第二話 新たな可能性
アリスの魔法の件はひとまず落ち着いた。
母さんはまだ少しぎこちない様子だが、アリスは相変わらず元気で明るい。きっと、時間が経てば母さんも元通りになるだろう。
しかし、問題が残った。
母さんはもう魔法を教えてくれなくなった。アリスだけに魔法を教えないのは不公平だから、僕にも教えないというのだ。
さらに、僕の使える魔法にも困った。
《精神を落ち着かせる魔法》《身体を発光させる魔法》。
どちらも戦闘向きではない。
特に後者は、小さな火が出す程度の光しか出せず、敵を目くらませることすらできない。
一応、魔法を強くする方法はあるらしい。それは、魔物を倒して魔力を増やすか、魔法を何度も使って鍛えること。
後者は毎日実践しているが、目に見える成長はない。
気分転換のために村を歩いてみる。
村には僕と同年代の子供が何人かいるが、僕に親しげに接してくれるのは、たった一人だけだった。
どうも、母さんが“魔女”と呼ばれ、村の人々に敬遠されているのが原因らしい。
「よっ! バレット!」
突然、後ろから肩を叩かれた。
「クリスか。」
赤髪の少年、クリス。
村で唯一僕と仲良くしてくれる同年代の男の子。整った顔立ちをしていて、将来は僕よりも先にハーレムを築きそうだ。
「遊ぼうぜ。」
「無理。今、大事なことを考え中。」
「えー、なんだよー。なら、その考えってやつ、俺にも聞かせてくれよ。もしかしたら俺が解決できるかも。」
確かに、子供ならではの視点で、意外な解決策が出るかもしれない。
そこで、僕は自分の夢——英雄になりたいこと。魔法の才能がなさそうなことを話した。
「なら、俺と剣の訓練しようぜ!」
「剣?」
「あぁ、俺の爺ちゃんは剣の達人で、若い頃は騎士団にいたらしいぜ!」
騎士団!
確かに、それなら剣を極めることで魔物を倒せるようになるかもしれない。
「剣の訓練してみる! 頼むよ!」
こうして、クリスの爺さんの家を訪れた。
「何? 剣を教えろだと?クリスはいいが、そのガキには教えん!!!」
「なんでだよ!!」
「教えん!」
「ケチ!」
「お願いします!」
「……坊主、ワシがなぜこの村にいるか知っておるか?」
「いや、引退後の生活とかじゃないんですか?」
「違う。お前の母のせいだ。」
「母さんの?」
「うむ。お前は自身の母についてどこまで知っている?」
母さんについて。
そういえば、何も知らない。
「エルフなことと、魔法が使えること……くらい?」
「ならば教えてやる。——奴は、罪なき人を数百人と殺した大犯罪者だ。」
——は?
僕は言葉を失った。
「……嘘だろ?」
「いや、事実だ。ワシの同僚も、奴に何人も殺された。」
爺さんの言葉が脳に焼きつく。
「幾度も衝突した末、追い詰めた。しかし、その時奴は身籠っていた。そして、条件を出してきた。『自分とこの子を保護するなら、魔法で国に貢献する』と。」
「貢献……?」
「奴の《植物を成長させる魔法》は、貴重な薬草を容易に育てることができる。国はそれを利用するために、奴を保護し、ワシを監視役として派遣したのだ。」
母さんが——犯罪者。
「……僕の父さんは?」
「知らん。お前は確かに奴の子供だが、妹のアリスは拾われた子らしい。」
僕は何も言えなかった。
剣の稽古を諦め、家に帰ると母さんが出迎えた。
「おかえり、どこに行ってきたの?」
「アトム爺さんの家。」
「アトムさん?」
「聞いたよ。母さんの話。」
母さんの顔が一瞬、曇った。
「そう……どう思った?」
「……本当なの?」
「……ごめんなさい。おそらく全て本当よ。」
「……じゃあ、なんで犯罪なんてしたの?」
「少し長くなるから、アリスが寝てからでもいい?」
「うん……。」
夜、アリスが寝た後——
母さんは静かに話し始めた。
「私はエルフの一族で、森の中で平和に暮らしていた。でも、ある日、人間の軍勢が村を襲ったの。家族は殺され、村は焼かれた……。」
「そんな……。」
「もちろん、襲った人間たちは後に処刑された。でも、私の憎しみは消えなかった。私は人族すべてが悪だと思い、街や村を襲い……多くの人を殺したの。」
母さんの声が震えていた。
「でも……戦いの中で倒れた時、一人の人間の男性が私を助けてくれた。そして……その人の子を宿したのが、あなたよ。」
「……。」
「今は理解して公開しているわ。人族の全てが悪ではなかったこと、私がしてきたことの恐ろしさも……。」
母さんは俯き、涙をこぼした。
僕は、言葉を失った。
重い。
本当は、もっと気楽に、ハーレム作りに励みたかった——。
ちなみに後日、クリスの説得により僕は件を教えてもらえることになったが、
「バレット…お前はなんというか、センスがないな。エルフの血を加味しても、かなり下手だ。」
「クリス、お前はやはりワシが見込んでいた通り100年に一度の天才だ!!」
と言われた。何故だ。