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第二十六話 新たな依頼と昇格

  宿屋にて

 朝日が差し込み、街の喧騒が徐々に広がる中、僕たちは宿屋の食堂で朝食を取っていた。


「さて、今日は仕事をするよな!」

 クリスがパンをかじりながらこちらに身を乗り出し言う。


 二日の休息で十分に疲れは取れた。確かにもう仕事を受けるいい時だ。


「そうだな……。」

 僕もスープをすすりながら答えた。


 昨日までの休息も終わり、今日からまた冒険者としての日々が始まる。

 ゴブリンの廃村の戦いを経て、僕たちの実力も確実に上がっているはずだ。


「そういえば、カインたち……どうなったんだろう。」

 ふと、僕は思い出した。


「知らん?」

 クリスはそう言ってパンを丸ごと口に放り込む。


「多分もう会うことはありませんよ……おそらく、冒険者は引退されたんじゃないですか。あれほど悲しいことがありましたから。」

 アリスは相変わらず静かに微笑んでいた。


「怖いな。」

 カラスがアリスを見ながら一言呟いた。


 少しのどに引っかかるが、気にしていても仕方ない。それよりも、今日からの仕事だ。


「とにかく、ギルドに行こう。」

 僕は立ち上がり、食器を片付けた。


 ギルドの扉を開けると、そこはいつもと変わらない活気に満ちていた。


 いつもお世話になっているギルドの受付嬢が僕たちを見つけ、手招きした。


「バレットさんたち、お待ちしていました。」

「……僕たちを?」


 僕が尋ねると、受付嬢は頷き、少し興奮した様子で続ける。


「ゴブリンの廃村討伐の件が王国にも伝わり、正式に報告が上がりました。その結果——」


「あなたたちは、本日付けでDランク冒険者に昇格となりました!」


「おおっ!」

 クリスが喜びの声を上げる。


「Dランク……!」

 僕も思わず拳を握った。


 ギルドではFランクから始まり、Eランクはそれなりの実力があると認められ、Dランクからは十分な力のある一人前の冒険者として認められる。受けられる依頼の幅も大きく広がる。


「お兄様、おめでとうございます。」

 アリスが微笑みながら手を合わせる。


「ありがとう。みんなのおかげだ。」

 僕は心からそう思った。


「まあ、当然だな。俺たちはあのゴブリンの群れを片付けたんだからよ!」

 クリスが得意げに胸を張る。


「それと……。実は、バレットさんたちへの指名依頼が来ています。」


「指名依頼?」

 僕は首をかしげた。


指名以来の説明を挿入


「依頼主は——」


「ロザリア・フォン・エルムハイド様です。」


 少し僕の胸が高鳴った。あの密接した腕の感触を微かに思い出した。



 ロザリア・フォン・エルムハイド。

 あの廃村で救出した貴族の令嬢。

 彼女がわざわざ僕たちを指名して依頼を出してきた?


「ロザリア様のご依頼は、『個人的な護衛』とのことです。」

 受付嬢が説明を続ける。


「……護衛?」


「詳しい内容はまだ明かされていませんが、お礼を兼ねて正式な依頼をしたいとのことでした。」


「お礼なら、もうもらったけど……。」

 僕は先日の報酬を思い出しながら呟く。


「しかし、依頼額はかなりの高額です。」


 受付嬢がちらりと僕たちを見た。


「普通のDランク依頼の報酬とは桁が違います。」


「マジか……。」

 クリスが少し考え込む。


「……お兄様。少し怪しいと思いますが、どうしますか?」


「……そうだな。せっかくのチャンスだし、僕は受けてみたいと思う。あまりにも危険なら話を聞いてやめさせてもらおう。ロザリアさんは優しそうだったし断らせてくれるよ。」


 こうして僕らは依頼を受けることにした。


 ギルドを後にし、僕たちはロザリアの屋敷がある別の町へ向かうことになった。


 ロザリアが馬車を用意してくれたらしく、移動はスムーズだった。


 旅は順調に進んだ。

 広がる草原や小さな村を抜け、やがてロザリアの住む町が視界に入った。


「さすが貴族の住む街だな……。」

 町の入り口にはしっかりと頑丈そうな門が設けられ、武装した衛兵が警戒している。かなりのだ


 門を通る際、僕たちはロザリアから預かった紹介状を見せた。


「……確かに。ロザリア様のご依頼の冒険者ですね。どうぞお通りください。」


 問題なく通過し、ロザリアの屋敷へと向かう。



 ロザリアさんの屋敷は町の中でも一際目立つ、白亜の豪奢な建物だった。

 手入れの行き届いた庭園と壮麗な装飾が施された門構えからも、彼女の家柄の高さが伺える。


「貴族の屋敷ってのはすげぇな。」

 クリスが感心したように呟く。


 門の前で衛兵に名前を告げると、すぐに中へ通された。


「ようこそ、バレット様。」


 広い玄関ホールで僕たちを出迎えたのは、上品な笑みを浮かべたロザリアさんだった。

 その恰好は少し露出の多いドレスで、僅かに屈んだだけで、その胸元は上半分の生地がなかった。その大きな半球が常に見えてしまっている。

 目を見て話すべきなのだが、直視が難しい……


「お、お久しぶりです、ロザリアさん。」


 少し声がうわづみながら声をかける。


「ええ、お待ちしていました。どうぞ、お入りください。」


 そんな僕に微笑すると、ロザリアさんは案内をする。そして、広々とした応接室へと通された。

 なんとなく、アリスの顔を見ることはできなかった。




「さて、本題に入りましょう。」

 ロザリアさんは優雅にお茶を飲みながら言った。


「今回の依頼は、私個人の護衛なのですが……実は、少し複雑な事情があります。」


「……詳しく聞かせてください。」


 真剣な話だ。僕は見ないように見ないように意識し、目を見て話を聞く。


「最近、私の周囲で不審な動きがあるのです。」


 ロザリアさんは静かに説明を続けた。


「屋敷の使用人が突如として行方不明になったり、私の外出時に妙な視線を感じたり……。さらに、最近になって私の家族が一人残らず暗殺されました。」


「ロザリア様だけよく助かりましたね……」

 アリスが目を細める。


「はい。運が良かったと言うしかありません。その時、家にいたものは使用人含めてみな殺害されました。幸い私は外出中だったため助かりましたが……」


「つまり、ロザリアさん自身も次に狙われる可能性がある……?」


「ええ。それで、信頼できる方に護衛をお願いしたいのです。なのでパーティーへの依頼というよりは申し訳ありませんが、バレット様個人への依頼となります。」


「僕個人ですか?」


「はい、疑り深い性格で申し訳ないのですが、私の命を直接救ってくれたバレット様だけが今の私にとって信じられる存在なのです。身内も少し怖いのです……」


 僕は腕を組み、考え込んだ。そして考えを言う。


「二人も一緒なら喜んでお引き受けします。正直、僕は弱いです。僕が護衛だと、もしロザリアさんに被害があった時、守り切れる自信がありません。」


「その時は天運だったということですよ。私はバレット様を信じます。」


 そう、まっすぐな目で見てくれる。


「僕を信じてくれるなら、僕の仲間も信じてくれませんか?そうしたら、絶対にロザリアさんを守ります。」


「わかりました。そこまで言うなら信じましょう。今更のお願いですが、お二人もこの依頼受けてくださいますか?」


「お受けしますよ。」


「助かります。あなた方なら、きっと頼りになります。」


 アリスとロザリアさんは微笑みあう。二人ともおしとやかな性格だ。きっといい話し相手になると僕は思った。

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