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第二十五話 アリスとの時間


 朝。

 昨日、クリスと街を歩き回ったことで、ほどよくリフレッシュできた僕だったが——


「お兄様、準備はできていますか?」


 アリスの穏やかな声に、僕は少し背筋を伸ばす。

 今日は、アリスと出かける約束の日だった。


「えっと……行くのはいいけど、何をするんだ?」


「お買い物です。」


 アリスはにこりと微笑み、手提げ袋を軽く持ち上げた。


「お兄様の装備を新しくするのと、少し良いお茶を買いに行きましょう。」


「……僕の装備?」


「ええ。もう少し、お兄様に合ったものを選んであげたいのです。」


 昨日クリスと武器屋に行ったときのことが頭をよぎる。クリスのはかなり直感的な選び方だったけど、アリスの選び方は違うんだろうか。


「わかった。じゃあ行くか。」


「はい。」


 アリスはすっと腕を差し出す。


「……え?」


「お兄様、せっかくの休日ですし、手を引いてくださいませんか?」


「まあ、別にいいけど……。」


 何か妙に期待してるような視線を向けられている気がするが、僕は深く考えないことにした。



 まず最初に向かったのは、服屋だった。


「アリス、僕の装備を買いに行くんじゃなかったのか?」


「はい。服は立派な装備ですよ。」


 アリスは服の棚を眺めながら、落ち着いた声で答える。


「それに、戦闘服は機能的ですが、街中では少し硬すぎますからね。一枚は普通の服を持ちましょう。」


「そうかな……。」


 確かに、僕の服装は戦闘向けのものばかりだ。動きやすさを重視しているけど、街中で過ごすには少し武骨すぎるのかもしれない。それにアリスは今日は可愛らしい服を着ている。確かに横に戦闘夫君の男がいるというのはふさわしくないかもしれない。


 アリスはあれこれと服を選び、次々と僕に合わせていく。


「これなんかどうでしょう?」


 アリスが選んだのは、黒を基調としたシンプルなシャツと、深い青のジャケットだった。


「お兄様は、こういう落ち着いた色が似合います。」


「……そうか?」


「はい。お兄様は、優しくて真面目ですから。」


 アリスは微笑みながら、もう一着を手に取る。


「これは……少し冒険ですね。」


「え?」


 アリスが差し出したのは、少し装飾がついた白のシャツと、シルバーの細かい刺繍が施されたジャケットだった。


「ちょっと派手じゃないか?」


「でも、似合うと思いますよ?」


 アリスはさらりと言ってのける。


 結局、僕はアリスの選んだ服を試着することになった。


「……どうです?」


 鏡の前で少し身じろぎすると、確かに今までよりも落ち着いた雰囲気がある。それに着やすい。

「意外と悪くない……かも?」


「ふふ、やっぱり。」


 アリスが満足そうに頷く。


「これにしましょう。」


 僕が言うと、アリスは嬉しそうに頷いた。



 次に訪れたのは、高級感のある茶葉専門店だった。


「へぇ……こんな店があるんだな。」


「はい。私はここの紅茶が好きなんです。」


 アリスは慣れた様子で店に入り、棚を見回しながらいくつかの茶葉を手に取る。


「お兄様は、どんなお茶が好きですか?」


「うーん……正直、紅茶とかあまり詳しくないかな。」


「では、私が選びますね。」


 アリスはにっこりと微笑みながら、香りを確かめて茶葉を吟味する。


「これは甘めの香りで、お兄様にも飲みやすいと思います。」


 アリスが差し出したのは、フルーティーな香りのする紅茶だった。


「じゃあ、それにするよ。」


 結局、僕はアリスの選んだ茶葉を購入することにした。


「お兄様、今度は一緒にお茶を淹れましょうね。」


「……ああ。」


 帰り道。


「お兄様、今日は楽しかったですね。」


「ああ、普段とは違う時間を過ごせた気がする。」


 アリスは嬉しそうに頷いた。


 そして——


「おい、仕事してきたぞ……。」


 どこからともなく、黒いカラスが飛んできて、アリスの肩にとまった。


「……仕事?」


 僕は尋ねた。


「ええ。使い魔ですから。私のために働いてもらわないと」


 アリスはさらりと答え、カラスの頭を握る。少し握る力が強い気もするが、カラスは目を細めている。気持ちがいいのだろう。


「……使い魔が話すなんて聞いたことないけど本当にすごいな。」


「はい。少しおしゃべりですが、優秀な子ですよ。」


 アリスは微笑んだ。


「ねえ、カラス何の仕事してきたの?」


「知らない方がいい……。」


 カラスは短く言葉を紡ぎ、バレットをじっと見た。


「…ちょっといい依頼が入ってないか見てきてもらっただけですよ。」


 アリスは微笑む。このカラスそんなことを教えてくれないなんて僕のことを嫌っているのかもしれない。かわいいから撫でたいと思っていたのでちょっと悲しい。



「お兄様、またこうして二人で過ごしましょうね!」


「たまにはいいね」


 こうして、アリスとの休暇は緩やかに過ぎていった。

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