表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/38

第二話 新たな可能性

 アリスの魔法の件はひとまず落ち着いた。

 母さんはまだ少しぎこちない様子だが、アリスは相変わらず元気で明るい。きっと、時間が経てば母さんも元通りになるだろう。


 しかし、問題が残った。

 母さんはもう魔法を教えてくれなくなった。アリスだけに魔法を教えないのは不公平だから、僕にも教えないというのだ。


 さらに、僕の使える魔法にも困った。

 《精神を落ち着かせる魔法》《身体を発光させる魔法》。


 どちらも戦闘向きではない。

 特に後者は、小さな火が出す程度の光しか出せず、敵を目くらませることすらできない。


 一応、魔法を強くする方法はあるらしい。それは、魔物を倒して魔力を増やすか、魔法を何度も使って鍛えること。

 後者は毎日実践しているが、目に見える成長はない。


 気分転換のために村を歩いてみる。


 村には僕と同年代の子供が何人かいるが、僕に親しげに接してくれるのは、たった一人だけだった。

 どうも、母さんが“魔女”と呼ばれ、村の人々に敬遠されているのが原因らしい。


「よっ! バレット!」

 突然、後ろから肩を叩かれた。


「クリスか。」


 赤髪の少年、クリス。

 村で唯一僕と仲良くしてくれる同年代の男の子。整った顔立ちをしていて、将来は僕よりも先にハーレムを築きそうだ。


「遊ぼうぜ。」

「無理。今、大事なことを考え中。」

「えー、なんだよー。なら、その考えってやつ、俺にも聞かせてくれよ。もしかしたら俺が解決できるかも。」


 確かに、子供ならではの視点で、意外な解決策が出るかもしれない。


 そこで、僕は自分の夢——英雄になりたいこと。魔法の才能がなさそうなことを話した。


「なら、俺と剣の訓練しようぜ!」

「剣?」

「あぁ、俺の爺ちゃんは剣の達人で、若い頃は騎士団にいたらしいぜ!」


 騎士団!

 確かに、それなら剣を極めることで魔物を倒せるようになるかもしれない。


「剣の訓練してみる! 頼むよ!」


 こうして、クリスの爺さんの家を訪れた。


「何? 剣を教えろだと?クリスはいいが、そのガキには教えん!!!」

「なんでだよ!!」

「教えん!」


「ケチ!」

「お願いします!」


「……坊主、ワシがなぜこの村にいるか知っておるか?」

「いや、引退後の生活とかじゃないんですか?」


「違う。お前の母のせいだ。」

「母さんの?」

「うむ。お前は自身の母についてどこまで知っている?」


 母さんについて。

 そういえば、何も知らない。


「エルフなことと、魔法が使えること……くらい?」

「ならば教えてやる。——奴は、罪なき人を数百人と殺した大犯罪者だ。」


 ——は?


 僕は言葉を失った。


「……嘘だろ?」

「いや、事実だ。ワシの同僚も、奴に何人も殺された。」


 爺さんの言葉が脳に焼きつく。


「幾度も衝突した末、追い詰めた。しかし、その時奴は身籠っていた。そして、条件を出してきた。『自分とこの子を保護するなら、魔法で国に貢献する』と。」

「貢献……?」

「奴の《植物を成長させる魔法》は、貴重な薬草を容易に育てることができる。国はそれを利用するために、奴を保護し、ワシを監視役として派遣したのだ。」


 母さんが——犯罪者。


「……僕の父さんは?」

「知らん。お前は確かに奴の子供だが、妹のアリスは拾われた子らしい。」


 僕は何も言えなかった。


 剣の稽古を諦め、家に帰ると母さんが出迎えた。


「おかえり、どこに行ってきたの?」


「アトム爺さんの家。」


「アトムさん?」


「聞いたよ。母さんの話。」


 母さんの顔が一瞬、曇った。


「そう……どう思った?」


「……本当なの?」


「……ごめんなさい。おそらく全て本当よ。」


「……じゃあ、なんで犯罪なんてしたの?」


「少し長くなるから、アリスが寝てからでもいい?」


「うん……。」


 夜、アリスが寝た後——


 母さんは静かに話し始めた。


「私はエルフの一族で、森の中で平和に暮らしていた。でも、ある日、人間の軍勢が村を襲ったの。家族は殺され、村は焼かれた……。」


「そんな……。」


「もちろん、襲った人間たちは後に処刑された。でも、私の憎しみは消えなかった。私は人族すべてが悪だと思い、街や村を襲い……多くの人を殺したの。」


 母さんの声が震えていた。


「でも……戦いの中で倒れた時、一人の人間の男性が私を助けてくれた。そして……その人の子を宿したのが、あなたよ。」


「……。」


「今は理解して公開しているわ。人族の全てが悪ではなかったこと、私がしてきたことの恐ろしさも……。」


 母さんは俯き、涙をこぼした。


 僕は、言葉を失った。


 重い。


 本当は、もっと気楽に、ハーレム作りに励みたかった——。





 ちなみに後日、クリスの説得により僕は件を教えてもらえることになったが、


「バレット…お前はなんというか、センスがないな。エルフの血を加味しても、かなり下手だ。」


「クリス、お前はやはりワシが見込んでいた通り100年に一度の天才だ!!」


 と言われた。何故だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ