染みが残る。ロザリアはそっとナプキンを取り、自然な動作で彼の口元に手を伸ばした。


「少し……ついていますわ。」


 ふわりとした手つきで、バレットの口元を優しく拭うロザリア。バレットは驚きつつも、「あ、悪い」と照れながら呟く。


「いえ、私が気になっただけですの。」


 彼女の指先が唇に触れた瞬間、僕は一瞬固まった。肌に触れる感触が妙に意識され、体温が一気に上がる。


「あ、ああ……すみません。」


 目をそらしながら謝る僕に、ロザリアサンは微笑んだ。


「いえ、私が気になっただけですの。」


 そのやり取りを、アリスは無言で見つめていた。そして、クリスはどこかもやもやしてが口を開こうとしたとき、、ロザリアはクリスに向かって微笑み言葉を紡いだ。


「クリス様、騎士団との訓練などいかがですか?おそらく貴方とも白熱した戦いをできる方も在籍していますよ。」


「本当か!?」


「案内なさい」


 ロザリアがメイドに指示すると、クリスは意気揚々と席を立ち、まだ見ぬ強敵を求めて部屋を後にした。




「そういえば、アリス様、実は、私の書庫に古い魔法の指南書や絶版となったハメル伯爵執筆の歴史書がいくつかありまして。アリス様ならばご興味を持たれるのではないかと思いますが、のぞかれますか?。」


「……よくこの短期間で私の好きなものを調べ上げましたね。」


 アリスが笑顔で微笑みかける。


「まあ、偶然とは凄いものですわね。」


「そうでしたか、非常にありがたいお誘いですが、今、護衛の仕事中ですので。」


 ロザリアの微笑が、ほんの一瞬固まる。しかし、すぐに崩れぬよう整える。


「まあ……それは残念ですわね。」


 そういえばアリスはよく本屋に行っていたな、それはそれは楽しそうだった。


「アリス、せっかくだし見てきたらどうだ?屋敷内なら大声を出して助けを待つ時間くらいなら稼いで見せるから。」


「……お兄様がそうおっしゃるなら。」


 アリスはそっと目を伏せ、アリスはメイドに案内を頼み、静かに部屋を去っていった。その後ろ姿を見送りながら、ロザリアの微笑みがふっと深まる。




「ふふ、やっと二人きりになれましたわね、バレット様。」


 ロザリアはゆっくりと椅子に腰掛け、優雅な仕草でスカートの裾を整える。その視線にはどこか甘やかさが含まれていた。


「あ、ああ……そうですね。」


 僕は微妙に落ち着かない様子で視線を泳がせる。アリスやクリスがいないせいか、妙に静かで、二人きりという事実を強く意識させられる。


「メイドに特製の紅茶を持ってこさせましたの。バレット様、お口に合うといいのですけれど。」


 ロザリアが軽く手を叩くと、控えていたメイドが銀のトレイに乗せた紅茶を恭しく運んできた。湯気の立ち上るカップをそっと差し出され、バレットは受け取る。


「ありがとうございます。……少し変わった香りですね。」


 カップを傾け、一口含む。通常の紅茶とは異なる、独特な甘さと深みのある味わいが広がった。


「ええ、特別なブレンドですのよ。お気に召しました?」


「うん……でも、何が入っているんですか? 普通の紅茶と少し違うような……。」


 バレットが首をかしげると、ロザリアは楽しげに微笑んだ。


「愛ですわ。」


「え?」


「バレット様を思うと、あふれてしまいましたの。」


 ロザリアは冗談めかしてクスクスと笑う。しかし、その視線はどこか妖しく輝いていた。


「冗談ですわ。」


 ロザリアさんは照れたように笑い、もう一口紅茶を飲む。


 僕も紅茶を口に含むと、ロザリアさんはその様子をじっと見つめながら、唇の端をわずかに歪ませた。


 それは満足げであり、どこか愉悦に満ちた表情だった。


「ふふ……。」


 自分特製の紅茶を飲んでいる人を見るのが好きなにだろうか。





 夜になった。


 静まり返った屋敷の中、ロザリアの部屋に小さな影が忍び込む。


「こんばんは、ロザリア様。」


 アリスだった。その方にはカラスが留まっている。

 ロザリアはベッドの上でくつろぎながら、薄い笑みを浮かべた。


「あら、こんな時間にどうされましたの?」


 ロザリアの問いに、アリスは静かに部屋へと足を踏み入れる。


「少し、お話をしたくて。」


「まあ、それは光栄ですわね。」


 ロザリアはゆっくりと起き上がり、アリスの顔を覗き込む。


「何についてかしら?」


 アリスは微笑みを浮かべながら、部屋の奥へと進む。そして、ロザリアの前に腰を下ろした。


「……お兄様についてです。」


 夜の静寂の中、二人の間に張り詰めた空気が広がった——。







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